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夢を抱く少年 先達の軌跡 Glorious Feats (再投稿版)  作者: 磯別学園高校『空想世界研究部』なろう支部
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177 機械神の開発

 今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。

「これが、資料の中身になります」


 恭子は自分のカバンから細長い円柱状の機械を取り出してスイッチを押すと、資料と思しき書物の中身の映像が出現した。


「おお! SFで見たことがある空中映像が、俺達の目の前に!」


「世界的な破壊活動の中、火事や爆破で紙の資料は失われつつありますからね。反乱軍のほうで、入手した紙資料の電子化を進めているところなのです」


 紙資料の電子化か。俺達の世界でも最近パソコンが普及しつつあるけど、そのうちこっちの世界みたいに映像資料がどんどん広まっていくようになるのだろうか。


「では、内容をお伝えします」


 そして、ソティリオスと機械神の関係ーーひいては氏澄のその後もーーがついに明かされる。



 ◆◆◆◆◆



 さて、フリューゲルスベルクに来てから2年が経った。

 私の故郷――ペトラスポリスの滅亡の悲しみも少しは癒え、皆も未来に向かって日々邁進している。

 特に異国の武人――氏澄の素質と意気込みは目を見張るものがあり、今や世界的な技術者として名を馳せている。各国の政府からも技術開発の依頼が絶えず、私も彼らとの折衝に追われる毎日だ。

 

「氏澄、また依頼があったよ。メーア共和国で新しい製糸工場を作るから、最新の繰糸機(そうしき)を開発してほしいってね」


「承知。直ちに取りかかろう」


「……氏澄、無理してないかい? ここ数日休んでないようだし、そろそろ休暇を取っても良いんじゃないかな」


「お気遣い痛み入る。されど拙者が奮闘するは、マキナ殿とコロナ殿の遺志を実現するため。世界平和のための機械を作るには、金など幾らあっても足りのうござる」


「でもその前に倒れてしまったら、実現も何もない。私がなんとか交渉するから、今日は体を休めるといいよ」


「……承知」


 世界を平和にする装置、彼はそれを作るための資金作りとして、数々の依頼をこなしている。

 彼の覚悟は立派なものだ。だけど、その覚悟はいつもどこか冷たく感じる。大切な人を失った無念さと喪失感、彼の覚悟はそこから来ているのだと思う。


 でも私も彼と思いは同じ。私も秘書を――ワルワラを守ることが出来なかった。ただの秘書なら、ここまで胸が強く締め付けられることがあるだろうか?これはきっと、彼女に「ただの秘書」以上の感情を抱いていたからなのだろう。

 二度とこんな辛い経験をする人を生み出したくはない。軍才がありながら弟の陰謀に気づけず、愛しき故郷をむざむざ廃墟にしてしまった私だが、罪滅ぼしに彼に全面的に協力することにしよう。


 しかし氏澄に関して驚いたのは、技術者としての腕だけではない。その出自も、だ。

 私、そしてコヴァルスキ夫妻は彼の名前から豊瑞皇国の武人だと推定した。ところが実際は、異世界から召喚されてきた人物だという。しかも妖精族(フェアリー)の少女――アリス・エンダークが彼を召喚した張本人だと言うのだから、吃驚が止まらない。


「氏澄、自分の世界に帰りたいとは思わないのかい? 君は故郷では名の通った一族の嫡男なのだろう? きっと親御さんも君の帰りを待ち望んでいるよ」


「それは百も承知。されど、拙者はこの世界で成すべきことがござる。それを果たさずして、父上やマキナ殿に合わせる顔などござらん」


 彼の名前が豊瑞皇国風だったのは、たまたま同じような文化の国から来たため。「己の役目」にひたむきに取り組む姿勢も豊瑞皇国の民と瓜二つ。異世界にもかの国と似通った所があるものだと感嘆したものだ。


 そんな毎日を過ごしているうち、予算分の資金は貯まり、ついに世界平和の実現する機械の開発が始まった。名前は古の演劇手法と、氏澄に設計思想を伝授したマキナ・シュトラウスの名を取って「機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ」と命名された。

 私はマキナという男性を全く存じ上げない。しかし、氏澄や今や亡きコロナの話を聞く限り、世界平和に対する強い思いがあったようだ。もし彼が生きていたら、機械神の完成を必ずやお披露目できたことだろう。大変残念なことだ。



 機械神の開発が始まったのと同じ頃、ユスティナと妖精族(フェアリー)の女性――アリス・エンダークが聖光真聖会の布教を始めたらしい。しかもただ布教活動をしているのではなく、機械の神への信仰を深めさせるために新たな宗派まで作ったそうだ。

 古今東西、宗教や宗派の違いで戦争になることは珍しくない。私もそれを警戒して忠告したが、アリスは「巫女長の許可は貰っている」と言って布教に踏み切った。


 アリスも氏澄と同じく、いやそれ以上に腕の立つ技術者だった。氏澄が手先の器用さや道具の扱いに長けているのに対し、アリスは設計に天才的な能力を持っていた。

 魔導石を作るとされる妖精族(フェアリー)には技術者も多い。だがその中でもアリスの設計力は頭抜けたものであり、またそれは機械神の設計に不可欠なものであった。


 そういえば、氏澄は彼女に対してあまり良い感情を抱いていないようだ。

 彼女の設計者としての能力は認めている。が、彼女を見る氏澄の視線はいつもどこか冷ややかなのも事実だ。さらに氏澄はこの街に移住するにあたって、「アリスの件、くれぐれも油断なきように」と釘を刺してきた。


 思えば、弟――デメトリオスが故郷を殲滅した際、シュトラウス夫妻の遺児エルネスタを護ったのはアリスだそうだが、故郷殲滅のきっかけを与えたのもまた彼女だった。

 滅びの交響曲(テロス・シンフォニー)が街を滅ぼしたのは彼女が設計した魔力増幅装置があったため。元は我が先祖が故郷を護るために彼女に設計を依頼したものであり、彼女はその危険性を知っててペトラスポリス評議会に装置を破壊してもらうよう裏工作を行っていた。

 だから彼女を責めるわけにもいかないのだが、氏澄の「油断しないように」という言葉もよくわかる。

 

「聖光真聖会……拙者は彼の集団の真意を掴みかねてござる。此度の布教も、表向きは機械の神を信仰させるのが目的だが、何かしらの企てがあるに違いない」


 もっと言えば、氏澄をこの世界に召喚したのもアリスだそうだ。なんでも、故郷に帰るには彼女の魔法と聖光真聖会の祭壇が不可欠らしい。


 結局のところ、彼女の協力なしで世界平和は実現しない。彼女の動きに注意しつつ、開発を進めていくとしよう。


 

 ◆◆◆◆◆



 機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナの開発が始まってから1年が経った。

 

 やはり世界平和を力で達成する装置だけあって、その大きさは都市1つ分に相当することが判明した。

 よって、既存の都市にその巨大装置を置くのは現実的ではない。だから人家の少ない土地が望ましいのだが、オリエント砂漠は寒暖差が激しく、機械神が故障する恐れがある。


 そこで白羽の矢が立ったのが、シュトラウス夫妻の故郷、モントドルフ村であった。

 南北を渓谷に挟まれた寒村であり、東西に防衛拠点を作れば装置を護るのも容易になる。機械神を鎮座させるにはうってつけの場所と言えよう。


 とはいえ、最初は村人からの猛反対の嵐であった。


「俺達の村を奪うなぁ!」


「この小さな村にも歴史と伝統がある! それを壊されてなるものか!」


 彼らの意見ももっともだった。

 自分の生まれ育った地を追われるのは辛いもの。私自身、2度も故郷を追われ彼らの訴えが痛いほど心に沁みわたった。


 それでも氏澄が「これはマキナ殿とコロナ殿の遺志にござる!」と一喝して演説を行うと、村人達から移設賛成派が徐々に増えた。そしてアリスが、移設に賛成すれば村の伝統を守りつつ、村人全員に最先端の生活を送らせることを伝えると、ほぼ全員が機械神の移設に賛成することになった。

 アリスの説得もさながら、元から村中に氏澄の支持者が多かったことが説得の成功につながった。


「氏澄、ありがとう。君がいなければ村人は説得に応じなかった。本当に感謝している」


「否、これもすべてはマキナ殿とコロナ殿のおかげ。拙者はそれに乗っかったに過ぎぬ」


「上手くそれに乗っかることが出来るってのが凄いと思うなぁ」


 こうして機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナのモントドルフ村への移設作業が始まり、モントドルフ村は一気に近代的な都市へと変貌を遂げた。

 さらには機械神を収める"(キステ)"のある街を意味する「キストリッツ」へと名を改めた。


 機械神の移設はこれで成った。だが重要な問題が残されていた。

 核となる人工魂(AI)を動かせるほどの魔導石が未だに見つからなかったのである。


「アリス、君の能力でAIを動かせる魔導石を作ることはできないのかい?」


「新たな魔導石は作れる。じゃが、魔導石の錬成には限界があってのう。さすがに世界中の機械兵を制御する力を得るには、魔導石の力を数億倍にも増幅できる力を持った者の遺伝子が必要なのじゃ」


「ううん、手立てはないものか……」


 魔導石の力を数億倍に増幅させる。そんな能力の持ち主は古今東西聞いたことがない。

 私も増幅能力は持っているがせいぜい1万倍が限度。それだけあれば戦場では一騎当千も容易い。さらにその数万倍となると想像を絶する。 

 そんな能力を持った人はこの世界にはいないのか……。諦めかけていたその時、氏澄の発言が大きなヒントとなった。


「そう言えば、かつてペトラスポリスを始めて訪れた時、郊外で魔物と戦闘になったことが幾度かござる。その時、マキナ殿は槍を用いていたのだが、槍先の魔導石の力を使って魔物を次々と倒してござった。その戦ぶり、まさに鬼神の如し」


「その話が本当であれば、彼の娘エルネスタに可能性があるということだけど……」


「何を言っているんだよ? 彼女はまだ4歳。そんな小さな女の子に、世界平和の夢を託すなんてあってはならない!」


「ならばタデウシュ、ほかに選択肢はあると言うのか?」


「僕が探す! 大人の都合で、エルネスタちゃんに危険な実験はさせられない!」


「そうだ。ただでさえ、彼女は大人の都合で両親を失っている。辛い目に遭わせたくないのは私も同じだ」


 その後、私とタデウシュが中心となって目的の人物の捜索にあたった。

 どこかにその才能を秘めた人物がいて欲しい! その一心で、あらゆる人脈を使って調査を行った。

 だが芳しい成果は挙げられず、アリスの提案もあって結局はエルネスタが魔力増幅実験に駆り出されることになってしまった。


「も……申し訳ない、エルネスタ(ちゃん)……」


「おじちゃん、なかないで。エルネスタ、がんばる!」


「では、行こうかのう」


 私とタデウシュは己の力不足と不甲斐なさを嘆き、泣く泣くエルネスタをAIに近づけた。

 幼いエルネスタはこれから何が行われるかを理解できず、ただアリスの指示に従って実験に参加した。念のため、アリスは何重もの強力な防御魔法(シールド)をAIの周りに張った。

 すると、魔導石が突如眩く光り、一瞬にして全ての防御魔法(シールド)を破壊。余波が爆風となって周囲を巻き込んだ。


「……こ、これがエルネスタの力、なのか……?」


 成果は予想以上だった。

 計算上、最も強力な防御魔法(シールド)は本来の魔導石の力の10億倍まで耐える仕様だった。それすらも打ち破ったことが、何を意味するかは明白であった。


「ふむ、これこそ追い求めていた力。その小さき体、せいぜい世界のために使わせてもらおうかのう」


 こうして、エルネスタの遺伝子を魔導石に組み込む作業は着々と進んだ。1か月後には錬成が完了し、魔導石はAIに組み込まれ、稼働実験も無事に成功を収めた。

 小さなエルネスタの体には、遺伝子を抜き出すためにつけられた手術の痕が目立ち、それがあまりに心苦しかった。

 

 きっと、エルネスタは笑って許してくれるだろう。それでも私とタデウシュは、彼女をそんな目に逢わせた自分を許すことはないだろう。

 この罪を背負って、これからずっと私達は生きていく。ならば罪滅ぼしのために、彼女に誠心誠意尽くしていくことを誓おう。


 紆余曲折を得ながら、私達は機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ完成の一歩手前まで漕ぎつけた。

 まだ機械兵の自動製作装置は完成していなかったが、それさえ取り付ければ機械神が完全なる姿となって顕現する。


 だがそれを阻む出来事が起こった。機械神の開発に反対する勢力が、世界中で反抗の狼煙を挙げたのだ。

 次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。

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