73 この世界のために……?
今回の執筆者は、鵠っちさんです。
「どうした? 食べないのかい、氏景くん。ああ、生が嫌なんだね。じゃあ焼いてあげるよ」
そう言うと、エーリッキは魔法でミローユ――ミクローシュの体を炎に包んだ。
そうじゃない。そういうことじゃないんだ。しかし、ショックのあまり意味のある音を作ることができない。
「ああ、ごめんね。ちょっと火加減間違えたよ。あっはははっ!」
「お、おまえ……」
ミクローシュの体は骨さえ残さずに燃え尽き、地面には焦げ後だけが残った。……こんなの、あんまりだ!
「なんだよ氏景くん。せめてお前の血肉にでもなれば、彼の死も少しは報われたかもしれないのに。残念なことをしたねぇ」
なんだよこいつは。ちょっと前までは仲間だったんだろう? なんでこんな、躊躇いもなく……。
「お前、なんなんだよ。人を殺して、楽しそうにしやがって……」
「別に楽しくてやってるんじゃないさ。これがこの世界のためなんだ。お前だって、この世界のためにわざわざ連れてこられたんだろう? だったらさ、お前が否定できることじゃないんだよ」
そうだ。俺が来た理由はこの世界を救うため。その事実は変わらない。でも……!
「俺は人殺しをするためにこの世界に来たわけじゃない!」
人殺しをするためにやってきたわけではないのだ。デウス・エクス・マキナの暴走を止めるために倒さなければならない相手もいるだろうが、それは最後の最後。無差別に人を殺すなんてことを許容するつもりはない。
「強情だね。殺さないようにとは言われてるけど、別に傷つけないようにとは言われてないんだよ。抵抗しないなら普通に連れて行ってあげるし、今ならまだ取引も有効でもいいよ。抵抗するならちょっと痛く
して無理やり運ぶだけだし、取引は無効。早く決めた方が身のためだよ」
今度は脅迫か。周りには機械兵もいるし、今の俺には勝ち目がない。機械兵に攻撃されれば、ちょっと痛いで済むことはないだろう。ここは従うしかないのか……。
「氏景ぇぇぇぇ~~! いたら返事をしろぉぉぉぉ~~!」
この声は……山野の声か! 五十嵐先輩や部長の声、それに数十人の隊員たちの声も聞こえる……!
「ううむ、さすがにこの人数が来られたら分が悪いな。しょうがない、今回はこれでお暇するよ。じゃあね」
俺はどうやらみんなに助けられたようだ。しかし、緊張の糸が切れたようで、それまでの空腹と相まって……その場に倒れこんでしまい、結局誰の顔も見ることはなかった。
次回の執筆者は、まーりゃんさんです。