190 停止装置
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
「これが停止装置か……」
機械仕掛けの神の停止装置にたどり着いた俺達。
外見はビルの中によくある配電盤といった感じ。そして白い金属の蓋を開けると、そこには複雑に配列された電線とスイッチが俺達を待ち構えていた。
「これ本当に停止装置なのか? 停止ボタンみてぇなのが全然ねぇぞ」
「設計書によると……停止ボタン1つで止まるわけではなく、スイッチを設計書に記された順番通りに入れると停止する仕組みのようですね」
恭子はそういうものの、スイッチの配置に法則性はなく、直感的に左上から順に入れようものなら侵入者排除システムが稼動してしまう仕組みらしい。なので設計書を見ながら、慎重に入れるべきスイッチを入れていく必要がある。しかもその数、なんと100。
「まあ、外部の人間が簡単にスイッチを入れることができてしまったら、世界中に影響が出るだろうからねえ。複雑なのは仕方ないねえ」
「ただ、緊急停止したい時はどうするつもりなんだろうね? いちいち設計書を見ながら100個も押すのは骨が折れる作業だ」
「緊急停止用スイッチは、統括理事会の上級幹部室にあります。ですがそのスイッチを入れても5分後には稼動が再開する上に、稼動再開後24時間はそのスイッチも機能しないのです……」
「しかも兵士の報告だと、そのスイッチも壊されていたみたいだよ~。機械仕掛けの神が自分を強制的に止める装置を自分で壊したんだろうね~」
「なるほど、結局俺達はこの複雑な機械と格闘せにゃならんということだねえ」
自ら緊急停止用スイッチを壊したのか。しかしスイッチ自体は殺される側の上級幹部が握っていたはず。彼らの抵抗をものともせず破壊するとは、機械仕掛けの神め、どんな手を使ったんだ?
「では、停止装置を動かします。皆さんは周囲に機械兵が近づいてこないか見張っていてください!」
「OK! 近づいたらぶっ壊してもいいんだな?」
「はい」
恭子は設計書を見ながら、すぐに停止装置のスイッチを入れはじめた。
それから間もなく、機械兵が続々と装置の近くにいる俺達の元に集まりはじめた。
「これが最後の戦いだ。皆! 死力を尽くして戦おう!」
「おうっ!」
迎撃態勢を取り、次々と機械兵を破壊していく俺達。異世界に来てから半年、戦闘も慣れたものだ。
一方の恭子は、俺達の後ろで黙々とスイッチを入れていく。
「皆さん! あと半分です! あと50個入れれば止まります!」
「合点承知! あと少しだ! 頑張るぞ!」
俺達は最後の力を振り絞り、恭子の防衛に努めた。
ここまで滞りなくスイッチを入れていく恭子。もう間もなくで世界は救われる。そう思ったときだった。
「うっ……!」
後ろで痛みを堪えるかのような声が聞こえた。そして、体が床に倒れるような音がゆっくりと鳴り響いた。
まさかーー
「恭子!」
振り返ると、停止装置の前で右腕を押さえながら血を流して倒れる恭子の姿があった。
「大丈夫か、恭子? どこか痛むのか?」
「み……右腕を撃たれました……。痛くて……せ、設計書を読みながら……す、スイッチを入れるのはとてもとても……」
「クソ! あともうちょいだってのに……!」
すぐにでも恭子の手当てを行いたいが、機械兵の数が多くなかなか近づけない。
どうやら俺達の迎撃を躱し、機械兵の一撃が恭子の右腕に命中したようだ。
「恭子ちゃん、大丈夫しっかりして! あたしが治療するから!」
俺達に代わりプリヘーリヤが恭子の治療を行う。そして機械兵の来襲が収まった頃を見計らい、俺達も恭子の側に寄り添った。
「恭子! ……恭子おおおおお!」
「大丈夫だよ救世主さま。出血は止まったから、しばらくは大丈夫。でもスイッチを押す作業はさすがに……」
「そんな、ここまで来たってのに……」
停止装置を作動させれば、果て無き殺戮に終止符が打たれる。ここで彼女がいなかったら、誰がスイッチをーー
「う……氏景さん……。氏景さんが、わ……私の代わりにスイッチを押してくれ……ますか……?」
「……えっ?」
「わ、私がスイッチの……押す順番を……お、教えます……。氏景さんは、私の指示に従って……スイッチを、押してください……」
「……!」
俺が停止のスイッチを押す。この複雑な仕組みのスイッチを……。
万が一押す順番を間違えば、俺達は排除システムの餌食となって木っ端みじんになる。果たして俺にそんな役目がーー
「氏景、ついに最大の出番だよ。今こそ”救世主”として動く時だ」
「部長……?」
「そうだ、”救世主”の役割を果たすチャンス、今しかない」
「五十嵐先輩……」
「だーいじょうぶだって! お前や皆の力があったからこそ、ここまで来れたんだろ? 今回も大丈夫さ!」
「山野まで……」
そうだ、俺は世界を救うためにやってきた”救世主”。ここで頑張らなきゃいつ頑張るんだ!
「恭子……よろしく頼む!」
「氏景さん……はい……!」
決意して装置の前に立つ俺。異世界”ギーメル”における最後の仕事が、今始まるーー
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。