180 先祖と子孫
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
「……ソティリオスの手記はここで終わりのようですね」
恭子は手記の内容を読み終えると、映像資料の電源を切って机の上にそっと置いた。
一方で、これから盛り上がるという場面での唐突な終了に俺達はモヤモヤした気分を隠せなかった。
確かにヨルギオスが前に言っていた通り、ペトラスポリスの復興や機械仕掛けの神の開発経緯については書かれていた。
しかし肝心な部分、機械仕掛けの神の特性や弱点、氏澄が日本に帰った経緯について触れることはなかった。
そう言えば、アリスから以前「機械仕掛けの神を巡る世界大戦でソティリオスとタデウシュは戦死した」と言っていたが、この鉱山を巡る争いがそれに当たるのだろう。締めの言葉も無く手記が終わったことからもそれは確実だ。
「ふむ、懐かしいのう。もうあれから150年とは、月日が経つのはなんとも早いものじゃ」
「わ! あ、アリス、いつからここに?」
「そうじゃのう……氏澄が世界的な技術者になったところからかのう」
「ほぼ全部じゃんかよ」
「しかし奴め、こんな日記を残しておったのか。文章も奴らしい大げさな表現が多いのう。読んでて恥ずかしくはならなかったか? 恭子」
「いえ、私にとっても無関係ではない書物です。おかげで御先祖様のこともわかって……」
「え? 恭子ちゃんの御先祖様のことなんて書いてあったっけ?」
「……あ! いえいえ! 私の御先祖様もこの時代の人として暮らしてたのかななんて想像しただけです! 他意はありませんよ?」
そう言えば、俺以外の部員は恭子がシュトラウス公爵家の子孫であることを知らなかったっけ。
でも決戦の地、キストリッツは目前。もう隠し通す必要もない気がするけど……。
「御先祖様と言えば、手記の中に出てきた氏澄って氏景の御先祖様なんだよねえ。まさか本当に異世界に行ってたなんて。これで理事長に良い報告ができそうだよ」
「はは……それはどうも」
幸い、手記が書かれたのは氏澄やソティリオスがフリューゲルスベルクに移住してからのこと。
かつて聖光真聖会の総本山で見たマキナやデメトリオス関連の思い出話は一切載っていない。あれについては"もう一人の自分"から口止めされているしな……。
"もう一人の自分"と言えば、アリスの話では氏澄とエルネスタは後に結婚して子供を2人儲けることになる。
となると、俺は理事長だけでなくシュトラウス公爵家――つまり恭子とも親戚ということになる。となれば、恭子にも"もう一人の自分"が宿っているということになるが……現時点ではその片鱗すら見せていない。発動条件が俺とは違うのだろうか?
何にせよ、機械仕掛けの神の弱点を知るためにはシュトラウス公爵家独自の資料も必要だ。
そこで、恭子の"もう1人の自分"の発動条件についても押さえておきたいところだ。
その晩、アリスの口から手記に書かれていないソティリオス戦死後の歴史について語れられることとなった。
氏澄日本帰還までは以前に聞いた事がある。が、彼女の口からはそれ以降のシュトラウス公国と機械仕掛けの神についても教えられることとなる――
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。