87 不思議の国のアリスwith部長
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
「アリス・エンダーグってどんな人?」
俺は最重要課題について尋ねた。
そもそも俺が聖光真聖会に来た2つ目の目的は、アリス・エンダーグという設計士に協力を仰ぐため。ならば、その人となりを理解する必要がある。
「もう。他の女性のことばかり訊いて、罪なオ・ト・コですね」
「い、いや……これはだな……」
「ふふふ、なんか可愛いですね」
「か、かわっ……!?」
このアヤノという女性、ウブな一面があると思いきや、人を、いや男をからかう一面も持っている。
そして男をからかう一面があると思えば、ウブな一面を残している。よくわからない女性だ。
「でも今夜の寝床では、私のことも沢山知ってもらいたいですね。心も体も♡」
「あ……ああ……」
お湯に浸かりながら、アヤノが胸に脚にと、わざとらしく俺に見せつけてくる。
イカン、いよいよ俺の理性が……理性が……。
ダメダメダメダメ! 本題に戻ろう、本題に!
「アリス・エンダーグという方は、デウス・エクス・マキナの人造魂(AI)の設計士でいらっしゃいます」
「ああ、それは知ってる。反乱軍の仲間に聞いたことがあるからな」
「……本当に知っているんですか? アリスさんは人造魂(AI)の設計士ですよ?」
「?」
アヤノは訝しげに俺の顔を覗き見る。
ん? この反応は何なんだ? 俺、変なこと言ったか?
「どうやら、まだお名前しか知らないようですね」
「あ、まあそうだな」
まあ、俺が知っているのは、指令書に書かれていた範囲のことだけだしな。実際は殆ど謎の女性だ。
「――アリスさんが人造魂(AI)の設計に関わったのは、デウス・エクス・マキナが造られた頃。つまり、今から150年以上も昔です」
「……え?」
「そもそもアリスさんは、かれこれ300年以上は生きているお方です。僅か13歳の時、設計士としての才能を開花させてからというもの、様々な建築物や機械の設計に携わり……」
「ちょっと待って。さ、300年以上生きている? そのアリス・エンダーグという人が?」
「ええ。何しろアリスさんは妖精族ですからね」
「フェアリー……」
異種族というのも、こっちの世界に来るまでは信じられない存在だった。
しかし今、俺の知り合いだけでもプリヘーリヤにオドレイ。そして今回、アリスがそこに加わった。
いや、まだ顔を合わせている訳ではないから知り合いではないが。
「数々の輝かしい実績をお持ちの方ですが、性格は……何を考えているかよく分からない方でして……」
「何を考えているか分からない?」
「ええ。何分、言動が不思議なものですから……」
「言動が不思議?」
「はい。多分、氏景様も会えばお分かりになるかと」
なんだろう、アリス・エンダーグの人物像が全く想像出来ない。
取りあえず種族は妖精族。設計士として天才的手腕を持ちながら、不思議な言動をし、考えていることがよく分からない。
個人的に、ある意味興味をそそられる人物ではある。
もっとも女性としてではなく、1人のヒトとしてだが。
「ではそろそろあがりましょうか」
「あ、ああ……」
十分お湯に浸かった俺とアヤノは、脱衣所に向かって歩き始めた。すると……。
ガラガラ……。
また別の人物が温泉に入ってきたようだ。
「あら? 誰でしょうか?」
アヤノも予想外と言った感じで、出入り口を不審そうに窺う。
だがそこに現れたのは、さらに予想外の人物であった。
「! ぶ、部長……!?」
「……お、おや。き、奇遇だねえ……」
意外や意外。別々に行動していたはずの部長が、まさかの登場を果たしたのだ。
しかも明らかに気まずそうに、俺のほうをチラチラ見ていた。
「なんで部長がここに……」
「いやー……あの……その……」
怪しかった。誰が見ても、部長の態度は怪しさ満点だった。
もしや、俺に事情を説明できない後ろめたい一面があるのか?
「す、すまない氏景。実はその……」
数回チラ見したところで、部長は突然床の上でで土下座し、事の真相を話そうとした。しかし――
「おー。しゅん、なにしてるのー?」
遮るように、1人の水色の髪の少女が部長の前に現れたのだ。
見た目から察するに、年の頃は11、2歳と言ったところ。つまりクロリスと同世代にあたる。
なんか、俺達って年下の女の子に当たることが多いな。
そもそも部長は、どのような経緯で少女と出会ったのか?
「おー。しゅん、このひとだあれ?」
「えっと、君は?」
互いに正体を探りあう少女と俺。
するとアヤノは、大きな声でこう言った。
「――あ、アリスさん!」
「……え?」
アヤノが発したのは、さらにまさかの人物。
聞き違いではないかと思い、もう一度聞き返す。
「えっと……ごめん、もう一度言ってくれないか?」
「あ、紹介します。この方こそがアリス・エンダーグさん。先ほど氏景様にお話した方です」
「おー。アリスだよー。よろしくねー」
「あ、どうも……」
如何にも不思議ちゃんなアリス。
あまりに想定外な初顔合わせに、俺は動揺しながら挨拶した。
次回の執筆者は、鵠っちさんです。