54 元・貴族
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
俺と恭子は、すかさずプリヘーリヤたちの元に近付いていった。
「プリヘーリヤさん! 無事ですか?」
「うん、全然大丈夫だよっ。竜人族は水にも強いからね~」
プリヘーリヤもずぶ濡れではあったが、怪我はない様子だった。
「ところで、そこのお連れさんは誰なんだ?」
「ええっとね、あたしが3、4年前にこの街で見かけた貴族の末裔とその家族……てところかなっ?」
「何?」
プリヘーリヤの隣にいる男性が、その末裔と言ったところか。
にしても、津波に巻き込まれたはずなのに全く濡れてないな、この人。
服はイメージに違わず穴や継ぎ接ぎだらけで、顔も髭で覆われているが。
「小さな防水用の魔法を発動させるので精一杯だったよ。何せ急な事だったからねっ」
「はっはっは! おかげで助かったぞ」
にしても、みすぼらしい格好をしていたと言うからホームレスか何かと思っていたけど、日本で言う中学生ぐらいの娘さんが2人もいるとは驚きだ。
そうだ、これだけは聞かなきゃな。
「それでその貴族ていうのは、もしかしてシュトラウス公爵家とかなのですか……?」
「シュトラウス公爵家……? いやいや、違うぞ。ワシの名はヨルギオス・エグザルコプロス、エグザルコプロス子爵家最後の当主ぞ」
「え……エグザルコプロス子爵……?」
初耳ワードが出てきたぞ。確かにプリヘーリヤの言う通り、目の前の男性は昔は貴族だった人物ではあるが。
「されどワシらエグザルコプロス家は、先代当主の時代まではシュトラウス公爵家と交流の深かった家柄ぞ。国は違えど、領地も隣接しておってな」
「エグザルコプロス子爵家……ああ、音楽の世界で名を馳せた一族ですね。しかし約20年前、内乱罪で一家全員国外追放されたとのことですが」
「それは全くの濡れ衣ぞ。それなのに国の最高裁判所は、証拠を捏造して無実の罪をでっち上げた……。だがワシは諦めぬ、諦めぬぞ。ワシは再び貴族としての地位を奪還するぞ!」
なるほど。ヨルギオスが発言した「昔は貴族だったんだ」というのは、彼なりに誇りを維持しようとしてのことだったのか。
「されど、ワシの故郷への夢に付きあわせたばかりに、こちら2人の娘に苦しい思いをさせるのは忍びないとも思っているぞ……」
「む、娘……」
同じく娘を持つ親として、プリヘーリヤもヨルギオス同様暗い表情になる。
プリヘーリヤも自分の娘に苦労を掛けさせていることに、負い目を感じているのだろう。
ちなみにヨルギオスの娘は、姉のほうがクロリス、妹のほうがイオカスタと言う名前だそうだ。
「せめてクロリスとイオカスタに十分な食事を与えてやりたいのだがな……」
「食事……ですか。けれど、私たち反乱軍の食糧は津波で流されてしまいましたし……」
地震と津波が起きたのは、ちょうど夕食の時間だった。
運んできた食料は平野の上に保管していたため、現在は米一粒、食パン一切れたりとも残っていない。
エグザルコプロス一家に食べさせてあげる食糧など、全く存在しなかった。
だがここで、プリヘーリヤからある情報が。
「恭子ちゃん、あたしこの近くの農村を知っているよ。ここから北に15キロ進んだところにあったはずだよ」
「その話は本当ですか?」
「うん。あたしも時々、アルバイトとかで訪れていた村だから」
「有難き幸せ! それでは、すぐに向かおうぞ!」
「ちょ、ちょっと待ってください! リーダーに許可を貰ってからにしてください!」
そうだ、今の反乱軍は救助活動に追われているんだった。
まだ行方不明者も沢山いるから、人手不足も深刻なことだろう。
もっとも、俺達がやろうとしているのは食糧調達だから、許可が下りる可能性も十分にはあると思うが。
ともあれ、俺達はオズワルトの元へ急行した。
次回の執筆者は、鵠っちさんです。