163 悲壮なハーレム
今回の執筆者は企画者の呉王夫差です。
体調も回復し、俺は外の様子を見るために城壁の門の前にいた。そこで俺は郊外の風景の急変に愕然とした。
「こ、これが……この街の郊外、なのか……?」
トリスタンの語った通り、郊外の森は消え、城壁の周囲は砂漠の砂で埋まっていた。どの方角を向いても、砂の海が地平線の果てまで続く。その光景は、フリューゲルスベルクがオリエント砂漠のど真ん中に丸ごと移ったかのようであった。
大津波が来る前はミサイルで破壊した理事会の機械兵の残骸が大量に散乱していたが、今はそれも見当たらない。
事前に話は聞いていたが、まさかここまで環境が一変していたとは……。俺は目の前の光景を受け入れるのに時間がかかった。
頑張って受け入れようとすると、「もう在りし日の光景はない」という重く辛い現実がのしかかってくる。
反乱軍も理事会も互いにこんなに壊し合って、何が手に入るというのだろうか?
戦えば戦うほど大事な物が失われていくばかり。でも『人口調整』という目的を相手が掲げる以上、どちらか一方が殲滅されるまで戦争は続く。妥協も降伏も許されない戦いの凄惨さは何度も味わってきたが、まだまだ甘かったようだ。
「戻ろう……」
これ以上留まると精神を病みかねない。俺は街の中へと戻っていった。
◆◆◆◆◆
『空想世界研究部』の他の3人も体調が回復したところで、俺達4人はトリスタンの指示で街の周辺の視察を行った。
だがどの街も、状況はフリューゲルスベルクの郊外と変わらなかった。違う所といえば、砂に埋もれた家屋があるかないかだけ。
むしろ町がまるまる砂の下に埋まっている分、状況はこちらのほうが酷かった。
「これ、町……なんだよな? 遺跡じゃなくて」
「数日前まで普通に人が暮らしてのに、こうもあっさり営みって消えるものなんだね……」
救助隊も必死の捜索を行なっているが、見つかるのは倒木か、津波や砂を飲み込んで窒息した死体ばかり。どの町でも生存者は1人も見つかってないという。
それどころか、理事会の航空型機械兵が再び侵入するようになり、その空襲を受けて殺される救助隊員が急増。救助活動を放棄した町も数知れないという。
さすがに絨毯爆撃の中に身を置けず、俺達は弾道ミサイルを発射した聖光真聖会の大寺院に身を寄せた。
「ここまで追いつめてなお容赦ない空襲……理事会はまだ人間を殺し足らないみたいだねえ……」
「トリスタン補佐官……おっと今はリーダーか。彼の話だと、『真紅の学園都市事件』以前と比べて世界人口は6分の1以下に減っているらしいね。でもそれでも彼らの『世界人口100万人』の目標には遠く及ばない……」
「つまりこの虐殺劇はまだ続くっていうのかよ……?」
「でも、都市という都市はもう破壊されつくしたんじゃ……」
「だから、これからは都市部ではなく、小さな町や村が標的になっていくんだろうねえ……」
今までも小さな農村が襲撃されることはあった。実際、俺達が最初のミッションで向かった村もそうだったし、アミリア近郊の村々も同じだった。
でもこの先はそんな村が主な襲撃対象となっていく。都市部から疎開できた人間がいたとして、彼らの身も安全ではなくなる。
はっはっはっは、俺ってやっぱ無力で役立たずだよな……。"救世主"として呼ばれた割りに、何も世界を救えてないじゃないか。
むしろ行動すればするほど、理事会のなりふり構わない大量虐殺を誘発するばかり。俺達が無理矢理ペトラスポリスを早めに奪還しようとしなければ、砂漠の民も他の町の住人も死ななかったことだろう。
それでも戦うしかないのは分かっている。侵略戦争は仕掛けるのはご法度だが、仕掛けられてしまっては最後まで抵抗するしかないからだ。
でも俺達には力が足りない。世界の人々を護る力が……。せめて、俺と同等以上の力を持つ人間があと数人でも多ければ……。
「――やっと気づかれましたか? 氏景様」
聞きなれた声に俺達はハッとなり、後ろを振り返った。
そこにいたのはアヤノ――そして大勢の聖光真聖会の巫女であった。その数は廊下を埋め尽くすほどの人数であった。
「アヤノ……ここにいたのか。フリューゲルスベルクにはいなかったからどこ行ったのかと思ってたけど、寺院にいたのか」
「それより氏景様は今、『自分と同等以上の力を持つ人があと数人いれば……』とお考えになったのではありませんか?」
「なっ……!」
「その顔……図星のようですね」
まさか心を読まれたのか? そうでなければ、今の言い回しがアヤノの口から出てくるはずがない。
「だから最初にあった頃にも申し上げたでしょう? 私は『氏景様の遺伝子を残す巫女』であると。今がその時ではありませんか?」
「うっ……!」
「おい……氏景、いつアヤノちゃんとそんな仲になったんだよ? おい……」
「晟様はお黙りください」
「え、あ……アヤノ、ちゃん……?」
アヤノの様子がいつになくシリアスだ。いつもの色仕掛けの発言、とは到底思えないな。
ただの色仕掛けの発言なら、こんなに大量の巫女を連れてくる必要もないわけだし……。
「理事会の冷酷な計画……それに対抗するには、子を1人でも多くなす。それ以外にはございません。その為に子作りに励むのは当然でしょう?」
「で、でも……俺には恭子という存在が……ハッ!?」
「やはり、氏景様の思い人は恭子様だったのですね」
「そ……それはその……」
「やっぱりそうだったのかい? 氏景……」
まさか、この状況で俺の好きな人が皆にバレてしまうとは思わなかった……。口にした途端、すごい恥ずかしさが全身にこみあげてくる。正直死にたい……。
だが、アヤノは俺の言葉をあっさり受け入れ、それでもなお俺達ににじり寄る。
「初めて会った時から、氏景様の恭子様に対する思い入れはひしひしと伝わっておりました。ですが、それでもいいのです」
「い、いやその……」
「でも私は申し上げました。『二番……いえ、何番でも構いません。いつかご寵愛くだされば』と。今がその時ではありませんか?」
「……!?」
「氏景様の必死に貞操を守る姿勢、素晴らしいことです。氏景様であれば恭子様もきっと幸せな家庭を築いてくれることでしょう。ですが事態は逼迫しています。世界中で多くの人々が亡くなり、人類は滅亡の危機に瀕しています」
「た、確かにそうだけど……」
俺はひたすらアヤノの発言に踊らされ、ただ戸惑っては頷くばかりであった。
「もはや貞操がどうの仰る場合ではございません。かくなる上は私をはじめ、ここにいる巫女全員と交わり1人でも多くの子をなし、残虐な人口削減計画に対抗しましょう。事情を話せば、恭子様も理解してくださるはずです」
「ちょっ、さすがに恭子を説得できるわけが……」
「なんなら、恭子様には内緒で子作り三昧の生活を送りましょう。健全な思春期男子なら一度や二度、夢見た生活ではないですか?」
「で、でも……俺1人でこんなに相手できない……」
「そうだぞ! 氏景ばっかりズルいぞ! 俺らにも分けてくれよ!」
視界に入っている巫女の数はざっと1000人以上。とても俺1人だと体がもたない。
山野は巫女ハーレムの折半を申し出たが、俺としてはむしろどんどん貰ってもいいと思っている。
貞操を守るために逃げ出すことも考えたが、周囲を巫女に囲まれた状態ではどうすることもできない。
「では、他の『空想世界研究部』の皆様も私達と子をなしましょう」
「……なっ!?」
「氏景様の優秀な遺伝子を残すのも大事ですが、人口を維持するのも大切です。さすがに氏景様お1人では効率が悪いですから、他のお三方もご一緒にどうですか?」
アヤノの突然の提案。俺以外の3人も戸惑いを隠せずにいる。
思春期男子にとっては性的な欲望を叶える願ってもない提案である。だが、相手の心を考えずに欲望に身を任せてしまってもよいのだろうか?
アヤノはともかく、他の巫女は本当に人口維持のための子作りに納得しているのだろうか? なまじ女性経験が皆無なだけに、そう考えずにはいられなかった。
特に中学時代は女子にもイジメられ避けられていた俺は、必死に言い訳を考えて傷つかずに断る方法を考えていた。
「皆様! これは遊びではございません!」
「……!」
「ここにいる巫女は、世界を救うために身を捧げる覚悟を固めた女性達です。どうか私達の本懐を遂げるためにも、協力を! お願い申し上げます!」
アヤノの最敬礼に続き、周囲の巫女も深々と俺達に頭を下げる。その下からは引き締まった真剣な表情が垣間見えていた。
もしかしたら、俺達はこのためにこの世界に呼ばれたのかもしれない。"救世主"として呼ばれて以来、機械仕掛けの神との武力討伐ばかりを考えてきた。
が、相手の『人口調整』という企みが明らかになった以上、子どもを沢山作るのも対抗措置と言えるのかもしれない。
俺達『空想世界研究部』の面々はついに決断した。
「……わかりました。俺達でよければ、協力させてもらいます」
俺達は口を揃えて、聖光真聖会の子作りに協力することを申し出た。
すると、アヤノを筆頭に巫女達の表情が徐々に明るくなる。
「その言葉を聞けて何よりです。不束者ですが、どうぞよろしくお願いしますね。それでは早速始めましょうか……寝床で」
巫女達に通され、寝床に案内された俺達。それから1カ月間、俺達は寺院で大勢の巫女を抱き、ひたすら熱い交わりを遂げたのであった。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。