72 相方、突然の死
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
「おーい、ミローユ! どこ行ったー?」
森の中を捜索し始めて、既に3時間が経過。
しかし、ミローユの姿は一向に発見出来ていない。
24時間以上もほったらかしにしとくとは……本当にミローユの奴、どこ行ったんだ?
それに――
(何か、胸騒ぎがする……。心配だ)
だがそう心配したところで、腹が満たされる訳ではない。
ああ……。歩いていくうちに段々、目が……。
いや、それでも俺は耐えなきゃならない。あいつを――ミローユを見つけないと、お互いの身の安全を守れないからな。
懸命にミローユの行方を探し続ける俺。
しかし俺の望みは、完全に絶たれることになる。
「み、ミローユ……」
茂みの間から偶然目に飛び込んできたのは、なんと両腕両脚を切り落とされたミローユの姿。
木の枝から吊るされている上、斬られた面からは大量の血と肉が飛び出て、頭部も血だらけになり項垂れている。
しかもミローユの近くには、多数の機械兵と1人の蒼い髪の少年。
ミローユをそんな目に遭わせたのは、恐らくそいつらだ。
「あいつら……なんてことを……」
それにあいつの顔、どっかで見覚えがあるような……。
「――ふう、困ったことをしてくれたものだね。ミクローシュ」
「あ、あんたは……誰……なんだ」
「はっ、お前はとうとう頭がイカれたのかい? つい最近まで一緒に行動した仲じゃないか」
「し……知ら……ねえ、な……」
よかった、ミローユはまだ生きていた。でも、大量に出血して危篤状態なのは間違いない。
銃は……あるな。一刻も早く連中を掃討し、手当てをしないと!
「やれやれ。セレドニオとイゾルダを殺し、マキナ教団に居られなくなったのは分かる。でもね、いくら存在を隠し逃げようと、現実からは逃れられないのだよ」
「そう……かよ……」
「じゃあ、ケジメはつけてもらおうかい。お前は特段、優秀な人材じゃ無かったみたいだから……」
蒼髪の少年の命令で、機械兵がミローユを惨殺しようと剣を大きく振りかざす。
このままではミローユは本当に死んでしまう。
だが向うは俺の存在に気づいていない。撃つなら――今だ!
――ところが、俺は撃てなかった。
銃を構えたは良いが、魔力を込めることが出来なかったのだ。
魔力が枯渇した? いや、違う。むしろ魔力自体は溢れている。
きっと原因は、俺が反乱軍を抜け出す理由となった例の大量虐殺。
あの時のトラウマが、友人を助けようとする意志を妨害してしまったのだ。
「Go to hell」
「ぐわああああああああ……!!」
結局俺はまた何も出来ず、ミローユは機械兵に殺されてしまった。
吊るされているのは、彼の首ただ一つ。
胴体は頭部から強引に切断され、ついには地面に落とされた。
(くそ……! 俺は何でこういう時になっても、自分の力を開放出来なかったんだ……! ミローユと組んで、これから精一杯生き延びようと思ったのに……)
俺は哭いた。自らのあまりの不甲斐なさに。
だが、これはあんまりじゃないか……。
役立たずには、友人を持つことすら許されないというのか……!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ…………!」
「おや、居たのかい。救世主の少年くん」
「……!」
すると、ミローユを斬首した蒼髪の少年が俺の近くに寄ってきた。
機械兵に、切断させたミローユの死体を持ち運ばせながら。
「――なるほど。ミクローシュはこの少年と落ち延びようとしたわけか。だがそれだったら、ぼくも殺すべきだったね」
「あんたは、一体……誰、なんだ……?」
「そうか、お前に対しては自己紹介してなかったね。ぼくはエーリッキ・ヒルトゥネン。統括理事会の構成員の1人さ」
――ようやく思い出したよ。コイツも確か、ミローユやセレドニオ、イゾルダと共にフセヴォロドグラートの研究所に現れた奴の1人だ。
まさか、こいつとも再会しようとはな……。
「取り敢えず、涙を拭いたらどうだい? ハンカチぐらい貸してあげるからさ」
そう言って、ズボンのポケットからハンカチを取り出し、俺に差し出すエーリッキ。
だが、俺はその手を弾いた。
「……いらない。誰があんたみたいな奴からハンカチを借りるものか」
「そうかい。それはつれないね、救世主の少年くん。いや、砺波氏景くん」
「は……ははははは。誰だそれ? 俺の名は、ノンフーと言って……」
「やれやれ、嘘はいけないね氏景くん。大方、ミクローシュと同じく隠れて暮らすつもりだったのだろうけど、お前の顔は理事会や教団に既に知れ渡っているんだよ」
「そうかよ……」
「それに、ぼくとお前は一度フセヴォロドグラートで会っているじゃないか。でもね、お前もさっきの話は聞いていたのだろう? いくら存在を隠しても、現実からは逃れられないのだと」
なんだよこの世界……容赦なく俺の心を踏みにじり続けやがって……。
どれだけ俺を虐げれば気が済むんだ、この世界の神は?
確かデウス・エクス・マキナ以外にも、神はいるって話だったよな?
トリスタンが教えてくれた話、もし本当なら俺を助けてくれよ……。
もう、俺の心は限界だ。
「ところで、血書はどうした……?」
「血書?」
「白地のシャツに、血文字が書かれたものだ。あれ……どうしたんだ?」
「ああ、これね」
エーリッキの横にいた機械兵が、血書を前に掲げる。
「これ、バレるとさすがに色々マズいし、こうして……」
「や、やめろ……」
ビリビリビリビリ……!
「おしまい」
エーリッキは血書のシャツを、無慈悲にも機械兵に破り捨てさせた。
くそ、俺が痛みと空腹を堪えて書いた血書なのに……!
「こんなもの、どうだっていいよね。それより氏景くん、ぼくと取引しないかい?」
「あんた……俺の今の気持ち、分かって言ってるのか?」
「やれやれ。取引に応じてくれたら、多少なりとも統括理事会の内部事情を教えてあげようと思ったのにね」
「内部事情だと?」
「お、取引に応じてくれるのかい?」
「嫌だな」
内部事情? そんなもの、ミローユから粗方聞いた。
今更教えてもらうことなど、何一つない。
「そうかい。だったら仕方ない、ね。お前もミクローシュのように、耐えがたいほど辛い目に遭わせてやるよ」
「殺すのか……?」
「いや、理事会からはお前をなるべく殺さないようにと命令が来ている。だから……」
そう言ってエーリッキは機械兵に命じ、持っていたミローユの死体を乱暴に俺の前に投げ捨てさせた。
「食べなよ」
「……は?」
「お前、その様子だとしばらく食事をとってないのだろう? だから食事を与えるよ」
「食事? そんなもの、どこに……」
「あるよ。目の前に」
「目の前に……? ――まさか……」
俺はミローユの死体に目を配る。
「お前の友人、ミクローシュの死体を食べな。そして統括理事会に入るんだ」
エーリッキは、この上なくグロテスクな命令を俺に与えたのだ。
次回の執筆者は、鵠っちさんです。