40 男の勘は当たらない
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
それから1時間後。オドレイが俺の二丁拳銃のうち、右手用の加工が終了した頃。
恭子から俺達にある通達が。
「皆さん、リーダーからの指令です。至急、村から撤退するようにとのこと」
至急? 何かオズワルトのほうで緊急事態でも発生したのか?
ま、リーダー直々の指令なら仕方ない。行こう。
「困ったものだね。まだ救世主の左手用の銃が加工し終わってないのに」
「でもオドレイちゃんにまで、この指令の効力があるわけじゃないよね~」
「別に、お前だけここで加工やってても良いんだぜ」
「酷いこと言うねお前たち。私も一緒についていくことが分かってるくせに」
あれ? と言うことは、俺の左手用の銃はどうなるんだ?
戦闘に慣れてないから五十歩百歩の気もするが、片手分、戦力がダウンするぞ。
「もう片方の銃ぐらい、私の手にかかればすぐに終わる」
「でも……」
「救世主、案ずることはない。そもそも私がいる限り、そこらの下級魔獣や機械兵ごときにお前たちが手を下す必要は一切ない」
「オドレイ……」
こう素直に見れば、普通に格好いい女性なんだけどな。
けれど、山野の表情には依然疑念が残っている。
そうだ、恭子やプリヘーリヤに訊けばハッキリすることだろう。
◆◆◆◆◆
支度を終えてすぐ、俺達は村に来た時とは別ルートでオズワルトたちの元に向かった。
もっとも、別ルートとは言っても、村に向かってた時と同じく断崖絶壁を縫う険しい道が続いている。
指令によれば、オズワルト率いる中枢部隊はこの道を越えた大都市にいるそうだ。
そして俺達が撤退する代わりに、村には別の反乱軍の部隊が入れ違いに駐屯するとのこと。
どうやら、人員不足の原因である他の作戦とやらが片付いたと見える。
さて状況整理はここまでにして、いよいよ本題と行くか。
「なあ、恭子とプリン。1つ訊きたいことがあるんだが」
「なんですか?」
「だからプリンじゃなくて、プリちゃんなんだってば。で、訊きたいことって?」
そして俺は、トリスタンや部長と話しているオドレイに聞こえないような声で質問した。
「ぶっちゃけた話、オドレイさんって本当に女性なのか?」
すると2人はお互いの顔を見つめ合い、そして笑いながら答えた。
「オドレイさんはれっきとした女性ですよ。確かに男性っぽく見える面は多々ありますが、あるものはありますし、ないものはありません」
ほっ、どうやら疑問は解決したようだ。
やはり、山野ごときの勘はあてにならないことがこれで証明された。
しかしなあ、恭子も結構なまめかしい表現をしたものだ。
ただ気になるのは、あの山野がオドレイに対しては容易に鼻の下を伸ばさなかった本当の理由だ。
「救世主様~、もしかしてオドレイちゃんを狙ってるの? でも、それは止めたほうがいいよ~。だってあの子は……」
「私がどうかしたのか?」
「「「おうわっ!?」」」
プリヘーリヤは言いかけて、そこにオドレイが割り込んできた。
くそ、ようやく山野の不可解な反応の理由がわかりかけたところなのに。
「た、ただの世間話です。氏景さんはまだこちらの世界に詳しくないので、私たちが説明しているのです」
「おおっと、そうであったな。これは失礼。どうも私の名前出ると、その会話の内容が気になってしまってな」
恭子の苦し紛れな弁明に対し、そう言い残して、オドレイは再びトリスタンや部長と話し込み始めた。
どうやら、オドレイと言う人は少々自意識過剰の気があるようだ。
「……で、プリン。オドレイがどうなんだって?」
「だからプリンじゃなくて、プリちゃん……まあ、いいや。とにかくオドレイちゃんは」
ついに明かされる、オドレイの真相は――
「サキュバスとドワーフのハーフなんだよ~」
「さ……さきゅばす?」
それから数秒間、俺の口と思考が止まった。
サキュバスとドワーフ……ああ、何時ぞやの『空想世界研究部』の部会の時、山野が持ってきた本の中にそんなのがあったな。
でも確かあの時、山野は『いくら俺が女好きだからと言って、サキュバスとドワーフの女はタイプじゃねえな』なんてぬかしてた。
理由は、原因は違えど『女のわりに男の臭いが半端ない』という、かなり自分勝手な偏見によるもの。
正直その時、「お前が言うな」という感想しか出てこなかった。
「サキュバスは男の精を糧に生きる種族。そしてドワーフは力強い職人の種族。この2つが組み合わされば……どうなるかおわかりですよね?」
つまり山野がオドレイと本当に付きあえば、山野の精は搾り尽くされ、そこから逃げようともドワーフの力によって逃れることが出来ない。
多くの女子とイチャイチャしたい山野にとって、それは都合の悪い現実。
それに2人の話では、オドレイは数々の滞在先で手伝いの対価として、裏で何人かの精気を頂いていたそうだ。
待てよ? じゃあ、さっきのルクレツィオの態度はもしや……。
いや、それは考え過ぎだろう。そう、考え過ぎ……。
ちなみに、加工技師としての能力と男っぽい部分はドワーフ由来のものらしい。
なるほど、山野がオドレイに触れるのを躊躇った真相がようやく理解できた。
「本来、サキュバスの女性って100%サキュバスの女の子しか産めなかったんだけどね~。『デウス・エクス・マキナ』による素質の均質化の影響で、他種族とのハーフやクォーターの子も増えてきているんだよ~」
「今、純血のサキュバスを産めるのは、インキュバスとサキュバスのカップルに限られています。オドレイさんは、サキュバスの少数種族化に警鐘を鳴らしている1人なのですよ」
「へ、へえ……そうなのか」
それから俺は道中、黙って2人の説明を聴いていた。
その陰で、オドレイの長話の疲れもあるんだから程々の長さにしてほしい、と思ったのは内緒の話。
次回の執筆者は、鵠っちさんです。