165 合流
今回の執筆者は企画者の呉王夫差です。
「そうか……オズワルトさんや幹部が何人も亡くなったのか……。特にオズワルトさんは反乱軍創設時から知っている仲だったから、寂しいね……」
「ちっ。奴としては世界を救う戦で死ねて本望だろうよ。けど、残された俺達を置いてきぼりにするなんざ許せねえ」
大津波の一件を話すと、サライは目頭を押さえてかつての同志を偲び、アッキーもわざとらしく悪態をつきつつも表情を曇らせていた。
2人とも数年前の機械仕掛けの神の暴走で反乱軍の力を借りてたというから、俺達以上に彼らへの思い入れはあったのだろう。
「で、誰が新しいリーダーになったんだ? トリスタンの野郎か?」
「そ、そうです。でもあんまり軍をまとめきれてないみたいですけど……」
「だろーよ。根っからの軍人のオズワルトと違って、あいつはただの科学者だ。反乱軍で実戦経験を積んでるぶん素人よりは指揮できてるが、それだけだ。肥大化して混乱状態に陥った軍隊をまとめるなんざ、土台無理な話ってこった」
「今の総兵力は50万。並みの国の軍隊より多いからねえ。これをまとめるには、一国の最高権力者並みのカリスマは必要だろうねえ」
「あれ? 前に聖光真聖会を取り込んだ時は15万っていってたような……」
「ここ2、3か月で一気に増えたみたいだよ。3分の1は現地で反乱軍に忠誠を誓っただけの民兵だけど」
短期間で爆発的に兵士が増えたのか。それでは統率に支障をきたしているのも無理はないな。幹部も次々と死に、命令が細部まで届いているかも怪しい。
しかし一国の最高権力者並みのカリスマか……。生憎、今の反乱軍にそこまでカリスマに溢れた人間がいるだろうか?
恭子? そう言えば、シュトラウス公爵家の末裔で機械仕掛けの神にも直接触れる特別な人であり、カリスマも持たせやすい。だが、彼女は自分の血統をどこか隠したがっているフシがある。
クロリス? 確かに彼女も貴族の末裔だが……さすがに12、3歳の女の子にカリスマは持たせにくい。同じ理由でイオカスタも無理だろう。
アリス? 彼女ならば、長年の知恵を活かした巧みな戦術を展開できるだろう。だが聖光真聖会の人ならともかく、軍内では新参者の彼女の主導に大人しく従う兵士がどれほどいるのか?
ある意味カリスマという意味では、”救世主”として担ぎ上げられた俺こそ相応しいのかもしれない。
けど俺の指揮力に問題があるのは誰もが知っているところ。カリスマ担当は俺がやるにしても、別に兵を指揮する人間は必要だ。
やはり最古参でオズワルトの補佐官だったトリスタンぐらいしか適任者はいないのか……。
だが彼とて50万の兵を直接指揮できるわけじゃない。中間幹部の絶対数不足を補うには、アッキーとサライの協力が欠かせない。
「アッキーさん、サライさん。お願いがあります」
「あ? ガキがなにを頼むつもりだ」
「――反乱軍に幹部として戻ってきてくれませんか?」
「……え?」
俺の申し出に、アッキーもサライも目を点にして驚いた。
しかし、指導力が必要なのは最高権力者だけでなく中間幹部も同じこと。その点、アッキーとサライは機械仕掛けの神の構造を把握しており、実戦経験もある。"かつての救世主"として活躍した彼らなら、兵士もよくまとまるかもしれない。
「冗談じゃねえぜ。俺の右足を見てわかんねえのか? こんなチンケな義足で前線に立てるかってんだ」
「それでもです。俺達が機械の化け物を倒すには2人の協力が必要なんです」
「といっても、戦場から離れて久しいからね。歳も歳だし、当時の感覚を思い出すには時間がかかるよ?」
「だったら、時間がかかってもいいですから、感覚を取り戻して機械の化け物に迫りましょう。今の俺達には2人の力が欲しいんです」
「珍しく必死だなガキ。だがテメェの言葉にどれだけの重みがあるっていう……」
「アッキーさんは教えてくれましたよね? 『生きている人には役割があり、それを放棄して自分の人生の時間を無駄するな』と。今、俺達は2人にやってほしい役割があると思っています。それを捨てて自分やパン屋を訪れるお客さん、そして世界中の人達の時間を無駄にして良いはずがありません。ですから俺達に力を貸してください! お願いします!」
俺は、そして他の部員も2人に向かって深々と頭を下げた。
たかが頭を下げたくらいで簡単に頼み事をしてもらえるとは思わない。それでも、何も持たない俺達にはただ頭を下げることしかできない。通じてくれ。俺の――俺達の思い……!
「ちょっ、氏景君。いきなり言われても……」
「分かった」
「えっ」
「アッキーさん?」
「さっきまでタダの鼻垂れガキだと思ってたが、どうやら俺の教えを覚えてやがったみてえだな。いいさ、やってやろうじゃねえか。俺は反乱軍に協力する!」
俺達の思いを汲み取ってくれたのか、アッキーは強い口調で反乱軍への協力要請を引き受けてくれた。
もちろん突発的なお願いごとであったが、誠心誠意言葉にして彼の教えも含めて伝えたことが功を奏したようだった。
「でもその右足で本当に戦えるの? そもそも反乱軍から離脱したのも、足を失ったからじゃ……」
「うるせえサライ! 前線指揮じゃなくても、後方から命令を回すことはできる。なら、偵察兵の尻を叩いて情報をかき集めて作戦を練るまでだ」
「……ふう。ま、アッキーならそう言うと思ったよ。昔から『これだ!』と決めたら譲らない性格だからね」
「親父から受け継いだ性分だ。変える気はねえ!」
「じゃ、僕も反乱軍に戻るとするよ。アッキーが後方に回る分、僕は前線で指揮をとろう」
「あ、ありがとうございます!」
何はともあれ、意外な再会から反乱軍への合流にこぎつけるは出来た。あとは反乱軍の皆に彼らを紹介して、攻略戦を共に戦うまでだ。
「では、私もフリューゲルスベルクに戻ります。反乱軍の皆様には寺院を護ってもらいたいですから。さすがに、妊婦の巫女だけでは戦力が心許ないですからね」
「お、おう。そうだな」
「その前にあと何日かだけ、寺の中で私達を抱いてくださいませ。皆様♡」
休息の後、俺達は再び巫女をとっかえひっかえ抱く日々を過ごしたのち、フリューゲルスベルクへと戻ったのであった。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。