31 ルクレツィオの過去
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
翌日。
「おう救世主。こっちだこっち」
「待て、ルクレツィオ」
俺とルクレツィオはトリスタンの指示によって、村の住人が避難している地下壕を目指している。
ルクレツィオの話では村から半日かかるとのこと。
そこで俺たちは魔獣のいなくなった村で休息をとり、翌日の早朝に出発。
それからかれこれ6時間。
静かな森の中の獣道を、景色が一向に変わらない中、俺たちはひたすら歩く。
「ハァ……しんど。ちょっと休憩……」
「またか。情けねえなぁ救世主さんよ。戦ってるときはあんなにカッコよかったのによ」
「余計なお世話だ」
ったく、皆さんお忘れかもしれないが、俺はあんまり体力のない人間だぞ。
中学の部活で鍛えた持久力も、もうないし、そもそも運動神経が底辺だからなあ。
昨日の戦いだって、他の3人と比べて足りない体力を、豊富な(とトリスタンが前に言ってた)魔力でカバーしてただけだ。
まだ疲れも残ってるってのに、酷なこと言うもんだルクレツィオは。
でも、ある意味新鮮ともいえる。
俺とルクレツィオだけって状況は、今までには無かったものだからだ。
「でも、ただ休憩するだけじゃつまんねえな。救世主、なんか話題ねえか?」
俺は溜め息が出た。
話すのもしんどいのに、何言ってんだよこの男は。
……そうだ。話題と言えば、昨日の恭子の戦い方がなんか気になるな。一応訊いてみるか。
「1つ、疑問がある」
「あ? なんだ?」
「昨日の戦いのことなんだが、なんで恭子は“機械兵”を召喚できたんだ? 本来、そいつらは俺たちの敵のはずだろ。どうもそこが引っかかってさ」
って言っても、ルクレツィオが知っているかもわからないのに、何言ってんだ俺。
しかし彼は、あっさりその質問に答えた。
「ああ、それなら話は簡単だぜ。だって恭子の奴、元は『デウス・エクス・マキナ』の調整員だったんだから」
「!?」
な、今の話、初耳だぞ?
恭子が、今回の事件の発端となった神、『デウス・エクス・マキナ』の“調整員”だっただと?
調整員ってことは多分、『デウス・エクス・マキナ』の整備と管理に関わる人だってこと。
あ、でも『デウス・エクス・マキナ』の生みの親と呼ばれる“研究部”とは知り合いだったし、あり得ない話ではないか。
「それに調整員をはじめ、『デウス・エクス・マキナ』の研究に携わる連中と各国の軍隊・警察は、一般人が扱うことのできない“機械兵”を操作する権限を持っている」
つまり、恭子が“機械兵”を召喚できたのは、ある意味当然のことというわけか。
そんなこと知らない俺達には驚きの事実だが。
「まあ、恭子の場合は少し特別なんだがな」
「……なあ、ルクレツィオ」
「あ? 今度はなんだよ」
「なんで、そんなに詳しいんだ?」
そうだ、今の情報、普通にこの世界に住んでいただけではわからない機密情報だ。
なんでルクレツィオは、それを知っている?
するとルクレツィオは、意外な事実を口にした。
「だって俺も、調整員の1人だったんだからな。1年前までは」
「!?」
1年前まで、恭子と同じ調整員だった?
だから、こんな外部の人間には入手不可能な情報を持っていたわけか。
しかし今の発言も、違和感のあるところがあった。
……「1年前までは」? 一体その時、何があったんだ?
「なあルクレツィオ。1年前ってことは、今は違うのか?」
「あ? まったくドライな奴だと思ってたのに、今日はやけに積極的だな」
「悪かったな、ドライな奴で」
するとルクレツィオは、一回深呼吸をして気分を落ち着かせてから、話を続けた。
「……辞めさせられたんだよ」
「……え?」
「1年前、『デウス・エクス・マキナ』絡みで、ある事件があってな。俺は直接はその事件に関わっていなかったんだが、とばっちりを受けちまって退職命令さ」
ある“事件”?
しかも、とばっちりを受けて退職命令?
一体、何の話をしているんだ?
「ま、救世主さんには関係ない昔話さ。さ、さっさと地下壕目指して歩くぞ」
「あ、ああ……」
事件……。もともと同じ調整員同士だった恭子とルクレツィオ。
そして、その2人のどこかギスギスしたような関係。
なんか、怪しいな……。
しかし地下壕を目指す中、体力をしばしば切らし再び質問するタイミングも逃し続ける俺。
そうこうするうちに、目的の地下壕に到着したのであった。
次回の執筆者は、猫人@白黒猫さんです。