64 どいてくれ
今回の執筆者は、鵠っちさんです。
言ってしまった。おそらく言ってはいけないだろう言葉を。
「氏景さん、今、なんて……?」
恭子を始め、皆驚いたような顔をして俺のことを見ている。クロリスなんて完全に軽蔑しきった目をしているし、イオカスタでさえ、表情に失望の色が浮かんでいる。
「もう救世主なんて辞めてやる! 俺は任された人たちを死なせてしまった……。力を使い果たして、挙句にまたぶっ倒れて……。俺は、おれはァ! ……救世主なんて器じゃないんだ!」
俺は救世主なんてカッコイイ存在じゃない。
部長のようなリーダーシップがあるわけでもなく、五十嵐先輩のように体力があるわけでもない。山野のようなポジティブさにも欠けている。
そんな俺になにがあるっていうんだ。
「待って! 氏景さん!」
一応お辞儀をしてその場を後にすると、恭子が静止の言葉とともに腕を掴んできた。
その手を強引に振りほどくと小さな悲鳴が聞こえたが、それに構うことなく街の出口へ向かって足を進める。
「氏景さん! 待ってください!」
なおも追い縋る恭子がようやく追いついてきたのが、街の出口まであと数十メートルといったところ。そこで俺の前に通せんぼするように両手を広げて立ち塞がった。
「ダメです、氏景さん。これより先へは行かせません。一緒に戻りましょう? 皆さん、氏景さんが目を覚ますのを心配して、待ってた、ん……ですから……」
「どいてくれ。俺は、もうここにはいられない」
恭子もよほど心配してくれていたのだろう。最後のほうは涙声になって、ついには泣き出してしまった。
最後の最後で好きな女の子を泣かせるだなんて、最悪だな、俺は。
そんなことを考えつつ、膝を突いてむせび泣く恭子を尻目に、街の出口へと進んでいく。否、進もうとしたのだが、恭子の横を通り過ぎようというところで、恭子の腕が足に絡みついてきた。
「絶対に行かせませんよ。私、最初に思ったんです。……氏景さん、貴方しかいないって!」
「こっちの世界の人たちだって、部長だって五十嵐先輩だって山野だっているじゃないか!」
俺しかいないわけがないじゃないか。ほかでもない恭子に連れられて、空想世界研究部のみんなで一緒にこの世界に来たのだから。
次回の執筆者は、スーパーキンモクセイさんです。