70 泣いて
今回の執筆者は、鵠っちさんです。
ミローユの話を一通り聞き終えた俺は、その話の内容に絶句した。
いまさら嘘を言うなんてことはないだろうが、それでも信じたくはなかった。あの目を覆いたくなるような出来事は、そんなことのために行われていたのかと。
「ノンフー! どこへ行くつもりだ!」
「知らせないと……。行かせてくれ!」
無意識に走り出した体を押さえ込まれた。対面したミローユの表情には怒りの様相が滲んでいるように見える。
「行ってなんになる? 連中が意図的に暴走させてる事実は変わらないし、アンタが戻ったところでアイツらにもどうにもできない!」
言われてハッとする。
確かにミローユの言う通り、俺が戻って聞いたことを伝えたところで、反乱軍はこれまで通り、統括理事会とマキナ教団を打倒する以外の選択肢はない。敵対する意味がより明確になるだけで、なんの解決にもならないのだ。
「すまないミローユ。少し考えてから動くべきだった。しばらくひっそりと生きたいって言ったばかりなのにな」
「なぁに、アンタにとってはそれだけアイツらのことが大切だったってだけさ。……その感じだと、追い出されたわけじゃあないんだろ?」
「ああ、俺は――」
俺はフセヴォロドグラートを出発してアミリアについてからのことをミローユに詳しく聞かせた。
津波で大勢が死んだこと、食料がなくて近くの町に出向いて分けてもらったこと、その後に数百人を任されて行った街々の惨状、飢えていく仲間たちの様子、俺が暴走に至った前後のこと、そして最後に恭子の制止を振り切って街を出たこと。
そのときに何を思ったのか、何ができなかったのか、何がしたかったのか……。思い出すことが辛くて、何度も何度も涙で中断しながらやっと話し終えたのは、もう日が昇り始めるころ。
「アンタもなんだか大変だったみたいだな。……今は泣け。泣いてから少し眠れ」
話を続けるのが辛くて、脈絡も無くてわけが分からない部分もあっただろうに、それでも最後まで投げ出さずに聞いてくれたミローユには感謝するしかない。
「さあ、アンタが目覚めてから食料を獲りに行くぞ。しっかり休めよ」
ミローユの優しい声音に誘われて、ぷっつりと意識を切らした。
次回の執筆者は、まーりゃんさんです。