192 最後の抵抗
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
静けさばかりが漂う格納庫。しばらく待っても機械兵が現れるどころか、近づく足音すら聞こえない。
これは成功したのか? 俺はちゃんと正しいスイッチを押せたのだろうか?
「きゅ、救世主様! 機械仕掛けの神、完全に停止した模様!」
するとさっきとは別の反乱軍兵士の1人が、朗報を持って俺達の元に駆けつけた。
「ほ……本当なのか!?」
「はっ! 溶鉱炉および制御装置は機能停止! 研究室の照明も落ち、機械兵も微動だにしません!」
溶鉱炉も制御装置も、そして機械兵も停止。それはつまり、機械仕掛けの神の人工魂と動力源が完全に機能しなくなったことを意味していた。
「や、やったあああああああ! 俺達はついに勝った! 勝ったんだ!」
「いやいや、長い戦いだったねえ。でもこれで、俺達は役目を果たしたことになるんだねえ」
「やったな氏景! 君は本当の”救世主”だ!」
「ふう……とうとう、やりました……ね……」
「ああ、実に長かったな……」
歓喜に湧く一同。
俺達がこの世界に来てから半年、そして開戦から1年4ヶ月。機械仕掛けの神による大量虐殺はついに終焉を迎えた。
だがその中で、オクサナはただ1人表情を崩さなかった。
「……ねえ、そこの兵士くん。司令官の人に伝えてくれる? 『今すぐ街を脱出したほうが良い』って」
「は、はあ……しかしなぜでしょうか?」
「何かあったの~? オクサナ?」
「お母さん、さっき機械仕掛けの神の一部が崩壊しているって話したよね?」
「ええと、出入口の反対側が壊れているんだっけ?」
「実はその下、機械兵自動製作装置があるの。だから機械兵の材料の一部はそこから調達しているのはわかったの。でも、その製作装置にはもう一つ仕掛けがあって……」
「仕掛け?」
「どういうことなんだオクサナ?」
自動製作装置に仕掛けが? しかし機械兵を造る以上に機能を持たせる意味なんてあるのか?
ましてや機械仕掛けの神が停止したこの状況下で発動する仕掛けなんてーー
「自爆装置よ」
「じ、自爆装置?」
「外敵がキストリッツを占領した後、その外敵が機械仕掛けの神を利用できないよう、外敵を占領下の市民と街もろとも吹き飛ばす仕掛けがあるの。それがここの自爆装置」
「……な!?」
「しかも、崩落した本体の欠片には魔導石が含まれている上に、爆発時には人工魂用の魔導石がまるごと転がり落ちて来る仕組みになっているの。そんなものが爆発したらどうなるか……わかるわよね?」
そんな恐ろしい仕掛けが製作装置にあったなんて……。じゃあ、早く脱出しないと俺達全員死んじゃうじゃないか!
ここまで来たんだ! ここで死ぬなんてまっぴらごめんだ。全員で生きて帰るんだ!
「発動まであと10分。早く伝えて!」
「は、ははあ!」
「よし、あたしたちもさっさと脱出するわよ!」
「お、おう!」
上の階にいるアッキーの元に向かっている時間はない。俺達は急いで格納庫の出入口に近づいた。
が、ここで大きな障害が立ちはだかった。
「な……出入口がない!?」
機械仕掛けの神の正面。俺達が格納庫中心部に入った時、爆弾を使ってこじ開けたはずの出入口が綺麗さっぱり消滅し、完全に周囲の壁と同化していた。
「まやかしに決まってんだろ! んなのに騙されねえぞ!」
山野はダッシュで出入口があった場所に体当たりを試みる。
「……ぐへっ!」
が、その試みも虚しく、山野の体はバウンドしてそのまま後ろに盛大に倒れた。見た目だけでなく材質までも完全に壁となっていたようだ。
「ううむ、どうやら外敵を殲滅するために出入口を自動的に塞ぐ仕組みになっていたみたいだねえ」
「みたいだねえ、じゃないよ俊。このままでは僕達はここで木っ端みじんにされてしまう。ここは出入口をもう一度爆破して強引にこじ開けるしかないよ」
「でも、私たちの魔導石はさっきの戦いで使い果たされました……。とても、魔力を使って破壊、なんて……」
「ふむ、最大限戦いで消耗させて脱出する力をそぎ落としていたわけか。なかなか考えられた仕組みのようだ」
そこまで計算して作り込んでいた仕掛けだったのか。しかし脱出しないと俺達の命が危ない。
魔力があれば、魔力さえあれば……って、待てよ? この世界では、普通の人間は魔導石がないと魔法を発動できない。でもその条件に当てはまらない人間がここに1名いる。それはーー
「恭子。そして部長。俺にやらせてください」
「う、氏景さんが……?」
「俺なら魔導石がなくても魔法を使えます。この二丁拳銃に魔力を込めれば、こんな壁なんてすぐに突破できる」
俺には無尽蔵の魔力が秘められている。それに俺は戦闘の後半はほとんど参加していない。だから魔力は十分残っているはずだ。
「なるほどねえ。氏景、よく表明してくれたねえ」
「氏景さん……お願いします!」
「ああ!」
俺はすぐに二丁拳銃を出入口に向かって構え、ありったけの魔力を込めはじめた。
爆発まで時間は少ない。反乱軍の皆が脱出する時間を考えると出入口の突破に時間はかけていられない。俺は間を置かず、すぐに拳銃を発射させた。
そして轟音とともに壁は壊れ、通ったことのある通路が出現した。
「皆! 急げえええええええええええ!」
「おおおおおおおう!」
出入口が現れるとともに反乱軍の主力部隊が到着。俺達は全身の筋肉と体力を限界まで振り絞り、ひたすら通路を駆けていった。
通路を脱出し格納庫の外へ。格納庫の外から官庁街へ。官庁街を抜けて住宅街へ。そして住宅街を抜けて街全体を囲むシェルターの入口に到着した。
「皆! ここから脱出だああ!」
「ぬおおおおおおおおおおおお!」
こんなとこで死ねない。俺達の思いは一つ。反乱軍は血眼になって我先にと入口に殺到した。
一方、俺は”救世主”として皆を守る義務がある。入口が狭くて喧嘩になってはまずいと、拳銃を使ってシェルターの壁に開けられるだけの穴を開けていく。後方にいた兵士は皆、その穴から順次脱出していった。
「よし、これで最後かな……」
「おい氏景!」
「あ、アッキーさん!」
「聞こえるかーい! 氏景くーん!」
「サライさんまで……」
アッキーとサライが反乱軍の一番後ろから登場。肩で息をしながら街の外に出ていった。
「ちっ、この年で義足のまんまで走らされるなんて夢にも思わなかったぜ……ぐっ! ヒザが、ヒザがすげえ痛ええええ!」
「でもこれで、全員が無事に脱出して……ってあれ? 恭子は?」
街の外、プリヘーリヤやオクサナと一緒にいたはずの恭子の姿はどこにもなかった。まさか逃げ遅れたのか?
「俺、恭子を探しに行きます! 皆は街から離れてください!」
「ちょ、氏景くん? おーい、氏景くーん!」
「ちっ、あのガキ勝手に突っ込みやがって……オレも行くぞ!」
「ちょ、アッキーまで……」
世界を救っておいて、好きな女の子1人守れないなんて情けない。ただでさえ俺はアヤノを失っているんだ、同じ轍を2度も踏みたくない!
皆の制止を振り切り、俺は恭子を救うべく街の中へ再度突入していった。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。