57 慣れない指揮官、そして虚無感
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
こうして俺達は、4つに分かれた。
まず俺や恭子、そしてヨルギオスたちエグザルコプロス一家率いる400人の部隊は、アミリアから真北に直進するルートを進むよう指示された。
山野とオドレイ、プリヘーリヤ率いる450人の部隊は、北西よりに進路を取ることに。
そして五十嵐先輩とルクレツィオ率いる450人部隊は、南西の村を目指すことになった。
反乱軍の総司令官たるオズワルトと部長率いる700人の中枢部隊は、アミリアにそのまま駐在するそうだ。
これは、機械兵などがアミリアを占拠することによる部隊間の分断、孤立を避けるためらしい。
そして作戦の内容についてだが、今回は進路上にある数々の農村全てから食料を分けてもらうというローラー作戦に決定した。
なお作戦終了後、オドレイは一度俺達の元を離れ、他の地域にいる反乱軍部隊の武器を調整に向かう予定である。
◆◆◆◆◆
翌朝、俺達はアミリアを出発した。
ルートは、昨日食糧調達のために訪問した村に続く道だ。
「――しかし、啖呵を切ったはいいけど、俺って人を指揮したことが無いんだよな。どうすんべ……」
小学校や中学校の修学旅行では、自主研修の班でリーダーをやったことはある。
けど実質的な発言権は全くなく、班員によって自主研修が好き放題滅茶苦茶になったが挙句、仕事と責任だけを押し付けられた記憶しかない。
つまり、傀儡リーダーという名の奴隷である。
「大丈夫ですよ。私たちもついていますから」
「心配することは無いぞ。ワシも若かりし頃は、祖国の陸軍で中佐だった。指揮に関するアドバイスは、ワシがするぞ」
「ありがとう、皆……」
さすが反乱軍の皆は頼もしいな。
全員、この世界の現状を知っているために、互いに助け合おうという意思が強い。
それに何より、俺は“救世主”なんだ。デウス・エクス・マキナに対抗できる非常に貴重な存在として、求心力はあるはずなんだ。……多分。
「何泣いてんの、バッカじゃないの。アタシ、あんたのこと嫌いなんだけど」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん。この人救世主なんだよ? そんな悪口言っちゃ……」
「救世主気取りの、ただのヘタレじゃん」
「口を慎まんか、クロリス! すまんな救世主殿、クロリスは昔から口の悪いバカ娘での。次女のイオカスタは良い子なんだが」
「い、いえ」
「ふん」
「お、お姉ちゃん」
うわあ、今初めてヨルギオスの娘の会話を聞いたんだけど、クロリスって生意気な奴だったんだな。
それを必死に抑えようとするイオカスタも、結構苦労していそうだけど。
いいさ、クロリスの言う通り俺はヘタレだよ。それは昔から言われ慣れていることだ。
子供の悪口に真正面から向き合う気にもならない。
「ところで今更ながら疑問に思ったんだけど、反乱軍の総司令官であるオズワルトや補佐官のトリスタンって、昔は何やってたんだ? あれだけの兵力を率いるって、並大抵の人間には出来ない気がするんだけど」
今、400の兵を率いているだけでも俺には結構な負担だ。
だが反乱軍の総兵力は、聞くところによると7万人もいるらしい。
俺としては、よくオズワルトはそれだけの兵力を統率できると感心しているところだ。
「リーダーは反乱軍を結成する直前まで、南西にあるメーア共和国の陸軍中将だったそうです。そしてトリスタンさんは、各国の研究機関をはしごする世界的な研究者だったとか」
「へえ……すごいな」
そんな凄い人と俺達は普通に会話していたのか。
素性なんて明かされなかったから、全然実感が無かった。
そう考えると、『空想世界研究部』も一介の高校生の部活の枠に収まらないビッグな組織になりつつあるのかな。
「それより、村はまだなの? いい加減、お腹空いたんだけど」
「お姉ちゃん、そこは我慢しようよ。ボクだって空いているのに……」
そう言えば出発してからもう4時間後か。
この先には、昨日食料の調達のために立ち寄った村があったな。
さすがにさらに食料を貰うわけにもいかないし、お礼だけして先を急がせてもらうか。
食糧調達は、他の農村でもできるしな。
◆◆◆◆◆
ーーだがその村に到着したその時、俺達は非常に残酷で虚しい場面に遭遇した。
「ど、どうか……その食糧だけは持っていかないでくだせえ……」
ある農家の前で、家主と思しき男性とその家族が、見知らぬ黒服の組織に土下座しながら懇願している様子が目に入ってきた。
黒服の組織の手には、村の畑で作られた貴重な食料が。
しかし、黒服の組織はあまりに無慈悲な連中だった。
「それが無いと、オラたちの生活が……」
「うるさい、死ねエエエェ!!」
「ギャアアアアッ!!」
黒服の男たちが叫ぶと、傍にいた機械兵がマシンガンで家主の男性を容赦なく撃ち殺した。
状況から考えて、機械兵は黒服の男たちが操っているようだった。
「あ、あなた……いやあああああああ!!」
「あ……アイツら!!」
「なんということを……」
その残虐な光景に、俺の中に憎しみの感情が沸々と湧きあがってくる。
率いてきた反乱軍兵士の中にも、俺に同調するものが何人もいた。
しかし黒服の組織はそれに構わず、
「耳障りだよ、このアマ。少し黙れ」
「キャアアアアアアアッ……!!」
ドドドッという音を立てながら、家主の妻をも同じくマシンガンで蜂の巣にする。
「さっさと永眠しろってんだ」
「……」
「う……うわああああああああん!! お父ちゃあああああああん、お母ちゃあああああん!!」
目の前で親の命を陰惨にも刈り取られた子ども達が、大声で泣き出してしまう。
こ、これが人間のやる事なのか……。
俺は正直、許せないという感情よりも信じられない気持ちでいっぱいだった。
「あの者どもは本物の悪魔ぞ! 1人ずづ始末するとは、あまりにけしからん殺し方ぞ! 救世主殿、早急に兵士達に命令して彼奴らを討つのだ!」
「あ、ああ!!」
ヨルギオスにアドバイスされるまま、俺が部隊に命令を下そうとすると、黒服の組織も俺達の存在に気づいたようだ。
「あ? なんだテメェら……って、叛逆者どもか」
「これ以上の狼藉は許せません! 直ちにこの村から出て行って下さい!!」
だが黒服の男たちが恭子の勧告を素直に聞くはずもなく、それどころか連中は農家の子供達を強引に自分たちの前方に引きずり込んだ。
「……そろそろ他の連中も仕事が終わった頃か。じゃあ、出ていく代わりに……」
そう言ってリーダー格と思われる男を筆頭に、黒服の組織は暴れ回る子ども達を力づくで抑えつけ、あまつさえ全員が鈍器を片手に構える。
「ま、まさか……」
「公開処刑だな」
リーダー格の無感情な発言。
そして振り下ろされる鈍器。
俺達は腹の底から、悲鳴を上げた。
「や、やめろおおおおおおおっ……!!」
――ドンッ……。
だが冷酷にも、大きくて鈍い音が俺達の耳に入る。
黒服の男たちが立ち上がると、その下には大量の血を流した稚児の姿が。
無情なことに、子ども達は一瞬にして息しないただの肉塊と化してしまった。
「……ふ、ふははははっ、ふはははははははは!! はーっ、はっはっはっはっはっはっ……!!」
そして黒服の男たちは、子ども達の死体を見下ろしながら、発狂したように凶暴な大声で笑った。
遠くの山々まで響き渡るほどの大声で。
それは人を殺したというより、獲物を狩った時の喜びを現しているように思えた。
眼前の殺戮を止められなかった俺は、どうしようもない虚無感に襲われた。
次回の執筆者は、鵠っちさんです。