29 プロの戦い
今回の執筆者は、猫人@白黒猫さんです
ルクレツィオは腰に差した鞘から剣を引き抜き、ジーンズのポケットから魔導石を取り出し宙に投げ、落ちてきた魔導石を押しつけるようにして、剣の柄に空いた穴に嵌めこむ。
日の光を浴びて輝く刀身に、青い焔が蛇のように巻き付き、ぼんやりとした光が辺りを照らしている。
ルクレツィオの横に立ったトリスタンは、ニヤニヤと剣を見ながら笑うルクレツィオを見て、苦い笑みを溢しながらベルトに差した拳銃を抜き取り、両手に持った拳銃の銃身に魔導石を嵌めこみ、迫りくる魔獣を冷めた目つきで見つめた。
二人の後ろにいたプリヘーリヤは、どこからか大きな両手杖を取り出し、ゆらゆらと揺れる魔導石を見つめながら、不敵な笑みを浮かべ杖の先を魔獣へと向ける。
やる気満々と言った雰囲気の二人を見て、溜息を吐きながら恭子は鞘から剣のような……杖のような武器を取り出し、持ち手に空いた穴に魔導石を嵌めこむ。
「じゃあ、準備はいいか?」
「勿論」
「殺る気満々だよ!」
「いつでもどうぞ、暴走だけはしないで下さい、ルクレツィオさん」
ルクレツィオは三人を振り返り、満足そうに頷くと、迫ってくる魔獣を睨みつける。
普通のコブラを何十、何百倍にしたような大蛇は、鎌首をもたげて右に左に揺れ、獲物を品定めするかのように四人を見下ろしていた。
どうやら標的をプリヘーリヤに定めたようだ。
空気を切り裂きながら大蛇が大口を開け、プリヘーリヤの頭を狙って迫ってくる。
「駄目駄目だね、そんな攻撃当たらないよん」
迫りくる大蛇の頭部に飛び移り、手に持った杖を振るうと、赤く輝いた魔導石から火が上る。
空気を抜くような不思議な断末魔を響かせ、ぐらぐらと大きく左右に揺れながら、大蛇は力無く地面へと倒れていった。
後ろに飛びのき、クルクルと回りながら回転して着地、したプリヘーリヤの後ろに大鷲が迫っていた。
「油断しないで下さい、プリヘーリヤさん」
そう言ってトリスタンが放った弾丸は、大鷲の両肩一直線に飛んで行って、巨大な羽を辺りに漂わせた。
ひらひらと羽を宙に舞い散らせながら、でたらめな軌道で空を飛んで、どこか遠くの方で土煙を上げて大鷲は地に落ちた。
「ごめんごめん、楽しくなっちゃうと、つい、ね?」
「ついじゃないでしょう、ホラ前見て下さい、前」
「へ? うぉお?!」
何十何百という狼のような魔獣の大群が、四人目掛けて迫って来ていた。
そんな中笑い声を辺りに響かせ、ルクレツィオが大群に突っ込んでいく。
唖然とする三人、呆然とする俺ら、ルクレツィオは迫りくる狼の群れに向かって、手に持った剣を左に薙ぎ青い焔を巻き起こすと、風と共により青々と燃えた焔が狼を焼き尽くしていった。
狼の群れの間を縫うようにして駆け抜け、次々とその足を、その首を、その頭を、切り落としていく。
ふとその足が止まり、大きく後ろに飛びのいた。
「気をつけろ! 下に何か居るぞ!」
「えぇ?! 嘘っだー、またそうやってふざけてんでしょ?」
「ちげぇ! こんな時に冗談かますかよ!」
よく見れば地面が大きく盛り上がり、何かが動いているのが分かる。
グルグルと高速でルクレツィオの周りを取り囲み、逃げ場を失ったルクレツィオが舌打ちした、ちょうどその時だった。
ゆっくりと地面を突き破りながら出てきたのは、そりゃもう馬鹿デカい大きな大きなモグラだった。
それも一体だけじゃないみたいだ。俺らは気づいた時には巨大モグラの大群に囲まれていた。
四人だけならまだ戦いようがあっただろう、でも戦闘員として素人の俺達が足を引っ張っている。
今まであれ程魔獣を打倒してきた四人が、徐々に俺らを庇っているせいで押され始めた。
「仕方ないですね、こうなったら“喚ぶ”しかありません」
やれやれと頭を振りながら恭子が呟き、持っていた剣?で手首を切り、赤い血を流すそれを地面へと落とした。
すると赤い魔法陣が恭子を中心にして広がり、淡い光を放ちながら輝き始めた。
建物の残骸や石が宙に浮かび上がり、白い恭子の顔を赤く濡らしている。
「我が契約の血の下に、悪しき者から我らを守りたまえ」
淡々と感情なく呟くと、より一層強く魔法陣が輝いた。
「バトラー、ガンナー、ガーディアン、マジシャン、我が命において敵を薙ぎ払うのだ!」
魔法陣から次々に甲冑姿の兵隊が現れる。
キリキリと歯車が鳴る音と空気の抜ける音、そしてバチバチと電流が走っているところを見ると、どうやら“機械兵”のようだ。
一体何で恭子が機械兵を操ってるんだ? なんで召喚できるんだ?
頭に浮かんだ疑問符の答えは今は思いつかない。
大斧を持ったおそらくバトラーが、次々と巨大モグラの頭蓋骨を割り、多種多様の銃を持ったガンナーが、前足や後ろ足を狙って弾丸を放つ。
ガーディアンは戦いで疲労した俺達の前に立って、その大きな盾で攻撃を防いでくれている。
白いフードを被ったマジシャンが俺達を取り囲み、その手を向け淡い光で魔力や体力を回復してくれてるみたいだ。
仲間だ、何故かはわからないが、そう思える。
「無理すんなよ! お前、前もそうやってぶっ倒れただろ?!」
「それならもう少し頑張ってほしかったんですけどね。貴方の頭や性格はともかく、腕の方は信頼してるんですから」
「うっ……、普通今それ言わねぇだろ……」
「さぁ、あともう少し、私も、そろそろ、限界、です」
魔法陣の中心に立っている恭子が、フラフラと左右に揺れ始めた。
最後の一体が倒れると同時に、恭子もまた地面へと倒れていった――――。
次回の執筆者は、鵠っちさんです。