30 疲労
今回の執筆者は、鵠っちさんです。
「あー、だから言わんこっちゃねえんだ」
「そういうこと言うから、フラれることになったんじゃない? 少しは労ってあげたらどうなのさ?」
「別にフったフラれたとかいうわけじゃないし、お前こそ、今そういうこと言うなよ。それに、意識がないのに労ってどうすんだよ」
倒れた恭子を軽々と背負いあげたルクレツィオと、茶化すプリヘーリヤ。
その恭子の手首には、まだ少し血が滲んだ包帯を巻かれている。
ああだのこうだの言い合っている二人を尻目に、とりあえず座れる場所に移動することになった。
村に入ってきたところの近くに会議場があるらしく、恭子は仮眠室のベッドに寝かせておくそうだ。
俺たちを守ってくれてありがとう。
「ざっと見てきましたところ、食料の備蓄は問題ないみたいです」
「はぁ、それはよかった。何もかも手遅れじゃあ、なんとも言えないからね」
方々を確認してきたトリスタンに、さすがに気だるげな声の五十嵐先輩の返事。
この人は体力さえ回復すれば、また今夜からでも筋トレを始めるだろう。
いつもはなんとも思わないが、今はそういう日常が恋しい。
「氏景、そのいかにも疲れたような顔はやめろ。こんなときくらい山野を見習え」
「……部長。さすがに山野は見習いたくないです」
「へ? 部長、何か言いましたか? って、逃げなくてもいいじゃんか~」
しつこく話しかけている山野の気が逸れたのを幸いと、五十嵐先輩とトリスタンの談笑に加わるプリヘーリヤ。
部長が見習えと言った理由は分かっているが、その行動ゆえに、なんとなく納得できないのは仕方のないことだろう。
見ると、部長も苦笑い気味なのだから、おあいこだと思う。
「……わかっているだろう?」
「分かってます。山野みたいにちょっとくらい無理しても笑えってことぐらい」
そう、俺だけじゃない。
みんな初めての実戦だったんだ。
いつも通りに見えて、山野だってその笑顔には疲れが滲んでいる。
そんなことに気づかないなんて、腐れ縁失格かもな。
「みなさん、少しは休めましたね。これからのことですが、とりあえず村の住人を呼び戻すことから始めましょう。ルクレツィオと氏景さん。お願いしますね」
「ということでよろしくな」
「はい、よろしく」
……ん、なんで俺たち二人なんだ?
次回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。