157 砂漠を行く
今回の執筆者は企画者の呉王夫差です。
俺達はフリューゲルスベルクとペトラスポリスの間にある広大な砂漠――オリエント砂漠を歩いていた。
降水量は少なく湿度はかなり低い。日本の夏と違い、ジメジメとした暑さではなく、カラっとした暑さであった。
とは言え、雪国北海道出身の俺達『空想世界研究部』の面々には堪えられないものがあった。
「あ、暑いよ……」
「太陽の光が肌を突き刺すねえ……」
俺達が暮らしていた北海道南西部は、真夏でも最高気温が30℃を超える日は少ない。
本州では最高気温が35℃以上なんて日も珍しくないが、ニュースや天気予報でしか知らないため、その気温が信じられなかった。
ましてやここは砂漠地帯。日中は気温が40℃を超え、長袖長ズボンじゃないと簡単に日焼けする。
ただでさえ酷暑なのに、日焼け防止のため暑い服装で歩かなければならないのがとても辛い。機械の化け物を倒すためとはいえ、正直もうリタイアしたかった。
だが、作戦を成功させなければ機械仕掛けの神に近づけず、エグザルコプロス姉妹と仲直りすることもできない。俺達は折れそうな心をなんとか発奮させて先を急いだ。
なお、他の部隊はオリエント砂漠の南北それぞれを流れる大河沿いに向かって進軍とのこと。砂漠と違い大都市も点在するため、それらを攻略しつつ進軍するそうだ。
3日後、俺達は最初のオアシスに辿り着いた。
「やっと休憩できますね……。砂漠は過酷と聞いてましたが、私もこれほど大変だとは思いませんでした……」
オアシスには地下水が湧いて出来た湖と、小さな村が一つあるだけだった。俺達は村の住人に事情を話し、一晩泊めてもらうことにした。
「大変だったろう、ここまで来るのは。この砂漠には都市と呼べる町が無いからな。おかげで機械兵は遠くに見かけるだけで全く来ないし、安全ではあるが」
宿となる白い石の家で食事をとる俺達。家の主人は俺達を労いつつ、砂漠の現況について話してくれた。
なんでもオリエント砂漠の横断は過酷であり、交通は砂漠の南北にある大河沿いで発達しているため、往来者は少ない。そのため、砂漠内のオアシスには大きな宿を構えている所も少なく、宿といえば小規模な民宿が殆どだという。
かつては砂漠の往来者も多かったが、機械兵が量産されてからは空をひとっ飛びで砂漠を通過できるため、宿泊業は衰退。今は僅かな冒険者がたまに訪れるだけだという。
なので、家の主人は俺達の来訪を喜んでいたのだ。
「ただ最近は砂漠中央部のオアシス、アルカスバに移住する人が増えているらしい。砂漠の外は血塗れ地獄だって聞くからな。身の安全を考えれば、機械兵の来襲に最も縁のないアルカスバの街が最適だ」
「ですがオアシスの水は、地下水を汲み上げたものが主体ですよね? 人口が急激に増えて水資源は大丈夫なのでしょうか?」
「いんや、多分大丈夫じゃない。アルカスバもオアシスの中じゃ一番大きな所だが、それでも歴史上人口が1万を超えたことはない。実際、そこに住む知り合いが、井戸の枯れるスピードが速くなって農業も生活もできないって困ってたな」
「もし地下水が枯渇したら、どうするつもりなの~?」
「さあね。噂じゃ、移住者を他のオアシスに分散させるつもりらしいが。数日間の滞在ならともかく、年単位で何万人も暮らせるほどこのオアシスの水も豊富じゃない。俺達の元に来ないとはいえ、機械兵の暴走が1日も早く収まることを祈るばかりだよ」
直接の被害はないものの、武力による人口調整は間接的に砂漠の民を苦しめていた。
理事会も教団も、大義名分上は『資源を守るため』に大量虐殺を敢行している。ならば、砂漠の水資源のことも考えるべきではないのか?
もっとも、彼らが砂漠に目を向けるようになったら、いよいよ砂漠の民も抹殺しかねないが。
一泊した後、俺達はまた砂漠を西へ西へと進み始めた。
約30日間、数々のオアシスを訪ねた。どこも最初のオアシスと同様小さな湖と集落があるばかりで、大きな街はアルカスバに着くまで全くなかった。
傍目には世界の喧騒を忘れ、のんびり生活しているように見える。が、ことはそう単純ではなかった。アルカスバに到着すると、俺達は言い争う住民の姿を見かけた。
それも1人、2人ではない。正確な人数は分からないが、何百人もの民衆が二手に分かれて互いを罵り合っていた。
「この街から出ていけ! もうよそ者を食わせるだけの食料はここにはねえ!」
「なんだと!? 俺達を見殺しにする気か!」
険悪なムードが漂うオアシスの街。彼らもまた人口調整の嵐に巻き込まれた悲しき人々であった。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。