90 力の正体と自分の先祖
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
『ソレニ……オ主ノ魔力、ソモソモノ根源ヲ辿レバ神々ヨリ授ケラレシモノナリ』
「な、何だと……?」
それは衝撃の告白であった。
俺の魔力が……神々より授けられたものだと? いや待て、俺はそもそも神にあたる存在と顔を合わせたことなど一度も無い。
唯一実在を確認できたデウス・エクス・マキナですら、本体の姿を拝んだことすらない。
一体いつ、授けられたと言うつもりなのか?
『存ゼヌノモ致シ方ナシ。授ケラレシ者、今ヨリ150年以上昔ノ人物。即チ――オ主ノ先祖ナリ』
「俺の……先祖!?」
ちょっと待て。歴史には詳しくないけど、今から150年以上前って……幕末?
俺の先祖はそんな時代から、こんな危険な魔力を持っていたと言うのか?
待て待て。だったら何故、今まで俺の耳に入ったことが無いんだ?
そんな噂があったら、嫌でも何処かで聞いているはずだ。
下手すれば、家族の誰かが占い師や霊媒師など、いかにもオカルト臭のする職業に就いている可能性すらある。
だが、俺の親父は普通のサラリーマン。お袋もスーパーマーケットのパート。
親戚にもオカルトの影を臭わせる人はいなかったはずだ。
『ソノ昔、世界ヲ震撼サセル重大ナ危機ガ起コッタ。オ主ノ先祖、神々ヨリ力ヲ貰イ受ケ、危機ヨリ世界ヲ救ッタ。ソノ力ノ一部ガ、子孫タルオ主ニモ宿ッテイル』
「……」
『ソレガ――我ダ』
俺の先祖も、“救世主”だったっていうのか。
だがわからない。だったら何故、俺の力――もう一人の自分は人を傷つける?
救世主なんだから、人を守る力でなければ意味は無いはずだ。
「――もう一つ聞きたい。俺は本当に“救世主”なのだろうか? それとも……悪魔なのだろうか?」
もし悪魔だとしたら……俺はどうなってしまうんだろう。
また、ショックのあまり反乱軍を抜け出すことになるのかな……?
制御できない力は、時に悲劇を生む。身に沁みってわかっていることだ。
するともう一人の俺は、こう答えた。
『力ニ善悪ノ区別ナシ。ソノ力ヲ以テ“救世主”トナルカ“悪魔”トナルカハ、オ主ノ心ノ持チ様ト、力ノ使イ方ガ決メルノミ』
「……」
明確な回答は得られず、はぐらかされてしまった。
だが、もう一人の自分が「悪魔である」と断言していない以上、まだ救いはある。
「そうだ、さらにもう一つだけ。俺は何故、この世界の住人――反乱軍の皆に“救世主”として呼ばれたのだろうか?」
『――全テハオ主ノ先祖ガ関係シテイル』
「何……?」
俺の先祖が関係している? まさか、俺の先祖がこの世界を訪れたわけでもあるまいし……。
しかしもう一人の自分は、さらに驚愕の事実を語った。
『昔、世界ニ危機ガ迫ッテイタ時、オ主ノ先祖ガコノ世界――「ギーメル」ヲ訪レタ。世界ノ根幹タル“世界樹”ヲ正常ニ戻スタメニ』
「世界樹?」
『コノ世界ニハ、魔力ヲ含ンダ空気ヲ産ミ出ス“マナ”ガ豊富ニ存在スル。オ主ノ先祖ハコレヲ用イ、“世界樹”ヲ元ニ戻シタ』
「……」
わからない。一体、この話がどのように“救世主”として呼ばれた理由に繋がるのかが。
そんな昔話、俺には全く関係が……。
『再ビ危機ガ迫リ、「ギーメル」ノ住人ハコノ先祖ノ子孫ヲ探ッタ。ソシテ、オ主ヲ発見シタ』
「どうやって?」
『オ主ノ遥カ遠縁ニシテ、同ジ先祖ヲ持ツ者ガイタ。1人ハアリス・エンダーグ。ソシテモウ1人――メリエル・シュトラウス』
「な、何だって!?」
おいおい、待て待て待て待て。
アリスと俺が親戚同士だっただと!? 信じられない、全くもって信じられない。
そもそも種族とか、全然違うだろ!? 何をどうやったら、俺とアリスが親戚という結論になるんだ?
それにもう1人、気になる名前がある。
メリエル――シュトラウス? それってまさか、俺達が探しているシュトラウス公爵家の人間?
『アリスハオ主ノ先祖ト、アル人間好キナ妖精トノ間ノ子。ソシテ、シュトラウス公爵家ノ始祖モマタ、オ主ノ先祖ノ子ナリ』
「……」
衝撃の事実が次々と明るみになっていく。
俺とシュトラウス公爵家との知られざる繋がり。アリスが俺の力の正体を知っていた理由。
そして、俺が“救世主”として選ばれた理由も。
『オ主ノ力ト、アリス、メリエル両名ノ力ニハ多クノ共通点ガ存在スル。ソノ共通点ハ、オ主ノ先祖ガ持ッテイタ力トモ類似性アリ』
「……だから、俺に“救世主”として白羽の矢を立てたわけか。だが疑問はまだ残っている」
『問ウテミヨ』
「メリエル・シュトラウスと言う人物を俺は知らない。彼女は一体、何者なんだ?」
さっきから気になっているメリエル・シュトラウスと言う名の人物。
繰り返し連呼されてはいるが、今まで聞いたことのない名前であった。
だが、もう一人の自分が告げたメリエルの正体とは――
『……サトウ・キョウコ』
「ちょ、ちょっと待て。もう1回聞かせてくれ」
『サトウ・キョウコ。ソレガ、メリエルノモウ1ツノ名前ナリ』
「嘘だろ……」
俺達が長らく捜索していたシュトラウス公爵家の末裔。
それはサトウ・キョウコ。他ならない、常に行動を共にしてきた眼鏡の少女、佐藤恭子であった。
「だがわからない。なんであんたは、恭子の正体を知っていたんだ? あんたは“俺”で、俺は“あんた”とでもいうべき存在なのに……」
自分でも何を言っているのかイマイチ掴めていない。
が、もう一人の自分が何故、彼女の正体を知っていたのか? どうしてもその理由も知りたかったのだ。
『……我ハオ主デアッテ、オ主デハナイ。ソレガ答エダ』
「……は?」
示されたのは、要領を得ない回答。
俺の頭は、さらに混乱の様相を呈していた。
次回の執筆者は、鵠っちさんです。