185 設計書の行方
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
長時間の激しい戦闘の末、反乱軍は機械兵を掃討。撃破には成功したものの、犠牲は少なくなかった。
そのため俺達は一旦、キストリッツの市庁舎で休息を取ることにした。
「機械兵の抵抗、かなり激しかったな……」
「やはり、戦力を集結させていたと見るべきかねえ?」
「いや、その割には機械兵の数が少ねぇ。官庁街の先は公爵家の宮殿を改造した格納庫、侵入者を潰す仕掛けは腐るほどある。仕掛けの威力を上げるため、機械兵はメンテナンス時を除いていねえはずなんだが……」
「昔潜入した時の情報では、戦闘時も運用方法は変わらない。だからここを突破されたら、機械兵を集められる場所はもうないはずなのに……」
つまり、さっきの戦闘が事実上最後の機械兵との戦いになるのか。
長時間の戦闘とは言ったが、戦闘自体は1日で終わった。もし何十万機も機械兵がいたら、数日どころか数か月はかかり、戦死者はもっと増えていたことだろう。
やはり機械仕掛けの神の不調が頂点に達したのか。それとも、別のところに魔導石の力を集中させているのか――
「リーダー! 格納庫以外の街の占領が完了しました!」
「リーダー! 格納庫の包囲、まもなく完成致します!」
「おう、ご苦労。とりあえず警備を交代させて、テメェらは休め」
「はっ!」
「明日は決戦だ。一気にカタをつけるぞ」
いよいよ機械の化け物とのご対面。本体にどんな武器が備えられているのか想像もできない。
今までで一番厳しい戦いになることも覚悟しておかないとな。
「それとリーダー、1つ気になることがあるのですが」
「なんだ?」
「はっ。実は街中どこを探しても、機械兵はおろか住民の姿が全く見当たりません。完全にもぬけの殻です」
「探し方が悪いんじゃねえのか? さすがに住民の1人や2人、いねえとおかしいじゃねえか。もいっかい探してこい」
「はっ!」
アッキーの指令で、部下が再び住民の捜索活動に取り掛かる。
「おいサライ。この街に避難施設はどれくらいある?」
「地下の避難施設が30か所、それらの収容人数の合計はこの街の人口に匹敵するね。でも、反乱軍がすべて占領したって報告を受けたけど」
「じゃあ、格納庫の中にいるってのか?」
「格納庫内には統括理事会本部やマキナ教団の総本山がある。いるとしたらそこなんだろうね」
理事会本部や教団の総本山なら規模も大きいし、収容人数も相当なものだろう。
最終防衛線であるヴァレイダムを反乱軍が占領してから時間もあったし、避難が完了してもおかしくはない。
「それなのだがね、街の住人が避難を始めたのは数日前だ。理事会や教団の指示を受け、住民が格納庫に移動しているのをわしも見ている。確か機械兵も何体か護衛でついていたな」
「決まりだね」
次々に報告を受ける俺達。するとその場に、恭子がおずおずと現れた。
「あの……氏景さん、ちょっとよろしいですか?」
「恭子……?」
決戦の地、キストリッツ。先祖の故地にあって彼女も何か思うフシがあるのだろうか?
俺は彼女の後に続いて、官庁街の裏手に足を運んだ。
◆◆◆◆◆
しばらくすると、恭子は格納庫の外壁の側で立ち止まった。
「恭子……一体ぜんたいどうしたんだ? そろそろ話してくれないと……」
「氏景さん……実は私、今まで隠していたことがあります」
恭子が神妙な表情で、俺に秘密を打ち明けようとする。だが俺には、その秘密の検討はもうついていた。それはもちろん――
「氏景さん、実は私――」
「本名“メリエル・シュトラウス”。シュトラウス公爵家の子孫である。そうだろう?」
「えっ、知っていたん……ですか?」
「今までの恭子の様子や能力、聖光真聖会が話したことをまとめればわかる。それに俺も公爵家の始祖、エルネスタ・シュトラウスの子孫なんだからな」
「そう……でしたね」
もっとも、恭子が公爵家の子孫だと公表したことは一度もない。
彼女が公爵家の子孫だと判明すれば、統括理事会は彼女を拉致しようと躍起になっただろう。それも公表を避けてきた理由の一つだ。
だが俺には、それ以外にも理由があるような気がしてならなかった。
「その通り。私、佐藤恭子はシュトラウス家の一員。それもルートヴィヒ大公の直系子孫です」
「直系……そんなに偉かったのか」
「偉かったなんてそんな……そもそも子孫だとばれたら暗殺は確実。理事会に素性がばれていないか、いつも神経を使う毎日でした。だから、今まで公爵家の子孫で良かったと思ったことはありませんでした」
「……すまん、そんな辛いことを思い出せてしまって」
統括理事会は世界を統治する組織。公国滅亡の経緯からも、公爵家の子孫であることを明かすことは自殺行為。
彼女もそうだが、彼女の親戚も等しく暗殺の恐怖に怯えていたのだろう。
「でも、ようやく子孫で良かったと思える瞬間に立ち会えました。私は今、機械神の弱点を記した書物の在処を知っているのですから」
「え、そうなのか?」
「はい。私の実家、佐藤家には機械仕掛けの神の詳細な設計書が収められています。それがこれです」
恭子はバッグから端末を取り出すと、空中に設計書らしき図面や文章を表示させた。
「これが、機械神の設計書……! あれ? でもなんか下半分が欠けているような」
「はい。ここにあるのは設計書の上巻、つまり半分に過ぎません。もう半分、下巻はこの格納庫の中にあります」
「マジか。つまり停止装置のこともその下巻の中に……!」
「これから下巻を回収します。氏景さんも手伝って下さい」
「喜んで!」
恭子は端末をバッグにしまうと、暗証番号を押すように格納庫の壁を指で順番に押した。
すると壁の一部が長方形に開き、その先にワープ装置らしき円形に囲まれた床が出現した。
「では行きましょうか」
俺達はワープ装置に乗って、下巻が収納された部屋へと向かった。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。