33 夜道
今回の執筆者は、鵠っちさんです。
再び地上に出て村へと戻る隊列の中を、重苦しい沈黙が居座っている。
村人達はお互いにヒソヒソと話し合い、ときに俺に鋭い視線を向けると、嘲笑するような細い声が聞こえてきた。
闇夜の森を、ルクレツィオを先頭に、比較的体力が余っている者たちが魔法で足元を照らしながら進むが、いやがらせのように、俺のところまではは光が届かない。
「ふっ、救世主っつっても、魔物を倒したっつっても、魔法が使えたのはまぐれかよ!」
またも、嘲るような笑いが辺りに伝播する。
言い返す言葉がない。
傷ついた村人達が、いくらか顔をしかめながらも、魔法で足元を照らしているというのに。
それなのに、今の俺は、自分の足元さえ満足に照らすことが出来ない。
「おい、いい加減にしやがれ! こいつらがいなけりゃ、今頃村だってなくなってたんだよ。それなのに――」
「ルクレツィオ! やめてくれ……」
木の根に足を引っ掛けそうになりながらも、なんとかルクレツィオの口を塞ぐことに成功した。
「みんなが俺に当たって、心の平穏を保てるなら、文字通りの矢面にだってたってやるよ」
「……そんなに泣きそうな顔して言われても、全然説得力ねえよ」
呆れたような顔をしたルクレツィオに言われ、自分の声が震えていたことにと気付く。
小声で言ったつもりだったが、実際はもっと大きな声だったかもしれない。
俺は自分の中の恐怖を自覚せざるをえなかった。
――俺は村人達が怖い。
こんなに大勢からの、負の感情を受けたのは始めてだ。
機械兵の襲撃や魔物との戦いも怖かったが、今回はそれ以上な気がする。
いや、戦闘のときは、恐怖よりも闘志が勝っていたからか。
「ねえ、救世主さん? あなたの持ち場は殿でしょう? 早く戻りなさいな」
「そうか、こいつ、真っ暗でなんも見えなくて怖えからって、勝手に先頭までしゃしゃり出てきやがったのか」
「こういう自分勝手に隊列を乱すやつがいると、空気が悪くなるんだよなぁ!」
そういうわけではないのだが、言い返す勇気が出ない。
聞こえよがしに言いやがってと、心の中で悪態をつきながら、列の後ろに戻って、じっと耐えることにする。
――俺は救世主としてやってきたんだと、心の中で呟きながら。
次回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。