85 登頂
今回の執筆者は、鵠っちさんです。
唐突だが、ちょっと現実逃避したい。
人が歩く速さは、およそ時速4キロと言われているらしい。総本山とやらまで15キロということは4時間弱で行ける計算のはずだ。
「なあ、いつになったらつくんだ?」
「……だらしない人ですね。あと1時間くらいでつくと思いますよ」
あと1時間、あと1時間……何度「あと1時間」を聞いたことか。
ちょっとは鍛えているとはいえ、さすがにもう疲れてきた。当然ながら空は真っ黒だ。
「魔法でひとっ飛びとかできないのか?」
「できません。神聖な総本山をなんだと思っているのですか」
道に迷ったのではないだろうかとさえ疑ってしまうが、歩くペースは衰えず、受け答えもはっきりしているので大丈夫そうな気もする。結局、土地勘のない俺にはどうにも判断できずに、そのままついて行くことしかできない。
そうこうしている間に遠くの空が白み始め、俺は目を疑った。
「ようこそ。ここが私たちの総本山です。直線距離では本当に15キロくらいなんですよ?」
それまでは真っ暗でなにも分からなかったが、明るくなった今では巨大な神殿がはっきり見える。ただ、すでに近すぎて全体像を把握することは叶いそうにない。
「今までこんなのあったか?」
「簡単に見つからないように色々と対策はしていますし、この山そのものは遠くからでもはっきり見えていたと思いますよ。この一帯では一番高い山ですからね」
山だと言われて後ろを振り返ると、本当に標高が高いようで、遠くの方までよく見渡せる。今まで平地を歩いていたと思ったが、いつの間にこんなに登ってきたのだろうか。
「不思議そうな顔をしていますね。簡単に言ってしまうと、そういう魔法ってことです。昔の人の発想って凄いと思いませんか?」
だいぶ説明を端折られた気がするが、説明されても分からないだろうし、なにやら神秘めいているほうがよさそうな雰囲気なので、深くは突っ込まないことにする。
「さて、とりあえずは到着の報告と、巫女長に会っていただくので……わ、私は向こうを向いてますから、さっと体を拭ってそこら辺でこれに着替えてください」
そう言われて渡されたのは、手ぬぐいのような布と白い装束だ。
……木の一本すら遠いのだが、本当にここでいいのだろうか。
次回の執筆者は、まーりゃんさんです。