193 神の終焉
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
恭子を探るべく俺は街の中に潜入した。
格納庫の爆発まで残りわずか。タイムリミットが迫る。俺は来た道をひたすら走った。
「きょ、恭子……!」
官庁街の入口でようやく恭子達の姿を発見した。
恭子は足を動かせない。体の小さなプリヘーリヤとオクサナに彼女の体を預けて移動するのは困難を極める。
俺はなぜ、彼女を担いで街を脱出しなかったんだ! クソ……! このままじゃ彼女たちが爆発に巻き込まれてしまう!
「救世主さま! なんで戻ってきたの……?」
「何をやってるのよ救世主! もうすぐで爆破よ! 早く逃げなさい!」
「女の子を守れなくて何が”救世主”だ! 全員で生きて帰るんだ! 恭子は俺に任せて、2人はさっさと脱出するんだ!」
「う、氏景さん……」
「恭子、もう少しだ。行くぞ!」
「は、はい……!」
「まったくもう……。お姫様を守る騎士のつもりかしら」
「好きなように言ってくれ」
「しょうがないわね……お母さん! あたしの上に乗って! 魔導石は残り少ないけど、ソニックシューズを使えば街の外まですぐよ!」
「う……うん!」
俺は恭子の体を、オクサナはプリヘーリヤの体をそれぞれ担ぎ、3人とともに再び街の外を目指した。
「くっ……」
さっきよりも走る距離は短い。だが火事場の馬鹿力で駆け抜けたことが災いし、激しい筋肉痛と倦怠感が俺を襲う。
一方で、母を担ぐオクサナは自慢の靴のおかげで、住宅街も半ばを過ぎる頃にはもう姿が見えなくなっていた。
「さすがだなあの靴……俺も欲しいぜ……」
「ええ、そうですね……」
俺が彼女の靴を羨ましがっていたその時。
後方から「ゴゴゴ……」と低い地鳴りが耳に入った。まさかーー
俺は体ごと後ろに振り返った。すると格納庫のあたりから巨大な煙幕が上がっていた。
「ヤバい! とうとう本体が自爆したぞ……!」
その煙幕は猛スピードで周囲に広がり、官庁街をあっさり飲み込む。次の瞬間には住宅街も巻き込まれ始めていた。
「今から走っても、間に合いそうにないですね……」
「くっ……!」
こんなところで終われるか! 俺は恭子と一緒に街を出るんだ! 恭子と一緒に……!
でも恭子の言う通り、今から走っても間に合わない。せめて爆発の勢いを食い止められれば、逃げる時間もできるというのに……食い止める?
そうか、食い止めればいいのか。よくバトルもので互いに強力な魔法を撃ち合って鍔競り合いの状態になるシーンを見たことがある。今ここでそれをやれば良いんだ!
俺は恭子をそっと地面に下ろし、格納庫の方角に向かって二丁拳銃を構えた。
「う、氏景さん……?」
もう戦う場面はない。出せる限りの魔力を出し尽くして、恭子を、皆を守るんだ!
すると、魔力が込められていくのと同時に俺の体に青白い光が纏い始めた。どうやら”もう一人の自分”が支援してくれているようだった。これならーーいける。
「なめんじゃ……ねえぞぉぉぉ……!」
『世界を破壊せし絶対神に裁きを! ツザンメンシュトース!』
魔力が充填した瞬間、銃口から例えようもないほど太い魔力砲が発射された。その威力は凄まじく、二丁拳銃は発射途中で粉々に砕け散った。
砕けた拳銃の破片で血に染まる俺の両手。だが不思議と痛みはない。夢中になってさらに魔力を込めようと踏ん張った。
「いっけええええええええええええええ……!」
そして魔力砲は煙幕目掛けて突入し、俺の意識はそこで途絶えた。
◆◆◆◆◆
次に目覚めた時ーーといって、何度この場面に出くわしたのだろうかーー視線の先には白い天井が。ところどころひび割れたり、天井の材質そのものが欠落している部分があるところを見ると、戦闘で占領したところなのだろう。その一室を病室にしているという感じだ。
その荒れ具合と対照的に、背中ではベッドのふかふかを堪能していた。
「氏景さん……」
「恭子……」
右から恭子の顔がそっと視界に入る。その顔は涙でくしゃくしゃになっていた。そのまま、彼女は俺の体にダイブした。
「ちょっと恭子……やめてよ、やめてって……どうしたんだよ」
「氏景さん……! よかった、目を覚ましてくれて……!」
「恭子……腕は大丈夫なのか?」
「はい。プリヘーリヤさんとオクサナさんのお陰で、無事治りました!」
彼女の右腕には機械兵に撃たれた怪我の後が全くない。あれだけの傷、完治したとしても傷痕は残るはずだ。それが全く見当たらないとは、近未来式治療恐るべし。
「おお、それはよかっ……」
「それ、スキあり!」
「うおっ!」
しばらくもみくちゃになった後、今度は部員が病室を訪れた。
「失礼するよ氏景……おやおや?」
「ううむ、どうやら僕達はお邪魔虫のようだね」
「おい氏景! 羨ましいぞ! 俺も混ぜろ!」
俺達を冷やかす部員たち。あんたら、何のためにこの部屋に来たんだよ……。
ていうか山野、混ぜろってなんなんだよ。まあ、オドレイが生きていたらコイツも同じ良い思いができただろうからな、気持ちはわからなくもないが。
さらに、反乱軍のメンバーが病室の扉を開く。
「お、救世主さま、恭子ちゃん。ラブラブだね~。ヒューヒュー!」
「公女メリエルも思いを寄せる男の前では、一人の少女ということね」
「アヤノもあの世で悔しがっておるかもしれんのう」
「ちっ、まともに回復してねえうちから盛りやがって……」
「まあまあ、世界は救われたんだ、少しぐらいいいじゃないか」
「うむ、そうであるな。ただ学園の長としては、いささか目に余る光景ではあるが」
「さて、救世主様と恭子の仲は良好、っと」
反乱軍も冷やかし止めるどころか、部員に乗っかって俺達をおちょくり始める。
これだから反乱軍は悪ノリばかり上手な奴らばっかで……。でもこの雰囲気、何故か心が落ち着く。きっと本当の平和が訪れたからこそ、裏表なく素の自分を出せるのだろう。
彼らの顔が、機械の化け物に勝利したことをなによりも裏付けていた。
俺達は世界を救ったんだーー
病室に明るい笑いがいつまでも続いた。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。次回、最終回となります。