189 機械神、姿を現す
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
防護マスクをしても耳をつんざく轟音の後。
粉々に砕けた扉の先に、巨大な金属の絡繰りが堂々と鎮座していた。
「これが、機械仕掛けの神か……!」
超高層ビルほどの高さはあるだろう金属の塊。その部屋の壁には無数のモニターが置かれ、プログラミング言語と思しき文字の羅列が映し出される。
さらに巨大なコンピューターが稼働しているにも関わらず、歯車やファンの回る音は聞こえず室内は呼吸音が聞こえるほど静かであった。
「ほう、ついにラスボスの登場だねえ。これほど大きなコンピューター、これが150年も前から稼働していたなんてまさに感動ものだねえ」
「が、そのコンピューター、今はエラーの嵐見てえだな。モニターを見ろ、『緊急事態』を示す赤い文字があちこちに出てるぜ」
指摘通りモニターに再び注目すると、その半分近くに『緊急事態』の文字が映し出されていた。
コンピューターの演算結果も、そのモニターに限っては目にも止まらぬスピードで次々と表示されていた。
「やっぱり、入り口を爆破したのが原因なのだろうか?」
「いえ、出入り口の状態を示すモニターは管理室にしかない。今見えているモニターの多くは、機械兵の軍編制ごとの状況や機械仕掛けの神が統括する世界中の情報処理システムの状況を表しているものだわ」
「そのようですね……。ただ、破壊済みの外部のシステムだけではなく、機械仕掛けの神本体にも異常箇所があるようですね……」
「そうね。本体のあらゆる部分に魔導石不足や異常過熱が検出されている。人工魂暴走の線も有り得るわね」
「ここ数日の機械兵の不調、原因はここにあると見える」
機械仕掛けの神の詳しい仕組みを知る人達が、ラスボスを前にして議論を繰り広げる。
現状を確認する限り、本体の中身はもうボロボロのようだ。
「機械兵もやってこなけりゃ、罠もねえ。このスキに本体を占拠するぞ!」
「おう!」
「……が、そのためには魔力波動を突破する必要がある。恭子、頼んだ」
「はい、アッキーさん。では氏景さん、共に参りましょうか」
「……ああ」
「波動が流れている位置の近くに来たら合図をしますので、必ず立ち止まってください」
俺と恭子は高圧魔力波動で覆われた本体に近づいた。
といっても、波動自体は無色透明なので見えるわけではなく、俺は恭子の注意に耳を傾けながら足を前に運んだ。一歩間違えば、俺とてあの世行きは確実だからだ。
「ここです、氏景さん」
そして、本体の50cm手前で俺達は立ち止まった。ここが魔力波動が流れている場所のようだ。
「氏景さん、両手で二丁拳銃を横にかざしてください」
「こうか?」
「はい。そして私に続いて同じ呪文を唱えてください」
俺が二丁拳銃をかざしたのに続いて、恭子も横で自分の杖を本体にかざした。
そして目を瞑りながら、透き通った美しい声で呪文を唱え始めた。
『我が契約の血の下に、其の怒りを鎮めたまえ』
『我が契約の血の下に、其の怒りを鎮めたまえ』
『そして我が命において、其の神髄に触れさせたまえ』
『そして我が命において、其の神髄に触れさせたまえ』
恭子に続いて俺も瞼を閉じながら呪文を唱える。すると、全身から機械仕掛けの神に向かって魔力が流れ、俺の体から力が抜けた。
「……もう、大丈夫です」
恭子に言われ瞼を開くと、とてつもない疲労感が俺を襲い、立つことも難しい状態となっていた。恭子も同じく、杖を握りながら息を荒げて座り込んでいた。
「大丈夫か? 恭子……」
「ええ……大丈夫です。いつもこうなんです。機械仕掛けの神の魔力波動を解除するには多大な魔力の消費を必要とします。だから、全身の力は抜け、魔導石もすべて魔力が枯渇するのです。はぁ……説明するのも辛い……」
恭子はとうとう床に手を突いて、天を仰ぎながら息を整えた。
世界を司る機械を自分の魔力だけで操るのだ、疲れないわけがない。今回は俺と恭子の2人で解除したが、彼女が調整員だった時は彼女1人で魔力波動を解除していたのだろう。そうなると、彼女は今みたいに誰かと話すことなどできたのだろうか? 気になるところだ。
「よし! 総員、機械仕掛けの神を占拠しろ! この虐殺劇にケリをつけるぞ!」
「おう!」
アッキーの命令に従い、反乱軍はすぐさま機械仕掛けの神を占領した。占領中、指揮官と兵士の怒号と階段を駆け上がる音が格納庫じゅうをこだました。
一方の俺と恭子は、部の皆の肩を借りながら本体の下部にある停止装置の場所にたどり着いたのだった。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。