178 神を支援する者達
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
「最近、機械神製作に反対する勢力のテロ活動が活発らしい」
全国で布教活動をしているユスティナからその情報を得たのは、機械神移設から1か月後のことであった。
「テロ活動? なんでそんなことに?」
「機械仕掛けの神は魔導石の力を以て世界中の人々の能力を強引に平均化する装置。独自の能力を持っていることが権力基盤の貴族や軍人などにとっては、自分の利権を奪い去る悪魔の装置でしかない。抵抗するのは当然だろう」
「そうか……確かにそうだよね。自分の力を奪われるのは、上の地位に上がりたい人にとっては苦痛でしかない……」
「私も布教活動をする中で幾度となく襲撃を受けてきたが、おそらくは貴族や軍人の回し者だろう。聖光真聖会の巫女も何人かテロで命を失っている」
そう語るユスティナの顔をよく見ると、傷や痣があちこちにあった。服の下にも体の傷が無数にあることだろう。彼女といい、アリスといい苦労を掛けて申し訳ない気持ちになる。
「ユスティナ、大丈夫かい? まずはちゃんと治療したほうが」
「すまない、タデウシュ……」
私も名門貴族の跡取りとして育った身、権力闘争の凄まじさは身をもって知っている。さらに、世界中の貴族が各家固有の能力を使って支配者にのし上がった歴史を持つことも知っている。
なにより、我がエグザルコプロス家も音楽魔法を戦闘に応用することで領地を得た一族。その時代に機械仕掛けの神があったら、貴族としての私は存在しなかっただろう。
「さすれば、その反対勢力とやらは皆、貴族や武人ということにござるか?」
「いや、貴族が直接治める街の人や貴族御用達の大商人も加わっている。テロの実行犯の中には、その大商人に雇われた流れ者もいるらしい」
「大商人も結局、自分の利権のために戦っているということか……。どうりで最近資材調達が上手くいかない訳だ。彼らじゃないと入手できない材料や原料もまだまだあるのに、これは骨が折れそうだ……」
「それに、貴族の城がある街は貴族がいたからこそ発展したようなもの。貴族が権力を失えば、その街の伝統や文化が途絶えてしまう。そう考えた住人もデモ活動に勤しんでいるようだ」
「そうか……。キストリッツ建設の時でさえ、モントドルフの住人は村を作り変えられることに反対していた。能力の平均化で不利益を被る人は思ったより多そうだね……」
「だが、農村部や都市の貧困層などは概ね私達を支持している上に、一部の貴族も支持を表明している。一般市民はともかく、貴族は新たな利権作りの機会と捉えている者が多いだろう。なんにせよ、支持者は多いに越したことはない」
ユスティナはそう語るが、支持者の多くは財産を多く持たない下層民ばかり。複雑な利権が絡み、機械神の完成には依然障害が残っていた。
◆◆◆◆◆
そしてその障害は、ついに巨大な牙となって私達に襲い掛かることとなった。
「機械神破壊作戦!?」
「そうだ。大陸南東部のメーア王国をはじめ、80以上の国が作戦参加を表明したそうだ」
「80! 機械神開発に反対する国がそんなにあったとは・・・・・・」
キストリッツの地下収容施設での作業中、私達はその報告を耳にした。
当時、世界には大小合わせて100カ国以上の国が存在したが、その大半が機械神完成を阻まんとしていた。
その他の国も、多くは中立という名目で日和見を決めており、積極的に私達を支持するのはトラボクライナとフリューゲルスベルク自由地域、アルバートル共和国の3カ国のみであった。
「作戦はもう始まっていて、何人もの科学者が殺されているって話も・・・・・・」
「聖光真聖会の寺院も8カ所が奴らの襲撃を受けておるしのう」
「まさか、マキナの理想が最悪の形で裏切られるなんて……」
世界を平和にするための装置。その開発が皮肉にも世界中を戦火に巻き込む切っ掛けを作ってしまったようだ。
「おのれぇ! 拙者らは争いを無くすために動いているのに、何故それを阻むのだ! この分からず屋どもめぇ!」
「う……氏、澄・・・・・・?」
「貴公もそうは思わぬか? タデウシュ殿。結局、貴人は自分の利権にしか頭がないのだ! だから民草がいくら苦しもうと何も感じないし、何も変えようとせんのだ!」
きっと彼も不満やストレスを今の今まで溜め込んで、ついに我慢の限界に達してしまったのだろう。普段は決して暴力に訴えるのことのない氏澄が、周囲の工具や装置を蹴飛ばして怒りを爆発させた。
しかし彼の言葉が、破壊作戦を阻止するヒントを与えてくれた。
「氏澄、ありがとう。良い策が思いついた」
「はぁはぁ・・・・・・良い策、にござるか?」
「ああ。じゃあ今から伝えるよ」
私は氏澄達にある秘策を伝えた。そして、その策に動揺する者と納得する者に分かれた。
「な、そんな策が本当に通用するのか?」
「されど、理には適ってござる」
「問題は実行可能かどうかだが・・・・・・」
「ならば、わらわが方々に手を回そう」
理屈は通っている。しかしコヴァルスキ夫妻の心配もよくわかる。
良策だとは思うが、失敗すれば機械神は破壊され、私達も捕らえられ処刑されるだろう。
だが、上手く行けば私達の支持基盤は一気に広がる。アリスの人脈を活かして、私達は策の準備に取りかかった。
◆◆◆◆◆
策は見事に成功した。開戦1ヶ月で20もの国が降伏し、日和見を決めていた国々も殆どが機械神への支援を決めたのだった。
「さすがは軍事の天才ソティリオス。かように事が上手く運ぼうとは思わなかったでござる」
「市民の煽動は本望じゃないけど、機械神による革命はこれで一気に進んだと言えるよ」
私が実行した策。それは、不遇な立場に置かれた貧困層に機械兵を派遣し決起を呼びかけるというものであった。
機械兵の自動製作装置は完成していなかったが、試験運用を行った機械兵が数千体あったため、それらを利用しての策であった。
狙い通り、最先端の武器を備えた機械兵を前に各国の軍隊は敗走。寝返る兵も続出し、首都1つ落とすのに最大500体もいれば十分であった。
「これから新しい時代が始まる。マキナの、そして私達の理想の時代が・・・・・・!」
順調に運ぶ戦況。しかし私達はある急所を見落としていたことに気がつかなかった。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。