74 一歩前へ
今回の執筆者は、まーりゃんさんです。
皆に助けられ医務室で治療を受け、栄養価のある食べ物を貰い療養していた。
その間五十嵐先輩や山野、ルクレツッオ等様々お見舞いに来たが自分のしてきた事と前日の事によるショックで話しをする気にも慣れず、心を閉ざしていた。
数日たったある日、二人の男性が医務室に入ってきた。俺は視線を向けたがすぐ目を閉じた。
「おいおい、まだまだガキじゃねーか。こんなのが本物の救世主とは…」
「アッキー、そんなに悪く言わなくても……」
アッキーと呼ばれている男性は口が悪くガラも悪そうな雰囲気で椅子に座った。
「何があったのかは聞かない。だがな、いつまでもそうしているつもりだ!…ったく、恭子の頼みで来たってのに」
「氏景君。起きているだろう、少し話しを聞いてくれないか?聞いてくれるだけでいい」
俺は話しを聞く気もなかったが二人は話しを終えるまで帰りそうもないみたいで黙って首を頷いた。
「ありがとう、君の事は聞いている今までの出来事や苦労があったのは分かる。だが今立ち止まっていては何も始まらない。君の仲間も心配して」
アッキーは「ちっ」と舌打ちしてサライの言葉を遮って言った。
「サライのようにチマチマ言うのは割りに合わないから俺が言う。
よく聞け、お前は今生きている。そして生かされている。人に、世界に、この時を。誰にも何が起きるか、起こるか、わからない世界だ。だがな、いつまでもウジウジしてんじゃねー!
生きている奴はそれなりに役割ってのがあんだよ。それを放棄してテメェの人生の時間を無駄すんな」
サライは「まぁまぁ、抑えて」とアッキーを宥めているがアッキーは止まらない。
「テメェがした事とされた事なんてちっぽけで些細な事だろう。俺から見ればテメェはまだ若い只のガキだ。これからなんだよ人生てのは。
生きている奴はどんな事が起きようがどんな事になろうとも自分が一歩進まなければ生きて行けないだよ。この世界もテメェの世界もそうなんだろう?
うちにこんな家訓がある。“一日に一つ知り、一歩でも進んで生きろ”
耳にタコが出来る程聞いている親父からの遺言だ。どう解釈するかはテメェ次第だかな。俺はこの言葉で何度も救われた。
テメェみたいに打ちのめされた事やこれ以上無いって程の絶望も喰らった事もある。
それでもこの言葉でそれを知り、前に進んで今も生きている。
少々酷だがうちの子供達にも教えているが、善だろうが悪だろうが自分の人生を一つずつ知って、ここで終りだと思ったら一歩進んでから死ねと教えている。
テメェがここで終りだと思うなら、一つでもいい、一歩でもいいから、何かを知り、何かをやってから死にな。それがテメェの知っている奴や、仲間に対してのせめてもの手向けと思え」
アッキーは立ち上がりサライに「このままなら、薬品や食料の無駄だから、ほっとけ」と言って出ていった。
「ゴメンね。ああも言うけどみんなも心配になっているのは本当だよ。これは言うと怒られるけど数年前まではアッキーも救世主と呼ばれている程の活躍をしていたんだよ。今もある意味救世主なんだけどね。
彼は何度も怪我や多くの悲しみを乗り越えきたんだよ。それこそ君より達長く生きているけど壮絶極まりない修羅場だってあったよ」
そこでサライは一端言葉を停め、昔話しをした。
――当時デウス・エクス・マキナの暴走だとわかり止めようと立ち上がったのが彼と僕、そして8人の親父達だった。
何処からか流れた情報にデウス・エクス・マキナには自己破壊プログラムがあると聞いて、ある研究所に乗り込んだ。当然警戒体制の中、一階から二階まで大きな溶鉱炉があり、三階からは数々の研究室で機械兵を作る装置もあった。
――何とか僕と彼と彼の親父はメインシステムの部屋までたどり着いた。そこで始めて罠だと気付いた。
そう、何者かによって研究所に爆弾が仕掛けられていた。親父達と研究員をまとめて消そうした奴がいた。
――当然即避難しようと脱出しようとしたがドアを出たとたんに爆発が起こり、僕達は爆風によって飛ばされた。
爆風の中咄嗟に何か捕まり難を逃れたつもりだったが数々の爆発と爆風によってまたも僕も飛ばされた。
――そして運が悪かったのか、僕はアッキーの右手に掴まって僕の左手にはアッキーの親父が掴まっていた。
アッキーの右手一本で二人で宙ぶらりん状態だった。下に鉄を溶かす溶鉱炉が壊され、中の溶鉄が煮え切って流れていた。
「その時は僕は間に挟まれて腕が痛かったが、落ちれば溶鉱炉で死ぬのが怖かった。でも絶対手を離したくなかった」
――研究所はまだ爆発している。天井も壁も崩れてきている。いつアッキーが掴まっている手すりが壊れてもおかしくなかった。
「サライ絶対離すなよ。親父!サライの足に掴まって登ってこい。俺は絶対手を離さないから」
――アッキーが親父に伝えるも爆発はまだ続いている。がアッキーの親父は僕の手を振りほどき離した。溶鉱炉に落ちる最中に言った言葉も「一歩でも進め!」だった。
――このままでは三人とも助からないだろうと自ら落ちた。アッキーは親父が溶鉱炉に落ちるのを見ていたはずだ。だがアッキーは僕に「両手を掴まって上がってこい」と言ったんだ。
――悲しみに嘆いている間無かった。僕達二人は命からがら脱出できたがあまりにも大きな代償を失った。助かったのは僕達二人だけだけだった。その後アッキーは一言も僕を責めなかった。彼も分かっていた。あのままで絶対に誰も助からないと…。
――誰があの研究所を爆発しようと企んだ奴を探していたが見付からなかった。
その後もデウス・エクス・マキナの研究者や調整員、関わる全て徹底的に調べていた。そこで恭子達と出会った。
――そこらかは反乱軍に協力してきた。彼の徹底した情報の有無や作戦の指揮のおかげで負傷者や死者の数は激減し、被害にあった人には救済に当たっていた。
仲間や民達からからは救世主ではないかと言われていたが、彼は「ちげーよ。でも一人でも救い出せるなら救世主役でもなんだってやるさ。それが俺の一歩進む道だから」と答えた。
そしてある日、機械兵との戦いの最中部隊の仲間を救うべく救助に行ったが右足を失った。義足を着けても立ち上がり出来る限りの事をした。
――ある街で孤児や身寄りの無い人達、ご飯を食べてない人がいるのを見て彼は何かをして救いたかっただろう。
彼はそこでパン屋を始めた。もう自分の足では迷惑がかかっていると知っている。なら自分の知っている知恵や技術的な物を教え、誰かを生かす道を一歩をまたも一歩と一人一人救っていた。
「今ではガキ共の救世主的なオヤジになっているがね」
サライの語るアッキーとの道には言葉には表せない強さ的な物があった。思わず「強いですね」と答えてしまった。
「強いか……そう見えるかい?確かに強い人もいるけど僕達は強いだけではないよ。僕はね、人は一つずつしか出来ないし、一歩ずつしか進めないと確信している。だから一つ一つを自分で行かなきゃと僕は思うんだ。その一つ一つが君達には強く見えると思っただろうね。
他の誰かも君の活躍を見て君は強いと思うだろうね。だから君を責めない。だけど覚えてて貰いたい、苦境を乗り越えろとか、立ち向かえとか言わない。君はまだ若いやれる事は多い、出来ないなら甘えていいし、仲間に頼っててもいい、迷惑をかけようとも、裏切ろうとも、善だろうとも悪だろうとも一歩進んで欲しいんだ。
君が歩んだ道こそ、君の強さで君の人生だ。僕からは以上だよ。あとはオジサンに任せなさい」
そうしてサライも医務室を出ていった。
次回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。