22 魔法の理論
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
「さて、異世界からはるばる来た救世主様方。今日から私が、少しずつ魔法の理論をお教えすることにいたしましょう」
朝練終了後、俺たち『空想世界研究部』の面々はトリスタンの前に座っていた。
場所は宿舎内のある一室。
トリスタンはまるで教師のように、ホワイトボードを使って、俺たちに軽い授業みたいなものを行っていた。
「その前にトリスタンさん」
「どうしましたか、晟さん?」
「この場に、なんで恭子ちゃんやプリちゃんがいないんですか?」
「……」
突っ込まない。もう、突っ込まないぞ。
コイツのこのセリフはいつものことだ。昨日の件もあるし、もう関わんないぞ。
「なぜならこれは、あなた方専用の特別訓練だからです。今回あなた方には、この世界の魔法理論を少し知ってもらいたいのです」
話を戻して、俺たちはこの世界から見れば、異世界人である。
しかも、魔法のない世界からの来訪者。いくら本やゲームなどで魔法のことをある程度知っていようとも、それが必ずしもこの世界の魔法と一致するとは限らない。
特に俺の場合、理論の「り」の字から教えてもらう必要がある。
「あれ? でも昨日は、『難しい理屈はすっ飛ばしても、強力な魔法は使える』とおっしゃっていましたよね」
「はい。その通りです。ですが昨日の練習、なかなか思った通りには上手く発動しなかったでしょう?」
「言われてみれば、確かに……」
「それは、実践で使えるようになるには、昨日の『感覚でとらえる』という方法だけでは不十分だからです。それを補完するものとして、今のところは簡単な理論というか、よく使われている公式をお教えすると言っているのです」
ふ~ん。確かに、ざっくりとした感覚だけでは、大雑把すぎて捉えにくいものだからな。
要は、多用されている方法論を、感覚として染み込むまでみっちり教え込もうという算段か。
でもそのほうが、強力な魔法を発動させる時間は大いに短縮する。なるほどな。
「ふへぇ~。まさか暗記かよ? めんどく……もごご?」
「すいません。続きを」
「あ、はい」
五十嵐先輩が、山野の口を慌てて手でふさぐ。
余計なことを口走るものだから、さすがの先輩も条件反射と化したか。
トリスタンは気にせず、ホワイトボードに絵を書いて説明する。
「まず、魔導石にもたくさんの種類があります。その魔導石の種類、属性に応じた魔法を我々は使うことになります」
昨日、ルクレツィオが言ってたことまんまだな。
はたして、ほかにどんな魔導石が採掘されることやら。
「そして我々は魔法を使うとき、それらの魔導石から魔力を取り出すことになるのですが、実はここで1つコツがあります」
「コツ?」
そんなもん、あったのか。
俺たちが昨日特訓した時は、コツなんて一切教えてもらっていなかったはずだけど。
「心の中で、『我らに聖なるお力を!』と唱えることです」
「心の中で?」
「はい。声に出しても構いませんが、殆どの人は言わない上に意識しないので、分からなかったのかもしれませんが」
「そうなのか?」
「プロの使用者では、コンマ数秒で唱え終わりますし。実際、これ以外にも魔力を取り出す方法自体はあるみたいですから」
石に対して、わざわざ呪文でも唱えるのか。心の中とはいえ、なんか面倒くさい手続きだな。
「ふむ。まるで、超自然的な何かに対してお願いしているような……」
「そうですね。この世界の古い言い伝えでは、魔導石はすべて、昔の神々が魔力を練って精製したとされています」
「昔の……神々?」
「この呪文も、『デウス・エクス・マキナ』が誕生する以前に、この世界で主要だった宗教の信者が考え出したものです。きっと由来は、そこから来ているのでしょう」
どういうことだ? この世界の神って『機械仕掛けの神』だけじゃなかったのか?
「トリスタンさん。『デウス・エクス・マキナ』以前に、神っていたのですか?」
「恐らく、いることにはいますよ。以前わたしは氏景さんに、『本物の神以上に匹敵する力がある』とは言いましたから」
「そう言えば、そうでしたね」
「ただ、さっきのお話は単なる言い伝えに過ぎませんからね。わたしの5つ前の世代にはもう、『デウス・エクス・マキナ』が全盛期を迎えていましたから」
と言うことは、昔の宗教ってのは、以前より信者が減っているってことか。
うーん、でもこの人は部長以上に『科学者』って感じの匂いがする人物だからな。
確証のないことは、あまり断言しようとはしない。
でも、なんか気になる。
後で、ほかの人にもこの言い伝えについて聞いてみるとするか。
次回の執筆者は、アンドロマリウスさんです。