186 設計書入手
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
「ここが資料室です」
俺達はワープ装置を使い、格納庫の中にある秘密の資料室の扉の前に来ていた。
「こんなところに資料室があったなんて……」
「ここは公爵家秘蔵の資料が納められた資料室。統括理事会ですら入口も暗証番号も知らない秘密の場所です。では、入りますよ」
統括理事会ですら知らない場所か。エグザルコプロス家同様に、公爵家も専用の資料室を持っていたようだ。
もしかしてこの世界の貴族は皆、自分の城や宮殿に専用の資料室を持っているのだろうか?
そして恭子が暗証番号を入力して扉を開けると、そこに待っていたのは――
「え……恭子ちゃん?」
「あら、お姫様が登場ね」
俺達の入室に驚くプリヘーリヤ・オクサナ母娘。思いがけない2人の姿に、俺達もまた吃驚せざるを得なかった。
なぜ公爵家の人間しか知らない部屋に彼女達が?
「プリヘーリヤさん、オクサナさん、なぜここに?」
「えっと、オクサナに連れられてこの部屋で久々の母娘の会話を、ね」
母娘の会話か。考えてみれば2人は1年間も会うことのない生活を続けていた。
反乱軍と統括理事会、それぞれ敵対する組織に所属していた2人だ、積もる話も色々とあったのだろう。
「あたしはこの資料をあなたに渡すつもりでいたわ。恭子さん、いえ、公女メリエル」
俺と恭子、アリスの3人しか知らないはずの本名。それを口にしながら、オクサナは端末を恭子に向かって軽く投げた。
「え、オクサナさんが何故私の本名を……?」
「アリスさんから聞いたわ。『恭子は――メリエルは必ず格納庫の資料室を訪れる。母娘2人で心置きなく会話を楽しむためにも、資料室に行くとよい』って言われてね」
「やはり、アリスさんも私の本名を知っていたのですね……」
オクサナから貰った端末を開くと、そこには機械仕掛けの神の下半分の図面が詳細に書かれていた。
「これは、設計書の下巻……! 機械仕掛けの神の下半分がこうなっていたなんて……!」
「見てください氏景さん。これ、間違いなく停止装置ですよね」
「あ、本当だ!」
設計書の最下部。機械仕掛けの神の本体の一番下に停止装置の存在を示す図面が書かれていた。
「でもなぜオクサナさんがこの場所を? 公爵家の人間しか知らないはずなのに……」
「人口削減を終えた後、理事会はキストリッツを改築する計画があった。その調査として格納庫が真っ先に調べられたの。そしてあたしはこの資料室の存在を知った」
「そんな……では、もうこの部屋の資料は洗いざらい調べられて……」
「安心して。改築計画を阻止するため、その設計書をはじめ最重要書類をいくつか確保しておいたわ。本当は反乱軍に渡したかったけど、その機会は訪れなかったからあたしがずっと隠し持っていたの。念のため、改竄した資料室の内部に関する報告書を理事会上層部に渡しておいたわ」
「それで上層部は納得したのか?」
「そうね。結局重要資料がないことが分かった上層部は資料自体には興味を亡くしたの。そして『ごく限られた人間しか入れない』という特性を生かして、この部屋を統括理事会の専用資料室にしたの。といっても、管理者はあたしだったから理事会の特別資料は見放題で、反乱軍に情報をリークするのも簡単だったわ」
裏工作もバッチリという訳か。理事会もここまでザルな管理体制でよくも今まで持ったものだ。
それだけ『幻視の魔道具持ちの女スパイ』としての彼女が信頼されていた証なのかもしれないな。
「さて、機械の化け物の弱点も把握できたことだし、中枢部隊の人たちに報せに行きましょうか」
オクサナの一声で、俺達は反乱軍の本部へと戻っていった。
◆◆◆◆◆
本部に戻ると、反乱軍の将兵は全員防護服と防護マスクに身を包んでいた。
さすがに数万人の人間が身につけると大変物々しく、これから化学兵器か生物兵器でも使いそうな雰囲気であった。
そして空想世界研究部の皆もまた、防護服と防護マスクを装着していた。
「ぶ、部長! これは一体?」
「おお、氏景に恭子ちゃん。実はこれから格納庫に潜入することになってね」
「いよいよ機械仕掛けの神の内部に進入するのですね」
「でも一つ問題があってねえ。格納庫の内部から凄まじい悪臭が立ち込めているんだよ。毒ガスの可能性もあるから、皆防護服をつけて攻略に当たるみたいだよ」
「ど、毒ガス?」
「じゃ、氏景も恭子ちゃんも。はい、防護服とマスク、それから酸素ボンベ」
部長から装備が次々と渡されていく。
格納庫内部は毒ガスが充満しているのか。酸素ボンベも渡されるぐらいだから、丸腰で呼吸するのも困難なようだ。
侵入者を潰すため、機械仕掛けの神も手段を選ばないらしい。
「よし。じゃあ、俺達も格納庫へ進もう」
装備を整えた俺達は,反乱軍に続いて格納庫内部へと足を進めた。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。