16 魔導石と恭子の秘密
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
「これが魔導石……!」
白い鍾乳石の中、一段と眩い鍾乳石。
これが魔導石のようだ。
「ハハハ、これで俺たちも、とうとう自ら魔法を行使出来るようになる……!」
いやはや、部長の目の輝きは魔導石より高い光度だ。
やっぱり俺が魔法を発動させたところを見て、自分も我慢出来なくなってたんだろうな。
「恭子。お前の輝きは、魔導石にも勝る……」
「早いところ、すぐに回収致しましょう」
どさくさに紛れて山野が懲りずに口説くも、恭子の視点はすぐに五十嵐先輩に移っていた。
「僕としては、魔導石は黒光りしているのをイメージしていたけどね」
「それは、系統が別の魔導石ですね。こちらは、比較的扱いやすく、発動時間もあまりかからない魔法用の魔導石ですから」
「となると、威力はあまり期待できないってことかな?」
はしゃいでいた部長が、突然2人の会話に割って入る。
「それはちっと違うんだぜ、『救世主』さんよ」
「何?」
そしてさらに声をかけたのは、おそらく遅刻に定評(?)があると思われるぶっきらぼうな少年、ルクレツィオ・コニョラート。 これでも、今回の援軍を率いてきた反乱軍の幹部だ。
「単純に属性の問題だぜ。これはいわゆる『光』属性、または『水』や『風』といった、直接的な攻撃魔法や中程度までの支援魔法用の魔導石だぜ」
「と言うことは、黒い魔導石は、より複雑な魔法を扱うための代物なんだね?」
「本当は少し違えが、ざっくり言うならそんなところだぜ」
「ほうほう、なるほど……」
そしてキャラに似合わず、結構博学なんだな。
やっぱり、あのオズワルトから幹部に任命されるには、それなりの才能が必要なのかな?
「……」
部長と五十嵐先輩がルクレツィオの説明に耳を傾ける中、恭子は遠方から強張った目つきで、ルクレツィオを見ていた。
「恭子…………どうかしたのか?」
「……え、え? 私、何か変なことをしていましたのでしょうか?」
「いや、ルクレツィオを見る目が怖かったから……」
何か因縁でもあるのか?
俺は問いたださずにはいられなかったのだ。
「――――実は私、以前ルクレツィオさんと付き合ってたんです」
「え?」
すると唐突に、想定外の言葉を発した恭子。
「何ィ? 俺の恭子ちゃんに唾をつけていただとぉ!?」
「アホウ。いつからお前のモノになったんだ」
面食らう俺であったが、暴走する山野を制して、俺は恭子に話の続きを促す。
あのルクレツィオに対する他人行儀、どうも気になるんだよな。
「でも、付き合ってるうちに肌が合わなくなって、それで別れたんです。彼は、別れた後も以前と変わらない接し方をしてくれましたが、私はどうしても……」
「なるほど……」
「俺の恭子ちゃんを泣かせるたぁ、いけ好かない野郎だぜ」
それだけかな?
どうも俺にはそれだけでは収まらない、何かが有りそうな気がしたんだけど。
それもあの避けようから察するに、結構重大な理由が。
でも、ここでこれ以上訊く必要も感じないし、今は彼女の胸の奥にしまわせておこう。
「難しい顔してるねっ、救世主様っ」
「ん」
そんなに俺の顔が、モアイのようだと言いたいのか。
後ろから話しかけてきた少女の口ぶりに、俺は余計ムスッとなった。
「あたしの名前はプリヘーリヤ・アズレトヴナ・カスタルスカヤ! 自分でも長ったらしいと思ってるから、プリちゃんでいいよっ!」
げ。
性格に似合わずなんて難しい名前だ、コイツ。
「そんな顔してると、幸せ逃げちゃうよっ」
「余計なお世話だ。それに、そもそも俺に逃げられる幸せなんか無い」
「むう」
全く、変なことばかり口走りやがって。
おかげで反乱軍も遠くに行っちまったじゃないか。
……ってオイ! 俺たちを置いてくなよ!
てゆうか山野。アイツ、気配も出さずに俺から逃げるとは、どういう神経してるんだ。
「氏景。遅いぞ~、早くしろ~」
「待て、山野!」
「かわい子ちゃんとイチャイチャすんなー。ロリコンだと言いふらすぞー」
「にゃろう……」
そして何食わぬ顔で呼びかける山野。
俺はアイツの鳩尾に、パンチの一発でもぶち込みたいほどの衝動に駆られた。
しかしそんな気力も失せた俺は、プリヘーリヤを連れてメンバー一新された反乱軍に、黙って合流したのであった。
次回の執筆者は、アンドロマリウスさんです。