最終話 冒険は終わらない
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。今回が最終回となります。
世界は救われた。終戦後、各地で慰霊祭が執り行われ復興が始まった。
そして、俺と空想世界研究部の皆は『救世主』として、反乱軍主催のもと各地を凱旋した。
「救世主さま、ありがとう!」
「救世主さま、万歳!」
「万歳! 万歳! 万歳!」
瓦礫もまだほとんど撤去されていない市街地。その中でも多くの市民が凱旋パレードに駆けつけ、俺達と反乱軍の功績を讃えた。
でも俺は思う。俺や反乱軍だけでは決して機械仕掛けの神を倒せなかった。反乱軍を支える世界中の人々の支援があったからこそ、世界を救えた。
「俺達、ついにヒーローになったな!」
「ああ、そうだな」
しかし課題も多い。
開戦から終戦まで1年4ヶ月、戦死者は反乱軍と各国の軍隊も含めて500万人以上、虐殺された市民80億人以上。世界人口の9割近くが失われ、都市という都市が全て消滅。人口と産業が元の水準に回復するまでの時間を考えると、完全復興には何十年、何百年という月日がかかるだろう。道のりは果てしなく険しい。
機械兵との戦いは終わった。だが俺達の戦いは終わらない。彼らの復興を支え、成し遂げたときが本当の終戦だ。
そして凱旋パレードを全て終えた後、俺達は決戦の地キストリッツに集まり黙祷を捧げた。
「黙祷!」
キストリッツには建物の残骸すら残っておらず、瓦礫と煤が地面を覆い尽くしていた。
そして消滅した大都市の中で、生き残った反乱軍構成員全員が亡き戦友を偲んだ。
オズワルト、ルクレツィオ、オドレイ、ヨルギオス、アヤノ、名もなき兵士達ーー。共に戦い、散っていった彼らのことを俺は決して忘れない。
皆、俺達のことあの世でもしっかりと見守ってくれ。俺達も復興に力を尽くして良い土産話を持ってくるから、待っていてくれーー
◆◆◆◆◆
その翌日、ペトラスポリスの街跡に来た俺達は、城の地下室前でエグザルコプロス姉妹ーークロリスとイオカスタに久々に再会した。
俺達を見かけるや否や、2人ともモジモジしながら俺達に近づいた。
「……イオカスタ、なにか言いなさいよ」
「お、お姉ちゃんから先に……どうぞ」
「なんでそうなるのよ……」
「お姉ちゃんこそ……」
どちらが先に発言するかで互いに譲り合う姉妹。彼女達の落ち着きのない様子から何を言わんとしているのかは察せた。
1分少々の沈黙の後、ようやく観念したのかクロリスが重い口を開いた。
「……ごめん」
「クロリス……?」
「あたしはお父様が死んで、その悲しみと悔しさをどこに吐き出せば良いかわからなかった。本当は統括理事会が全て悪かったはずなのに、アンタらに怒りをぶつけてしまった……。本当にごめんなさい……」
「ボクのほうこそごめんなさい……。ボクとお姉ちゃんにとってお父様は心から頼りになるただ一つの存在。それを失って、どうしていいかわからなくて、誰も信じられなくなって……あなたたちを悪者にしてしまった。本当に、本当に……ごめんなさい……」
「イオカスタ……」
2人は深々と頭を下げた。そして謝意を示すように頭を上げることをしなかった。
「俺達のほうこそ、ごめん。せっかく反乱軍に来てくれたのに、理事会の罠にも気付かず君達のお父さんを死なせてしまった。その責任は俺達にもある。だから責任は必ずとる」
「氏景さん……」
「クロリス、イオカスタ。俺達を許してくれるか?」
「……うん」
俺は2人の頭をそっと撫でた。
そもそも、まだ幼い2人を思い詰めさせてしまったのは俺達が注意を怠って罠を見逃したから。いくら理事会が悪者だといっても、その罪が消えるわけではない。時間をかけて、ヨルギオスが2人と一緒に生きていけなかった分も含めて償うつもりだ。
この戦争でクロリスやイオカスタのように親や親戚を失った子どもは沢山いる。反対に子どもを失って悲嘆に暮れる親も沢山いる。彼らのケアも今後大事になっていくことだろう。
◆◆◆◆◆
数日後、俺達は召喚されて最初に訪れた反乱軍の基地に来ていた。
久しぶりに元の世界に帰還できる日。恭子の門を使って帰還するには、依然廃墟のままのこの基地に来る必要があった。
「氏景さんは、空想世界研究部の皆さんはこれからどうされるんですか?」
「この世界、”ギーメル”は救われた。でもこれで全てが終わったわけじゃない。俺も部の皆も、これからも在りし日の”ギーメル”を取り戻せるよう頑張るつもりだ。新しく貰った門もあることだし、いつでもここに来れるから、ね」
俺達の手には、新たに作られた異世界転送用の門が1台ずつ握られていた。生前、オドレイが世界が救われた後も俺達が”ギーメル”に遊びに来れるようにと作ったものであった。
「それに統括理事会の手で指導者を殺され、混乱に陥った世界はいくつもある。俺はそれらの世界も救っていきたい」
俺達には、復興を成し遂げるだけの知恵も経験もない。なにせ、高校は中退してしまったからな……。
でも俺達には戦場を勝って生き延びたという何物にも代えがたい大事な経験がある。だからこれを活かして、他の世界も救いたい。
「そうですか……。そうなると、しばらくお別れ……ですね」
「悲しい顔すんなよ恭子ちゃん。別に今生の別れじゃねえだろ? 近いうちにまた会えるさ。いや、会いに行く!」
「ふふ……そうですね」
「こっちの世界の魔導石にはまだまだ興味深いものがあるからねえ。他の世界での活用方法も含めて、研究しに来るよ」
「さすが俊さん。ぶれませんね」
「この世界には、地球では見ることのできない険しい山や海が沢山ある。それらも制覇するつもりだから、よろしく!」
「匡輔さんまで……ふふふ、やっぱりあなた方は面白い方ですね」
変人ばかりが集まる空想世界研究部。最初はただのオタクの集まりのようにしか思えなかった。しかし彼らの知識と行動力はしっかりと役に立ち、ついには世界を滅亡の危機から救うこととなった。俺も彼らに負けてはいられないな。
「さて、空想世界研究部の諸君、いいかね?」
「御厨理事長?」
すると、理事長がどこからともなく基地の中に現れた。
思えば、この人がいなかったら俺は磯別学園にも入学していなければこの部にも入っていなかったし、ましてや”ギーメル”で冒険尽くしの生活を送ることなんて無かっただろう。そういう意味では感謝もしているし、迷惑もいいところだと感じたこともある。複雑な気分だ。
それで理事長は今更なんの用事があって来たのだろうか?
「うむ。諸君はこの世界に召喚される前、学園に退学届を出したであろう? もう元の世界に戻れないかもしれないと思ってのことだろう」
「そういえば……」
あの時はまだ自分の力を信じきれなかったし、救世の道半ばで死ぬ可能性も十分にあった。退学届は当然だった。
「しかし、もし元の世界ーー地球に戻る場合、諸君はどうするつもりだったのかね? 日本は、いやこれからは全世界が学歴社会となる。そもそも青春を謳歌できるのは今だけだ。そんな状態で高校を卒業しないという選択肢はきついものがあるだろう」
「まあ、そうですね……まさかーー」
「うむ、密かに退学届を休学届にすり替えておいた。これで復学の手続きもスムーズに進むことだろう」
「理事長……!」
「理事長特権だ。お前たち4名を今日付で磯別学園高等学校の生徒として復学することを認める。勉学に励め。遊びに励め。肉体のみならず頭脳でも異世界の役に立てるよう精進せよ」
「あ……ありがとうございます!」
俺達一同、土下座して御厨理事長に感謝した。
まさか退学届を休学届にすり替えていたとは、なんて優秀なスパイ……もとい理事長なんだ! これで諦めていたはずの高校生活を楽しめる!
「氏景さん、あちらの学校の様子もたまに伝えてくださいね。私も楽しみですし、なにより世界の皆さんの心の拠り所になることでしょうから」
「ああ、もちろんだとも!」
俺は恭子と腕を組んで固く約束した。
俺は必ず地球の学問と技術を携えて戻ってくる。待っていてくれ恭子。待っていてくれ”ギーメル”の皆……!
こうして俺達の半年間に及ぶ”ギーメル”の冒険は終わった。
だが俺達の冒険はこれからも続く。きっと、ずっとーー
4年5ヶ月の長い年月をかけて、リレー小説完結です。参加者の皆様、そしてご愛読して下さった読者の皆様、本当にありがとうございました。