34 私刑と制裁
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
だが、現実はさらなる過酷な仕打ちを俺に強いた。
「オラ! どうしたんだオラァ! かかってこいや」
「ビビッて手も出せないってのか? ああ!?」
「救世主なんだろ? だったら俺たちの攻撃くらい、さっさとやり返してみやがれ!」
暴言を徹底的に吐き続けられる中、俺は何人もの村人に暴行も受け続けていた。
村に向かう道の途中、俺たちは一旦休憩をとっていた。
しかし休憩とは言うものの、俺にとってはただ虐待されるだけの時間が流れる。
「ああ、なんかムカつくわ。このクソガキ」
「殿すら、まともに務まらなかったじゃない」
「何にもできねえじゃねえか! コイツが村を救っただあ? 冗談ほざくんじゃねえ!!」
苛められたこと自体は、今回が初めてではない。
実際、山野という腐れ縁の知り合いはいたが、小学校、中学校ともに俺は校内でひたすら虐げられ、孤立していた。
主に精神面において、授業中でも部活でも、放課後も。
「……なんだテメェ? その目はなんだと聞いていんだ、コラ!!」
「所詮役立たずの分際で、反抗的なツラするとはいい度胸だ。死ね!!」
この世界と同じく、村人の心も荒廃しきっているのはわかっている。
だが口だけならまだしも、ここまで物理的に叩きのめされるとは思わなかった。
しかも相手は農作業で鍛えられた大人たち。
一方の俺は、戦闘で少なからず傷を負っている身。
そんな状況で村人たちの殴打は、俺の心身の傷を容赦なく深くし、顔面から大量の血を噴出させる。
「俺に当たって心の平穏を保てるなら、文字通り矢面に立ってやる」とはいったが、これではサンドバッグそのものではないか……。
どこまで向こうの心が荒んでるのか知らないが、本気で殺されてしまう……。
「何してんだテメェら! ……ぐほっ!」
「そしてあんたも同罪だ。潰してやるよ」
止めに言ったルクレツィオも、別の村人に腹部を蹴られ地面に倒れる。
最初は不満をぶつけるのが目的だったが、徐々にエスカレートして『暴行することそのもの』が目的と化している。
だが、俺に助けるだけの余裕は全くない。
殴られ過ぎて、すでに数カ所が骨折している。おかげで腕一本動かすことすらままならない。
俺は無様にも、力なく地面に横たわっていた。
「あーははははは!! いい姿してるぜ救世主さんよお」
「じゃあこのまま、バラバラのグッチャグチャにしてやろうかねぇ」
俺の体の下には、すでに大きな血だまりが出来ている。
もう彼らに歯止めをかける枷は存在しない。
このまま死んでしまうのか……。そう思った時であった。
「……!?」
「な、なんだよコイツ……」
「体から、いきなり光を発してきやがる……」
虚ろとなる意識の中、俺は再び自分の体に力を振り絞って目を向ける。
すると俺の体から、あの青白い光が発生していた。
ああ、あの時と同じだ。巨大な機械兵によって、反乱軍の兵士が皆殺しになったあの時と。
自分の力ではどうしようもなくなった時、突然覚醒する“もう1人の自分”。
どうやら今回は、村人の暴行がそれを呼び起こしてしまったようだな。
こうなってしまっては、もう自分の体を自分で制御することはできない。
動けないはずの俺の体は、自らの血だまりの上に直立した。
「おい、ちょっと待てよ……」
「な、何しでかす気だ!」
突然の事態にざわめく村人たち。
しかし体は既に、俺の管轄を離れている。
そして俺の口は、やはりあの時と同じく、無意識で機械的な言葉を発した。
『世を救いたる者の功徳も解せぬ愚か者に、啓蒙の鉄槌を与えん。……ケーフィヒ・シュトラーフェ』
呪文を唱えるもう1人の俺。
すると直後、ルクレツィオを除くその場にいた全員が、一斉に苦しみ始めた。
それもどうやら頭部が呪文の対象になっているようで、皆頭を抱えてその場にしゃがみこむ。
「あ、頭が……頭が……!!」
「わ、割れそう……だ……」
老若男女の区別はない。全員平等に激しい痛みに襲われている。
「あ、あああああ……!」
「お……お……」
中には、天まで届かんとする叫び声をあげる者や、反対に耐えきれず意識を失う者もいる。
現場はまさに、阿鼻叫喚の様相を呈していた。
「お、おい! 救世主」
『……』
唯一、効果対象となっていなかったルクレツィオが、俺を抑え込もうと急いで駆けこんできた。
だがその直後、俺の体から青白い光が一瞬にして立ち消え、その刹那、全身の力も一斉に抜け落ち再び地面に横たわる。
「あ……」
――そしてそのまま俺の意識も徐々に薄らいでいき、十数秒後、深い闇の奥へと沈んでいったのであった。
次回の執筆者は、鵠っちさんです。