38 近況
今回の執筆者は、鵠っちさんです。
俺とルクレツィオは、山野とオドレイ・ロシュフォールというらしいその女性が中へと入るのを見送ってから、少し遅れて中へと入っていった。
「あ、いらっしゃいましたよ。オドレイさん」
「ん、キミで最後の一人か。反乱軍所属のオドレイだ。よろしく」
「砺波氏景です。よろしく」
「なんでお前がこんなとこまで来てんだよ。あそこからじゃ、そうやすやすと行って戻れる距離じゃないだろうに」
話せば長くなるのだが、と前置きして話し始めたことを要約するとこうだ。
――噂に聞く救世主とやらに会ってみたかった、と。
自分が管轄していた地域の戦況が安定しているからしばらくの間任せると言い残して失踪扱いになっているだの、ここにくるまで各地で手伝いをして何度も戦闘に巻き込まれただの、ある地では英雄と称えられただの、そんな話を順を追って二時間も三時間も聞かされる身にもなってほしい。
プリヘーリヤの「いい加減にしてください」と言いたそうなオーラを、時折混じる各地の状況の報告で黙らせるなど、話術が巧みらしいことも分かった。
最終的に、痺れを切らせたトリスタンが問い詰めてようやく、あさってのほうを向いて「救世主とやらに会いたかったのだ」と言い、反乱軍のメンバーは今は詳細を聞いている。
「とりあえず、こっちはこっちで自主練でもしてようか」
「そうですね。俺たちが聞いても分かる話じゃないですし」
「オドレイオドレイオドレイ…………」
「よし、じゃあまた基本からやろう」
そういえば、山野はここに入ってきてから様子がおかしいらしい。
あの現場を目撃したことは、今はそっと胸に秘めて気にしないことにしよう。
夕方近く、練習でヘトヘトになった頃、オドレイの話も終わったらしい。
各地の滞在期間はさほど長くなかったらしく、あまりいい話は聞けなかったと愚痴る疲れ顔のトリスタンと、それを聞かされる困惑顔の五十嵐先輩を目撃したのは、夕食の時刻よりも少し前のことである。
次回の執筆者は、まーりゃんさんです。