156 拒絶する姉妹
今回の執筆者は企画者の呉王夫差です。
フリューゲルスベルク陥落から10日余り。ゲリラも徐々に理事会と教団の実態を知り、反乱軍に参加する人も増えている。街の復興も始まり、反乱軍に対し歓迎ムードも出ていた。
だが、俺達の心の傷は依然癒えていなかった。3万人以上が死亡した爆発事件、それに伴うヨルギオスの死から俺達は立ち直れずにいた。
「あ、あの……クロリス、イオカスタ。オズワルトが話したいことがあるって……」
「話しかけないで!」
「……っ」
あれ以来、クロリスには徹底的に嫌われ、避けられている。
以前から良い印象を持たれてはいなかったが、隠し施設の起爆装置を見つけられなかったことがヨルギオスの死に繋がったことから、俺だけでなく部員全員を避けるようになった
「行くわよイオカスタ。あんな人達といると、あたし達まで命を奪われるわ」
「……うん」
イオカスタも姉に同調して、俺達と顔を合わせようとしない。この10日間、彼女と直接言葉を交わした記憶もない。
話をしようとしても、クロリスがすぐに現われ、俺達を罵ったあとに妹を連れてどこかに消えてしまう。
「氏景さん、気を悪くしないで下さい」
「恭子?」
「父親を失ったばかりで、まだ現実を受け止めきれていないのだと思います。私も両親を失ったばかりの頃はあのような感じでしたから」
「そうなのか……」
恭子も機械兵に両親を殺された身。あの姉妹のように、誰とも会いたくないと考える日々があったのかもしれない。
でも辛いのは俺達も同じだ。ヨルギオスには兵の指揮や音楽の知識、この世界の歴史を教えてもらった。
反乱軍にとっても重要だった指揮官。彼を失ったことで、作戦立案に支障が出始めていた。
しかし立ち止まっている暇はない。ヨルギオスのように、今日も理事会や教団の連中に殺されようとしている人たちがいる。
彼らを助けるため、俺達は新しい指令を受けることとなった。
「これより軍を三手に分け、ペトラスポリスを目指す。救世主達は最短ルートでペトラスポリスに向かってほしい」
反乱軍は兵の大半をヨルギオスの故郷、ペトラスポリスに向かわせることを決定した。
兵士の数が増えてきたとはいえ、機械兵が跋扈する中、他地域を制圧するには時間がかかる。
悠長に構えては犠牲者は増えるばかり。そこで電撃的に重要拠点を奪い、機械兵による大量虐殺を早期に止めるべく今回の進攻作戦が立てられた。
オズワルトの指示は単純明快であった。そして最も過酷なルーティングでもあった。
「あの……よろしいでしょうか、リーダー」
「恭子、質問があるなら申し上げろ」
「最短ルートは確かに距離は短いですが、砂漠や土漠が点在する過酷な道。オアシスこそ幾つかありますが、とても大軍を派遣できる環境では……」
不安に感じたのか、進軍に難色を示す恭子。俺だってそんな過酷な道を進みたいとは思わない。日本に山紫水明の国で巨大な砂漠なんてないからだ。
それでもオズワルトはこの作戦に意欲を示した。
「だからこそ、理事会もこのルートを通ってペトラスポリスを攻撃するとは思うまい。オアシスはどれも小さく、敵の機械兵もほとんど寄りつかないと聞く」
「ですが……」
「それに我々は機械兵の制御装置の一部を得ている。ペトラスポリス攻略には機械兵の運用も考えている。そして機械兵が通るルートというのが、今回お前たちに行ってもらう道だ」
確かに理事会の機械兵がいないということは、進軍中に敵襲を受ける恐れが無いということ。人間と違い、機械兵ならば水も食料もいらない。通常通り、魔導石をタンクに入れれば済む話だ。
「今回のお前たちの仕事は、進軍ルートの調査だ。本当に安全に機械兵が進めるかどうか確かめてほしい」
あれ? でも俺達って専用の機械兵を持っていたっけ? いくら進軍ルートの安全を確かめたところで、機械兵がいなければ意味ないような……。
「なお機械兵については、理事会から鹵獲したものを使用する。制御装置をハッキングしたことで、反乱軍支配地域周辺の機械兵は我らのものとなった。機械仕掛けの神との接続も解除作業が進んでいる。理事会のハッキングを免れるのも時間の問題だろう」
「あれ? でも確保している制御装置はフリューゲルスベルクのものだけですよね? この街から離れると制御が効かなくなってしまうんじゃ……」
「鋭い質問だ。そこで、陸上戦艦の内部に機械兵の制御装置を取り付ける工事も始まっている」
さらにオズワルト曰く、地下施設で建設中の陸上戦艦とともに機械兵の製造も始まっているらしい。この2つの兵器を使って、キストリッツの東を守るペトラスポリスの攻略にあたる。
「そういえば、クロリスとイオカスタはどうなったのだ?」
「そ……それは……」
「いや……聞いてすまなかった。我々としても気がかりではあったのだ」
オズワルトも俺達とエグザルコプロス姉妹のことは心配してくれていたようだ。
「今は万言を尽くしても効果はあるまい。今回の作戦が終わった頃にもう一度話し合うといい」
オズワルトは俺達4人の頭をポンと撫でた。
ペトラスポリスはエグザルコプロス家の街。彼らの故郷を取り戻すことで、仲直りのきっかけになればいいんだけど……。
翌日。俺達は支度を整え、フリューゲルスベルクを後にし過酷な砂漠地帯の旅を開始した。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。