55 人気者プリちゃん
今回の執筆者は、鵠っちさんです。
「うむ、食料も早急に確保しなくてはならないな。プリヘーリヤはまだ体力がある者を連れて行け」
十五キロということは、片道三時間から四時間ほどだろうか。帰りは荷物が増えるからもっとかかるだろう。
部長は山野とオドレイの下敷きになっていたために、山野はオドレイとのキスというハプニング(かどうかは不明だが)のために少しおかしいので、俺と五十嵐先輩とヨルギオス、それから数名の隊員と共に北へと歩き出した。
「なあプリヘーリヤ、これから行くところはどんなところなんだ?」
「どんなところもなにも、普通の農村だよ。特になにかの拠点になってる村ではなかったし、別に貧しい村でもなかったから、まあ、普通だよ」
その普通というのが俺達の思う普通と同じかどうかは、行ってみなければ分からないが、とりあえず、悪い村ではないらしい。アルバイトしてたって言ってたしな。
しかし、この世界で『普通』といわれるようなところに行くのは初めてかと思うと、少しだけ楽しみにもなる。
「あれ、プリちゃんじゃない?」
「お久しぶりー! みなさん元気でした?」
村に到着するなり、俺達はプリヘーリヤ共々手厚い歓迎を受けた。どうやらこの村でプリヘーリヤはかなり人気者だったらしい。
「……そうか……先の地震で津波か。でも困ったね。こちらとしても助けてはやりたいが、さすがに2000人分となると、自分達の食料がなくなってしまうよ」
この村はそれほど大きい村ではないので、全ての備蓄を開放したとしても全員に二食目が行き渡らないだろうとのこと。しかしそれをしてしまうと、今度はこの村で何かが起きたときに対処できなくなってしまう。
「とりあえず、明日の朝の分だけいただければ。他の街や村にも掛け合いに動いている……と思うので、それだけあれば今倒れそうな人たちも元気付けられると思いますので……」
「まあ、今このときも苦しんでるやつがいるのは分かったから。全然足りないとは思うが、弱っているやつに優先的に食べさせてやってくれ」
だんだんと言葉尻が下がっていくプリヘーリヤに、さすがに哀れに思ったか、とうとう根負けしたらしい。
気前よく、というわけではないが、およそ千人が一食ありつけるくらいの食料を譲ってくれた。
村を出るときに、プリヘーリヤに「達者で」とか「またね!」とか言ってくる人がいるのを見て、人脈ってすごいな……と思った。
次回の執筆者は、まーりゃんさんです。