4 タイム・トゥ・フェイト
今回の執筆者は、月蝕いくりさんです。
其処はさながら円卓の間だ。
依頼主を中心にして前方に4つの椅子が並べられ、1脚ごとに1人が座っていた。
「よし、じゃあ世界を救おう!」
さして長くもない沈黙を破るように木山部長が告げた。
一体今度はどんな実験をしていたのか、白衣の所々が煤で汚れていた。
そもそも伺いを立てるまでもなかった。
この部活の名前からして『空想世界研究部』だ。こんな美味しそうな食事を目の前にして、食いつかない訳がない。
部長を含め、俺以外の一同は重々しく頷いた。
が、俺の目にはしっかりと映っていた。
皆の瞳が思い思いの意図で楽しそうに輝いているところを。
今まで夢にまで見た異世界へ向かうことが出来る、その上『救世主』になれるという付加価値つきだ。
「あ、ありがとうございます………!」
彼女が俺に何を見たのかは知らないが、これで世界はすくわれたえという目で見られるのは居心地が悪い。
述べた通り、俺には特筆すべきものはない。強いて挙げるならば努力家で、忍耐力があるくらいだ。
「それで、あなたの世界にはどうやって移動すればいいのかな?」
部長の声からは隠しきれない好奇心が漏れている。だがその質問は、当然浮かぶべきものだろう。
恭子の話が真実だとするならば、彼女はこの世界の人間ではない、異世界人だ。
この質問に答えることが出来るならホンモノ、答えられず誤魔化そうとするならば、残念ながら変わり者(部員)を甘く見過ぎていたということになる。
彼女の意識が俺から部長へと向いた。
「私たちの世界で使われている携帯用の『門』を使います。この世界に流れる魔力はとても薄いですが、きっと皆さんなら送ることが出来るはずです」
第1段階目はクリア、部長が満足そうに頷いた。
チラリと五十嵐先輩へ視線を送る。ツーと言えばカー、伊達に普段から引っ張りまわされていないらしい。グリップボールを握りながら優しげに質問を投げかける。
「それで恭子さん。その魔力を使うことによる弊害とかはあるのかい?」
「いえ、使われた魔力はしばらくすればまた元の量に戻り、一定に保たれる………と、私たちの世界ではそんな法則でした」
美味しそうな餌であってもそれは実はただの擬似餌だったという話も2人にとってはよくある話なのだろう。
この問答は、彼女の言葉にどれほどの真が含まれており、信頼するに足りる情報なのかを引き出すためのもの。
全く2人そろって随分としたたかなものだ、さすが伊達や酔狂で空想で世界を研究していない。
「せっかく異世界から来たんだからさ、この世界でオレとお茶でも――」
約1名、空気を読まないヤツもいるが、コイツのおかげで面談の場を和らげ口を軽くさせるのだ。
本人の意図してないところで役に立つ男、お調子者の代名詞こと山野。
「まあまあ、彼は置いておこう。“神”を操る不届き者を退治してほしい、ていう事だったけれど、俺たちはどんな役割をすればいいのかな? まさか爆弾を持って特攻………なんてオチじゃあないよね?」
役割を終えばっさりと斬られた勇者(山野)の犠牲を無視して、部長が次の質問へと移る。
俺たちは想像力こそ逞しいが、一介の普通の高校生だ。ワイヤーなしでワイヤーアクションをしろと言われても無茶になる。
五十嵐先輩以上にどんなに体を鍛えても、所詮人間は物理法則を超えられないし、先に進んだ文明に対して有効なアドバンテージを持っているわけでも無い。
最悪のケースを考慮した特攻案だが、幸いにも恭子は小さく頭を振って応えた。一安心だ。
だが、俺はうっかりしていた。
相手が本当に異世界の住人ならば、空想歴初心者の俺が持つ尺度で物事を計れはしないのだから。
なるほど、魔力について五十嵐先輩が言及したのは、この可能性を考えてのことだったのか。
彼女はずり落ち始めた眼鏡を直してこう告げたのだ。
「あなた方に魔法を使っていただきたいのです」
部長の小さなガッツポーズを見過ごしたことを、俺は度々悔やむことになった。
次回の執筆者は、鵠っちさんです。