43 試用、そして『真紅の学園都市事件』
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
部長を除く俺達3人の武器のテストには、製造者たるオドレイが付き添っていた。
彼女曰く、魔法の素質がある程度均質化されているこの世界の住人に対し、大量の魔力を秘めている俺達に、果たして自分が加工した武器が適合するのか確認したいそうだ。
ちなみに部長の武器は未だ完成しておらず、このテストには参加できない。
代わりに、恭子やトリスタンと行動することになっている。
ともあれ、まずは五十嵐先輩が先陣を切ってテストした。
的は、オドレイが用意した大きな鉄板だ。
「では、この鉄板に攻撃してみてくれ」
「了解。……ええいっ!!」
渾身の力を込めた先輩の鉤爪が、分厚い鋼の板をいとも容易く切り裂く。
さらには勢い余って、ついでに板の後ろの岩壁をも砕いた。
「す、すげえ……」
魔力もさることながら、元の筋力が高いからこそなせる技。
オドレイも平静を装いつつ、これには驚きのようだ。
「どうやら、彼は問題ないみたいだね。では次!」
「う、ウッス」
先程のオドレイとのやり取りですっかりやつれていた山野が、五十嵐先輩の次にテストする。
「お前はこの木の棒に攻撃してくれ」
「……おりやあ!」
山野の刀が、片手で軽々と木の棒を次々に斬っていく。
さらには、後ろ手に持って残った木の棒に豪快に刀を突き刺した。
そして時間差で、その棒も見事に打ち砕かれた。
しかし、どこか動きが鈍いように見えるのは疲労の影響か?
「使用者はともかく、武器の性能は大丈夫のようだ。では最後、救世主!」
「は、はい!」
最後は俺の出番だ。
俺はオドレイ特製の片手銃を右手に持ち、西部劇を思い出しながら見よう見まねで構えた。
「君は、私が用意したこの特殊合金の的の中心めがけて撃ってくれ」
「わかった。……はっ!」
俺は的の中心に向かって発砲した。
すると、銃に魔力が吸い取られていくような感覚を覚えた。
「おうわっ!?」
次の瞬間、前方で凄まじい轟音が聞こえた。
俺が銃口を向けた先を向くと、特殊合金の的だけでなく、近くを流れる川の対岸の岩壁までも粉砕されていたのが見えた。
砕かれた岩が、川の流れを半ば堰き止めている状態に。
あまりの威力に、ある地方では英雄と謳われたオドレイもへたり込んでしまっていた。
「はは、さすがだね氏景。魔力さえ付加されれば、威力は僕以上だ」
「何を感心しているんだい。さっき私が言ったばかりだろう、あまり魔力を込め過ぎないようにと」
「あ、すみません……」
「しかしまあ、大した威力だ。その割に銃身に負担は殆どかかっていないようだし」
「つうことは、氏景は威力をむしろ控えめにしろよってことだ」
山野に指摘されるのはカンに障るが、確かに奴の言う通り、俺は魔力出力を減らした方がいいのかもしれない。
魔法と言うのは下手に威力が高いと逆に扱いづらいものだと、以前、部長に教えられたことを思い出した。
逆に出力を小さく絞れば、その分、オドレイが説明したよりも発射回数を増やせるかもしれない。
「とにかく、試用はこれでお終いだ。早いところ、我らがリーダーの元へ急行するとしよう」
俺達はオズワルトや部長たちと合流すべく、その場を後にした――
◆◆◆◆◆
部長やトリスタン達とは、目的地となる大都市にて合流した。
オズワルト本人の姿は無かったが、中枢部隊の戦闘員が数名確認できた。
――だが、指令にあった大都市とは名ばかりに、現場は核兵器着弾後のような瓦礫の荒野が広がっていた。
「どうなってんだ、一体……」
当然、その都市の住人は1人も確認できない。
中枢部隊のメンバーも、瓦礫の撤去作業に取り掛かっているだけだった。
「ちっ、ここに来るとあの事件のことを思い出すぜ……」
ルクレツィオは苦虫を噛み潰したようなしかめっ面をしていた。
恭子も複雑な心境と言った風に、この瓦礫の山を眺めていた。
「なあルクレツィオ。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないのか? “事件”について」
「うるせえ、オレは出来る限り思い出したくねえんだよ。訊きたきゃ恭子やトリスタンにでも訊け」
ルクレツィオは、冷たく俺をあしらった。
ったく、あの事件のことを最初に公言したのは他ならないルクレツィオだろうが。
もっとも、よっぽど口を閉ざしたくなるほど酷い事件なのかもしれないが。
俺は仕方なく、恭子とトリスタンに“ある事件”について教えてもらうことにした。
2人もルクレツィオ同様、忘却の彼方に記憶を追いやりたがっていたが、渋々俺の質問に答えた。
「――ここは、この地方の中核都市フセヴォロドグラート。往時には住人の8割が学生で、人口は107万人に達していました」
「ですが10か月ほど前、『デウス・エクス・マキナ』が突然暴走を開始。機械兵を用いて最初に襲撃したのはこのフセヴォロドグラートでした……」
「その様子はあまりに凄惨で、罪なき子供や女性から真っ先に大量虐殺されたそうです。破壊を免れた建物は一軒たりとも存在せず、生存者は僅かに数名。私たちはこれを『真紅の学園都市事件』と呼んでいます」
ちなみにこれから訪れる研究所も、半壊状態だと語る。
でも、女子供から真っ先に大量虐殺……ダメだ、俺には想像が出来ない。
しかも107万人いて生き残ったのがたった数名って、過酷にも程があるだろ……そのサバイバル。
「ただ、その事件が起こる兆候はその2か月ほど前に既にありました。それに気づいた私は、すぐさま統括理事会に報告しました」
「統括理事会?」
「統括理事会とは、『デウス・エクス・マキナ』に関するあらゆる権限を有した国際機関です」
時期的には、ちょうど恭子とルクレツィオが調整員を辞めさせられた時期に合致するな。
「それで、どうなったんだ?」
すると恭子は一息置いて、こう語った。
「――その翌日、何一つ理由を告げられず私は退職命令を下されました。いえ、ルクレツィオさんを含むフセヴォロドグラート研究所の人は、全員同じように……」
「そして防ぐこと叶わず、2か月後に『真紅の学園都市事件』とやらが起きてしまった。……そういうことでいいんだよねえ?」
「その通りです、俊さん」
部長は表向きにはしたり顔で冷静に分析した。
しかし彼も恭子や山野同様、この事件に関しては真剣に向き合っているようにも見えた。
「私もルクレツィオさんも、その事件で家族を亡くしました。なので私たちはこの街に来る度、祈りを捧げているのです……」
そう語りながら静かに祈る恭子の目からは、悲しみの涙が溢れ出ていた。
「お父さん……お母さん……お姉さん……」
「恭子……」
恐らく恭子とルクレツィオは、『真紅の学園都市事件』を防げなかったことに怒りと責任を感じているのだろう。
さっきのルクレツィオの態度は、それの裏返しなのかもしれない。
そんな時、恭子の横で何故かプリヘーリヤもまた、街に向かって祈りを捧げていた。
「プリン?」
「この街に思い入れがあるのは、何も恭子ちゃんやルクレツィオくんだけじゃない。あたしもだよ」
「何?」
どうしたっていうんだ今日は?
普段は不真面目だったり明るく振舞っているような連中も、この街では真摯な顔つきになっている。
確かに恭子やルクレツィオの事情はこれで分かったが、何故プリヘーリヤまで?
するとプリヘーリヤは、あまりに意外な事実を俺に突き付けた。
「あたしも事件まではこの街の住民だったんだ。娘と2人暮らしだったんだけどね~」
「……娘!?」
おいちょっと待て。コイツ、少女だと思っていたら子どもがいたっていうのか!?
『空想世界研究部』の面々は、彼女の言葉に唖然となっていた。
次回の執筆者は、鵠っちさんです。