188 防御網
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
「リーダー! 理事会本部にも行ってみましたが、生存者はゼロでした。上級幹部室にいた幹部も全員死亡しています」
「そうか……ご苦労」
休憩を取り終えた後、俺達は再び進軍を開始した。
これまでと同様、罠がひしめく道のり。教団総本山の部屋より先は中央が吹き抜けになっており、一番外側に通路がある構造。階段なしで上り下りできるよう通路は傾斜がついており、そこに罠が集中的に設置されていた。
しかしこれまでと違い、罠が発動するタイミングを掴んだアッキーとサライの指示で犠牲者は激減。反乱軍は悠々自適に機械神へと近づいていった。
その途中、理事会本部に向かっていた反乱軍兵士からも報告を受け、理事会と教団関係者は残らず始末されたことが判明した。
「理事会と教団、あっさり壊滅しましたね」
「ああ。手綱を引く人間はもういない。あとは機械の化け物を直接潰すだけだ」
結局、理事会や教団関係者に戦に秀でている人間はいなかった。
戦った相手はいつも機械兵か魔物ばかり、つまるところ彼らも能力平均化とは無縁ではなかったようだ。
その後、さらにいくつかの罠をくぐり抜け、いよいよ金属製の分厚い扉の前に
「皆さん、まもなく機械仕掛けの神の本体です。本体の外側には高圧魔力波動が流れており、普通の人が触れると即死します。用心してください」
「了解した。おい! すぐに開門の準備を進めろ!」
「はっ!」
いよいよ機械の化け物の登場か。
高圧魔力波動、いかにも魔法の世界という感じの防御網だ。俺達の世界なら高圧電力が流れる鉄条網が主流だからな。
でも魔力波動のほうが余計な装置をつけずに済むから、機械仕掛けの神全体を見渡しやすいかも。
「氏景さん、高圧魔力波動ですが、シュトラウス家の末裔だけが使える魔法であれば突破できます」
「シュトラウス家の末裔だけが使える魔法?」
「はい。調整員はルクレツィオさんをはじめシュトラウス家とは無関係の人もいますが、中の溶鉱炉や研究室に入るには専用の魔法を使う必要があります。そしてその魔法は使える人が限定されているのです」
「しかし、それがなんでシュトラウス家の末裔だけってわかるんだ?」
「統括理事会の調整員試験でその魔法が使えるかどうかのテストが行われます。私も調整員になってから、そのテストに立ち会ったことありますが、魔法を使える人間と使えない人間がハッキリと分かれました。でも、技術力や経歴を見ても法則性はなかった。ただ、魔力にある法則性が見つかりました」
「法則性……まさか、それがシュトラウス家を示して?」
「理事会の人間には、ただ法則性があるとだけ伝えました。それまでその魔法を使える人間の判別方法は分かっていませんでしたから。ただ、私には分かりました。佐藤家の資料にシュトラウス家特有の魔力波動に関するデータがあったものですから」
「機械仕掛けの神を動かす魔導石はエルネスタのもの。共鳴する魔力を使うことで突破できる仕組みだったのかも」
「そうかもしれませんね。完成後、機械仕掛けの神は公爵家の所有物となった。理事会や教団とて、時の大公の許しを得ずに世界を統べる神に触れることは許されなかった。だから公国滅亡後、公爵家の人間がいなくなったことからしばらくはメンテナンスもできなかったようです」
「結局、恭子のように本体に触れる調整員の数は?」
「さあ、わかりません。ただ数人しかいないと聞いたことがあります」
シュトラウス家の末裔は自分の血統を知らない人物もいると、以前オズワルトは推察した。
調整員の中にもそんな人間がいたのかもしれない。そして偶然、統括理事会の一員として働くことになった。
「ちなみに、開発に深く関わったエグザルコプロス家とコヴァルスキ家の人間、もしくはそれ以外の人間でもいいけど、彼らが魔力波動を突破できるなんてことは……」
「ないですね。魔力波動は血統によって特徴が違います。両家をはじめ、世界中の貴族の魔力波動データもありましたが、一致する部分はありませんでした」
「そうか……」
「でも、氏景さんは私と同じ末裔の1人。あなたならあの高圧魔力波動を突破できる。……魔法の発動呪文については、その時になったらお教えします」
全ての貴族についてデータが揃っているのか。どうやら、かつての貴族の末裔が人口削減計画の黒幕ってことはなさそうだな。
恭子と話しているうち、いよいよ開門の準備が整ったようで扉には爆破装置が仕掛けられていた。
「これから爆破するぞ! 全員伏せろ!」
アッキーの命令に従い、反乱軍は全員床に伏せて開門の時を待つ。
さて、機械の化け物、どんな見た目をしているのやら――
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。