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夢を抱く少年 先達の軌跡 Glorious Feats (再投稿版)  作者: 磯別学園高校『空想世界研究部』なろう支部
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158 水資源を巡る争い

 今回の執筆者は企画者の呉王夫差です。

「やめてください! 争ってても良いことはありませんよ!」 


 オリエント砂漠最大のオアシス、アルカスバ。その入り口で争う民衆を見て、俺はいてもたってもいられず仲裁を買って出た。


「なんだぁ!? またよそ者かぁ!?」


「勝手に俺達の喧嘩に入ってくるんじゃねえ!」


「そうよそうよ! 外に人間がこれ以上入って来たら、本当に私たちの食べ物も水も無くなるわ!」


「なんだって!? 困るよ! 避難民ももっと増えるのに、そんな無責任なこと言わないでよ!」


「無責任って……それはこっちのセリフだ! ロクに働きもしねえくせに!」


「だったら仕事をくれよ! こっちだってオアシスの人達に恩返ししようと考えていたのに!」


 俺達に罵詈雑言を浴びせた後、再び互いに言い争う住民。殴り合いや取っ組み合いの喧嘩も勃発し、ついには暴動に発展。

 俺達の仲裁がかえって状況を悪化させてしまったようだ。


「俺は、この世界を救うためにやってきた"救世主"です! どうか俺に免じて喧嘩はやめてください!」

 

 しかし、このまま引き下がってはこのオアシスに泊まるどころか、中に入ることすらできない。俺は"救世主"という印籠を口にし、事態の収拾を図った。

 すると住民達は争いを止め、にわかにざわつき始めた。


「救世主って、あの……?」


「確か機械兵退治で活躍しているって噂の奴か……?」


「東方の街は皆あいつらのおかげで解放されたって話だぜ!」


 口々に俺達の噂を始める住民。これまでの戦果が砂漠の民にも知られているようで、"救世主"の名は暴動鎮静化に大いに役に立ったようだ。

 そして住民達が俺達に砂漠の陽気に負けない熱い眼差しを向けているところで、アルカスバの町長が現れた。


「暴動を止めていただき、誠にありがとうございます。さあさ、私の家にご案内しましょう」


 俺達は町長の厚意に甘えて彼の家を訪問することになった。

 町長は俺達に果物やコーヒーを振る舞い、アルカスバの現状を教えてくれた。


「アルカスバの人口はついに5万人を超えました。もともとこのオアシスで自給できる食料と水は1万人分が限界。中心部にはアルカスバ城塞があり、そこの泉の水も汲み上げていますが、とても急増する難民全てに供給できる量では……」


「やはり、水不足は砂漠中の問題のようだな……」


「先ほどのような大規模な暴動も一度や二度ではございません。急速な治安悪化はオアシスの懸念事項なのですよ……」


「町長さん、なんとかならないですか?」


「水さえ確保できれば解決できるんですけどね……。砂漠と言えど海から近い場所ならば、海水の塩分を抜く装置があれば水資源を賄えます。しかしここは海から400km以上離れた陸の孤島。その方法は取れません」


「ですが、かつてオリエント砂漠には浄水済み海水を沿岸部から輸送する地下パイプの建設計画があったはずでは?」


「それがあれば、アルカスバ以外のオアシスの水不足も解決できる……!」


「実は着工開始は半年前だったのですが、先んじて機械兵の殺戮が始まってしまい、計画は立ち消えとなってしまいました……」


 町長も現状を変えるべく、沿岸部以外にも湧水や地下水のある場所をあたってパイプ建設計画を打診したが、結局着工不能ということで水資源の問題を解決するには至らなかったという。

 俺達はその晩、町長の家の2階に泊まった。そして水不足と難民排除の問題を解決するため、寝室で相談をした。


「この際、反乱軍の力でフセヴォロドグラートやアミリアとかに移住させるのはどうだ? あの辺なら復興は始まっているし、機械兵の制御は俺達が握ってる」


「住宅や道路の整備に問題がありますが、そうするのが良いかもしれませんね。各オアシスに声をかけつつ、後でリーダーにも話しておきましょう」


「どのみち街の整備には労働力も必要だから、ちょうど良いかもねえ」


 砂漠の移住者は、反乱軍の活躍を知らない人も多い。機械兵による殺戮を恐れ、砂漠外部の様子を伝えるメディアが存在しないからだ。

 だからこの際、支配地域への移住を促せば反乱軍の支持者が増えるかもしれない。なにより、狭い地域でいざこざを起こして『人口調整』を名目とした大量虐殺を彼らにさせたくない。完全に闇落ちする前にケアするのも、俺達"救世主"の仕事だ。


 翌朝から俺達は街で宣伝を行った。最初は難民を中心に再移住に難色を示す人が多かったが、次第に俺達の説得に応じる人が現われ、数日後には移住希望者が3万人も集まった。

 俺達は疎外感に苦しむ難民と人口過多に苦しむアルカスバの街の両方を救った。


「なんとか上手くいったね」


「反乱軍が制空権も得たおかげです。そうでなかったら、今頃はきっと……」


「アタシたちの頑張りが功を奏したって感じだね~」


 俺達は互いの頑張りと成果を喜び合った。そして数日後、俺達はアルカスバの街を後にした。


「アルカスバの街も人は多いが、商店や工場はほとんどない。魔導石の採掘量が少ないことが、経済発展を阻害しているようだ」


「砂漠の民から見れば、避難民も水だけ奪って何も生まないよそ者の泥棒。両者の衝突から、治安も悪くなってるようじゃのう」


 その後も数々のオアシスを訪問したが、どこも人口増加に伴う水を巡る競争が激しくなっていた。

 理事会や教団の施設や関係者はほとんどいなかったが、自然発生的に『人口調整』を志す者が増えてしまっているように感じた。


 俺達は草の根の活動を展開し、地道に移住促進を行なった。その結果、オリエント砂漠全体で10万人以上もの移住希望者を集めることに成功した。


 そしてフリューゲルスベルク出発から30日後、俺達はペトラスポリスを望む台地に到着した。

 次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。

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