167 西進
今回の執筆者は企画者の呉王夫差です。
「それでは、新しい人事を発表します。まず今日から2人、新しい幹部が入ることになりました。アッキー・サンガさんとサライ・アルコスタさんです」
「アッキー・サンガだ。俺が来たからには負けは許さねえ。神を騙るカラクリの怪物を叩き壊すぞ!」
「サライ・アルコスタです。前線に立つのは久しぶりですが、機械兵から皆を守れるよう努めます」
「2人とも反乱軍の昔の仲間で、かつて機械仕掛けの神の暴走を止めたこともあります。2人には南方からペトラスポリスに向かう部隊の指揮を行なってもらいます」
フリューゲルスベルクに置かれた反乱軍の本拠地で、新たな軍隊人事が発表された。
まず目玉となったのがアッキーとサライの参加。かつての救世主として名の知られている2人に、軍内の期待も高まっていた。
「これで新旧の救世主が同じ仲間となったのですね」
「氏景くんとはタイプが違う救世主だよね~。だからこそ、今までできなかった作戦も実行できそうだよね~」
そしてもう1つの重要人事。それは――
「それと先日殉職した故オズワルト・リーマン司令官に代わり、砺波氏景さんが反乱軍のリーダーとなります」
俺の反乱軍総司令官就任。これには会場もざわつき、期待よりも不安の声が多く寄せられた。
「……反乱軍の人って脳みそ腐れてるのかしら。あんな役立たずを総司令官って、おかしいんじゃない?」
「多分、実際には作戦を練るってことはしないと思うよ。だって、お父様の事件のこともあるし……」
特にエグザルコプロス姉妹とその支援者からはかなりの酷評を浴びせられた。
だが、それは就任前から分かっていたこと。戦いを通じてこの悪評をひっくり返す功績を打ち立てる他に方法はない。
「なお、砺波司令官の補佐官として私ことトリスタン・ノースブルックと佐藤恭子が着任します。それではよろしくお願いします」
唐突な人事異動に軍内の一部からは反発も起きたが、概ねトリスタンが発表した人事を認める人が大勢を占めていた。
有力幹部亡き後の新生反乱軍。果たして理事会と教団、そして"カラクリの怪物"壊滅に漕ぎつけることは出来るのだろうか――
◆◆◆◆◆
機械兵を全て失い、オリエント砂漠のオアシスが全滅したこともあり、反乱軍は砂漠の南北からペトラスポリスの再攻略を始めた。
まず最初に弾道ミサイルの寺院には5000の兵が置かれ防備に当たった。なお寺院の兵は全員男性であり、未だ子をなしていない巫女との生殖行為も任務に含まれていた。
「それでは留守は頼んだぞ。巫女長の指示を仰ぎつつ、子作りに励むのじゃぞ」
「はい、アリス様!」
「聖光真聖会、万歳! 万歳! バンザアアアアアイ!」
男女ともにスケベ心全開の笑顔で俺達を見送る。その光景は非常にシュールなものであり、ある意味では聖光真聖会の布教活動に役立っているのだろう。
だが彼らは気づいているだろうか? 天国であり地獄でもある生活がこれから始まることを……。
それはさておき、アッキーとサライの2人が指揮する南方部隊は快進撃を続けた。
「上官! 機械兵の大軍が現れました!」
「よし! ここは正面衝突を避けて、森林を楯に機械兵に十字砲火を浴びせるんだ!」
「上官! 別の機械兵部隊が現われました!」
「慌てるんじゃねえ。そいつらは支援用機械兵だ。殺傷能力は高くねえ。一網打尽にしちまいな!」
俺なんかと違い、的確な状況判断と命令で次々に機械兵を倒していく。力任せに機械兵と正面衝突する俺達より遥かに華麗な戦ぶりを展開する。
「いやはや、凄いものだねえ。さすが機械仕掛けの神の暴走を止めただけはあるねえ」
「おかげで僕達が前線に立つこともなくなってきたね」
「なんか、これはこれでつまんねえよな。緊張感もねえし、女の子にいいカッコするチャンスもねえし」
アッキーとサライがいれば部員が戦う必要もない。もはやそう思えるほどに、2人の指揮は的確であった。
そのため、作戦の度に『やっぱ俺って役立たずだよな……』と思いつつも、活躍の場を増やすために2人の戦運びを注意深く観察してはメモをとっていた。
「役立たずだ」で終ってしまっては、ここまでの戦いで死んだ人達に失礼である。ならば少しでも役に立てるよう俺達が成長するのみだ。
しかし、その後もメモが役に立つことはなく、戦闘は反乱軍優勢で進行。
そもそも俺が反乱軍総司令官となったことで余計に前線に立つことが少なくなり、戦闘は専ら他の人に任せる日々が続いた。
その間に、恭子とトリスタンは軍内の混乱を収拾。"救世主"がリーダーになった状況を利用した上でようやく達成されたらしい。
「俺達の活躍もあって、反乱軍の兵力は70万を超えたらしい。相変わらず4割の兵は現地で忠誠を誓っただけって感じだけど」
「恐らく今後も兵力は増えてくるだろうね。ただ、この状況を素直に喜んでよいものかどうか……」
勢力や支配地域が増加する一方、兵站の維持などの懸念事項もあがったが、無駄に兵を消耗しない戦術を取ったことで表面化を免れているのは幸いであった。
そして2カ月経った頃、反乱軍はペトラスポリスを再占領。津波で周囲が不毛な更地と化した職人の街に反乱軍の旗がたなびいた。
「ようやく戻って来れたね、この街に」
「もう街、じゃないですけどね……」
オズワルトの攻略作戦後も唯一残っていたペトラスポリス城も、土台だけを残して地上部分は消滅。かつての荘厳な面影はもうない。
だが、土台部分が残っているということは、地下の部屋も残っている可能性が高い。地下室にはペトラスポリス中興の祖、ソティリオスの書物があるため機械仕掛けの神の開発の経緯が分かるかもしれない。
ヨルギオスは死んでしまったが、クロリスとイオカスタは生き残っている。地下室の扉の開錠にはエグザルコプロス家特有の魔導波長が必要であるが、彼女達ならば開けられるかもしれない。
だが2人は俺を許してくれたのだろうか? 不安がよぎりつつも、俺は彼女達の説得に向かった。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。