28 初実戦
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
とりあえず、今回は俺たちだけで村を守らなければいけない。
本音としては、今地下壕に避難している戦闘員がこちらに残っていれば……、と悔やまずにはいられない。
が、残り少ない人材では、恐らくその地下壕を守ることで精一杯なのだろう。
ふう、初任務だってのに、なんてハードな内容なんだ……。
しかし研究部のほかのメンバーは、思いのほか前向きにこの困難に立ち向かおうとしていた。
「さあ来い、魔物! 部長の実力、ここで見せてあげるよ~」
「うしっ、僕もますます気合が入ってきた。頑張ろう!」
「俺はやるぜ。これに勝って、地下壕にいる俺の運命の彼女に告白するんだぁ!!」
こいつら状況わかってんのか? 普通に考えて、今すごいピンチなんだぞ?
いや、それともこの状況だからこそこんな顔なのか? 俺にはわからない。
「頼みますよ。“救世主”さんたち」
そう俺が研究部員に首をかしげていると、ついに奴らは現れた。
「グルルルル……!!」
「む! 来たな……!」
今回の侵略者、魔物だ。その姿は、大型のオオカミに似ているといっていいだろう。数はおよそ15体。
対するこちらは8人。うち、半分が戦いの素人。
「ウルフか……」
「低級の魔物ではありますけど、油断は禁物です」
低級、か……。だが、俺以外の3人にとっては、これが初陣。俺だって実戦は2回目。
恭子の言う通り、油断は禁物だな。
「でもちょうどよかったじゃ~ん。授業の良い復習になると思うよ~」
「『救世主』のみなさん。発動の呪文は覚えていますか?」
「当然!」
そして俺たちは魔導石を魔物の大群に向かってかざし、4人団結してあの呪文を唱えた。
『我らに聖なるお力を!』
俺たちの声が、きれいな協和音を奏でる。
するとその瞬間、手にしていた魔導石が光りだし、一閃の光芒がウルフの群れに注がれる。
「グ……グルルルオアァァ……」
光芒が差し込まれたウルフたちが、一斉にうめき声をあげる。
これは……攻撃成功と言ったところか?
「まだです……そのまま集中的に続けてください!」
「ぐっ……」
俺たちはひたすら魔力を、魔導石に注入し続ける。
ウルフたちは苦しみの咆哮を上げ続ける。
「ォォァァ……」
「ハァ……ハァ……」
時間にして、およそ1分。俺たちはひたすら攻撃に集中した。
そして前方に改めて振り向くと、ウルフの群れは15体すべて地面に倒れていた。
「……や、やった。やったあああああああぁぁぁぁ!!」
研究部としての初勝利。時間こそ短かったものの、一旦集中しだすと実際よりも長く時を感じていた。
それに戦いの前は前向きな発言をしていた連中だったが、内心、きっとどこかで恐れがあったに違いない。
だからこそ、この歓声があるといっても過言ではないだろう。
「やりましたね」
「すごい……私が連れてきた甲斐がありました……!」
「やっぱり“救世主”だねぇ」
そして補佐としてついてきた反乱軍の人たちも、驚きの表情。
俺たちが初の実戦で、上手く魔物を倒せるとは思っていなかったのだろう。
だが、俺たちはやった。成功したんだ。
「おっと、喜んでいるところワリィけど、戦いはまだ始まったばっかだぜ。この調子で、ドンドン魔物どもに吠え面かかせてやろうぜ!」
「おう!」
そうだ、ルクレツィオの言う通りだ。まだ戦は始まったばかりだ。
改めて気を引き締めなおす俺たち。
だが、一度成功を収めると、その勢いは止まらない。もともと異世界に関して、夥しい知識量を有していた部長たち。
コツさえつかめれば、後は放っておいても教えられたとおりに戦いを進めていく。
こうなった俺たちを前に、低級の魔物は敵ではなかった。
俺たちは、そのあとも迫りくる魔物をお互い協力しながら次々倒していった。
「そーれい!!」
「まだまだぁ!!」
「もっともっと!」
「負けねえぞぉ!」
そして次第に、補佐としてついていた4人もその様子に見入っていった。
「と、とてもこれが初陣だとは思えませんね。ピンチが、ピンチになっていない……」
「さっきの警告は、少し余計だったかもしれません……」
「ちょっと驚きかも~」
するとルクレツィオはなぜか俺たちに対抗心を燃やし、こう叫んだ。
「俺たちも負けてらんねえ! 恭子! トリスタン! プリヘーリヤ! あいつらに俺たちの熟練の技を見せつけるぞ!」
「そう言うと思いましたよ。私も久しぶりに、全力を出しましょう!」
数十分経って魔力と集中力を切らしかけた部長たちの代わりに、ほかの4人も本格的に参戦。
「お疲れ様でした。皆さん大丈夫ですか?」
「僕がこんなに汗をかいたのは……ハァ、ハァ……総合格闘技の大会以来だよ……」
「じゃあここで、休憩タイムといきましょう」
「へっへ~。あたしたちの戦いも、ちゃんと見とくんだよ~」
「腰抜かすんじゃねえぞ?」
ここで俺たちは、彼らの実力。その片鱗を知ることとなる――
次回の執筆者は、猫人@白黒猫さんです。