179 手記の最後
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
その急所とは、オリエント砂漠のことであった。
「た、大変です! オリエント砂漠から、て、敵の大軍が!」
開戦から2ヶ月、機械神破壊作戦の参加国はメーア王国経由でオリエント砂漠に兵を進めていた。
オリエント砂漠とキストリッツの間に大きな都市はない。私の故郷、ペトラスポリスは廃墟のままであり復興のメドすら立っていなかった。
すなわちキストリッツの東側は丸裸。大軍を送られればたちまち陥落しかねない危険な状況であった。
「仕方ない、機械兵をペトラスポリスの廃墟に集中投下しよう」
私はキストリッツに残る500体の機械兵全てを投下し、戦闘に臨んだ。
正直、守り切れるかどうかはわからない。今のペトラスポリスにあるのは城壁だけで城門も存在しないため、攻めるに易く守るに難い。
そこでより確実な勝利を手に入れるため、私は機械仕掛けの神の演算装置を利用することを決めたのだった。
◆◆◆◆◆
機械神が練った策は恐ろしいほどの効果を上げた。
敵の大軍は全滅。機械兵の消耗はなく、ペトラスポリスの城壁もほぼ無傷で済んだのであった。
それどころか、今回の機械兵を指揮したのは機械仕掛けの神自身であり、私の指揮が霞むほど巧みな用兵を見せたのであった。
「今回、初めて演算装置をフル稼働させたけど、こんなにも高性能だったなんて・・・・・・!」
「ここまで完璧な勝利だと、世界中で軍隊構造が一変することになるだろうな」
敵軍には特殊技能を持つ将校も大勢参戦していたが、兵の大半は技能を持たない一般人。
機械神の用兵の前には何の役にも立たず、彼らは次々と討たれたのであった。
「でも今回の戦いで相手も対策を練ってくるはずだ。そうなると、やはり今のペトラスポリスでは防御力に問題がある」
「機械兵の自動製作装置もまだ未完成。機械兵を作るにはまだまだ人手が必要だ」
「となると、ペトラスポリスの復興も考えないとね」
「機械兵の製造工場も沢山ほしいところじゃのう」
皆の進言もあり、私達はペトラスポリスの復興を決意。実行に移したのであった。
◆◆◆◆◆
開戦から暫く経ってペトラスポリスの復興が進み、キストリッツの防衛力は大幅に強化された。城壁は改造され、街を取り囲むように塹壕が彫られ、要塞が多数設置された。
「我が愛しの故郷よ、ついに復活の時を迎えたり! ここから私達の革命は始まったのだ!」
私は再建されたペトラスポリス城の上から高らかに復活を宣言した。城下には人の営みが戻り、在りし日の繁栄が戻るのもそう遠くはないと実感した。
あとは機械兵の自動製作装置の完成を待つのみであった。が、1つ懸案事項が残っていた。
「氏澄、進捗はどうなっている?」
「ほぼ完成間近にござる。が、どうしても揃わぬ部品が1つござる」
「部品?」
「機械神からの命令を処理する装置が思ったより大型になってしまってのう。小型化するには特殊な金属が必要なのじゃ。が、他の装置を組み立てるうちにその金属を使い果たしてしまってのう」
「そこでソティリオス殿とタデウシュ殿にはその金属を入手してほしいのでござる。が、1つ大きな障害がござる」
「障害?」
「まさか、敵国の領土でしか産出しない、とか?」
「・・・・・・左様にござる。いや、正確に申せば鉱山を敵に占領されてしまったのでござる」
「もともとはトラボクライナの領土だったのじゃが、開戦直後に占拠されてしまってのう。彼の国の地理に詳しいお主らなら奪還できると思ったのじゃ」
アリスの言うとおり、私は以前にタデウシュと今は亡き秘書ワルワラからトラボクライナの地理を教えてもらったことがある。
確かにあの国の鉱山地帯は険しい山地が多く、大型機械兵を展開しづらい。そもそも機械神防衛を考えると、これ以上機械兵を割くことはできない。どうやら人間の兵士にも活躍の場はまだまだあるようだ。
「・・・・・・わかった、すぐに向かうよ。その鉱山の場所を教えてくれるかい?」
「よかろう、その鉱山は・・・・・・」
まもなく人間同士が戦場で殺し合う時代は終わる。
その希望を胸に、私はタデウシュら5000人の仲間とともに鉱山に向かった。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。