175 叱咤
今回の執筆者は企画者の呉王夫差です。
「なぁ、テメェらは自分の言葉がどんな結果を引き起こしたか分かってんのか? あぁ?」
ヴァレイダムの制御室。今は反乱軍総司令官、アッキー・サンガの臨時執務室として使われているこの部屋で、アッキーはクロリスとイオカスタを説教していた。
しかしイオカスタはともかく、クロリスは反省の色を見せていなかった。
「なによ……あたしらを説教する気? かつての救世主だのなんだの知らないけど、無駄に歳食ったオッサンにあたしらの何がわかる……」
「甘えてんじゃねえよ!」
「ひっ!」
あからさまに反抗するクロリスに叱咤の声がまた浴びせられた。
『救世主』氏景は2人による威嚇と責任追及がきっかけで反乱軍から離脱した。仮にも総司令官だった氏景が辞めたことで兵士の足は止まり、早急な対応に迫られた。
『かつての救世主』アッキーとサライが幸いにもいたため、トップは氏景から彼らにすげ替えるだけで済んだが、辞任の様子をじかに知る主力部隊は士気の回復に時間を要する結果となってしまった。
親を失い、悲しみに暮れる姉妹の気持ちもわかる。だがその辛さを、勇気をもって異世界に来てくれた氏景達にぶつけて、自分の視界から排除したのはいただけなかった。
「フリューゲルスベルクの爆発事件の資料を読ませてもらった。テメェらの親が死んだのは、理事会の隠し施設の調査不足が原因だったってな。そして調査担当者はあの救世主のガキどもだ」
「……そうですよ。もっとちゃんと調査していれば、お父様は死なずに済んだ……」
「じゃあ聞くが、テメェらは想定外の未知の罠に引っ掛かって誰かに問い詰められたらどう思うんだ?」
「何が言いたいの?」
「いいから答えろ」
「……そんなのに当たったとしても、分かるわけないじゃない。予想できないものにどうしろっていいたいの?」
「だろうよ。そして爆発事件が起こった時のアイツらも同じ気持ちだったはずだ」
アッキーの諭すような口ぶりに、クロリスとイオカスタはハッとなった。
「アイツらだって、目の前にある施設が丸々爆弾だったなんて思わなかっただろうよ。そもそもこっちの世界に来たばっかで、魔法の仕組みや科学技術の水準を知るのに精一杯。
自分たちが引っ掛かるならともかく、複雑な条件設定で仮初の安全を確認させてから引っ掛けられたら、俺だってどうしようもねえ。ましてやあのガキどもが、あんな魔法と科学を組み合わせた巧妙な罠に気付くなんて土台無理な話だ」
アッキーもかつて機械仕掛けの神の暴走を止めに行ったとき、巧妙なダミー情報に惑わされ、メインシステムの部屋で爆弾の罠に引っ掛かりそうになったことがあった。
その時は急いで避難を試みたものの間に合わず、結果的に自分の父親を失った。
しかし、彼の父親とエグザルコプロス姉妹の父親には共通点があった。
ーー「一歩でも進め!」
--「む、娘を……クロリスと……い、イオカスタを……うっ……た、頼む……」
自分の命が危機に晒されている状況でも、彼らは自分よりも自分の子どものことを第一に考えていた。
結果的に彼らは命を落とすこととなったが、今わの際でも自分の運命を恨む素振りは全く見せなかった。
「アイツらに責任はねえ。それでもアイツらは責任を感じ、二度と同じ轍を踏まねえようにと必死にもがいて一歩でも進もうとしてやがる」
「……」
「だが、テメェらはどうだ? 現実から目を背け、いつまでも親父の死を受け入れず、ずっと立ち止まってやがる。そのうえ責任を救世主のガキに押し付け、結果的に奴に後ろ向きな決意をさせた。それが正しいことなのか? それがテメェらの親父の望むことなのか?」
「……」
「俺の説教をテメェらがどう感じるかなんて知ったこっちゃねえ。だがもう一度、テメェらがしでかしたことを振り返ってみることだ。……下がれ」
アッキーの説教が終わると、クロリスとイオカスタは俯きながら制御室を後にした。
そしてこの説教をきっかけに、姉妹はある決意の行動に打って出ることとなるーー
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。