48 かつては同僚、今は敵
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
~sideルクレツィオ~
俺は、まず4人の中で最年長にして痩せ型の長身の男――名はセレドニオ・グラナドス――に質問した。
「訳がわからねえぜ。この瓦礫の山に何の用だ?」
「……」
だがセレドニオはなかなか返答に応じず、黙りこんだ。
セレドニオは統括理事会の所属にして、デウス・エクス・マキナの調整員を今でも務めている男だ。
セレドニオと俺は歳の離れた元同僚で、一緒に研究や管理の仕事をしていた時期がある。
ただ、調整員は仕事場を転々することが多いが、セレドニオ自体はフセヴォロドグラートに来たことは無い。
『真紅の学園都市事件』発生時は、奴はここから北西に100キロメートル進んだところにある、工業都市フリューゲルスベルクの研究所所属だった。
しばらくすると、セレドニオはようやく口を開いて打ち明けた。
「いやなに、我々はデウス・エクス・マキナの重要資料を取りに来ただけですよ」
「……意味わかんねえな。お前は統括理事会所属だろうが。重要資料ぐらい、理事会の本拠地にいくらでもあるんじゃねえのか?」
「それが、統括理事会も一枚岩ではないものでしてね。我々を裏切り、重要資料を持ち込んで君たちのような叛逆者に組する人が後を絶たないのですよ」
「だから、未だどの叛逆者も占領していないこの研究所に目を付けた」
セレドニオと俺の話に割り込んできたのは、無表情な青髪の修道女。
名前はイゾルダ・コヴァルスカ。このフセヴォロドグラート研究所で度々顔合わせをしたことがある女だ。
「イゾルダ……お前、まだマキナ教団に居やがったのか。お前だって『真紅の学園都市事件』の被害者だろうが。なんで教団を辞めたりしなかったんだ?」
「神は決して間違いを犯さない。なぜなら、真の正義とは神だからな」
ちっ、まだそんな幻想から目が覚めねえでいるのかよ……。
確かに俺も事件が起こるまではそう信じてたが、今は違う。
もういっぺん、自分が信じていることが本当に正しいのか顧みてくれ。
「とにかく、その手に持っている資料をこちらに渡してくれ。ほら、昔の誼でよ」
「……やはり変わりませんね。一度心に決めたことを必ず貫き通そうとするその姿勢」
「わかってんなら……」
すると、セレドニオはやれやれと言った風にある条件を突きつけてきた。
「では、条件を与えておきましょうか。『シュトラウス公爵家』の末裔を連れてきなさい。そうすれば、この重要資料は君に差し上げましょう」
「シュトラウス公爵家、だと?」
シュトラウス公爵家。
今から50年前まで、シュトラウス公国という小さな国を統治していた貴族の家だ。
だが50年前に大国間の戦争に巻き込まれ、かなりの間持ちこたえたが、結局滅亡したとの話も聞いている。
その後、公爵家の人間は完全に消息不明だ。
「なんで、亡国の貴族の末裔が必要なんだよ?」
「やれやれ、君も調整員をやっていたのなら知っているはずでしょう? シュトラウス家は、デウス・エクス・マキナの本体に直接触れることのできる非常に数少ない家系ということくらい」
「ああ、それは知ってるぜ。けどな、非常に数少ないとは言っても、他にもデウス・エクス・マキナに近付ける奴が統括理事会にはいたはずだぜ?」
「その貴重な人たちも、君たち反乱軍との戦闘で戦死してしまいましてね。反逆者に組した者に関しても、我々が始末してしまいましたし。ですが……」
そう言ってセレドニオは、足元に注意を払いながら一息置いてこう言った。
「未だ生死不明の貴族の末裔なら、もしかしたら生き延びているかもしれないと思いましてね」
「……そうかよ」
そうか、最近機械兵の活動が妙に鈍り始めているのは、統括理事会にデウス・エクス・マキナに近づける連中がいなくなったからか。
デウス・エクス・マキナ自体は遠くから機械で制御できる部分もあるが、直接触らないと動かせない部分もある。
しかし、統括理事会も随分と間抜けなものだ。そんな貴重な奴ら、前線に置いとくなよ。
……いや、ブラフの可能性も無くはねえ。いくら旧知の仲とは言え、そこんとこは気をつけねえとな。
「取り敢えず、シュトラウス家の末裔を我々に渡していただけることを期待していますよ。では」
「もう一度、自らが為すべきは何か考えてほしい」
「……ちっ」
セレドニオが一礼した後、先客の4人はテレポート用の魔法『ムーヴ』使って重要保管庫を静かに後にした。
「……ねえルクレツィオくん。リーダーにどうやって報告するのっ?」
「大事な資料を持っていかれて、このまま引き下がるしかないように思うが」
救世主、そんな後ろ向きなこと言うんじゃねえよ。しかし、重要資料は奴らが既に確保している。
だがプリヘーリヤの言う通り、手ぶらで帰るわけにもいかねえ。どうする……?
「……しゃあねえ。重要な資料でなくてもいい。なんか情報になりそうな物を探していくしかねえ」
俺達は、紙やファイルが至る所に散らかっている保管庫の中を探し始めた。
次回の執筆者は、鵠っちさんです。