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夢を抱く少年 先達の軌跡 Glorious Feats (再投稿版)  作者: 磯別学園高校『空想世界研究部』なろう支部
154/194

154 崩壊する統括理事会

 今回の執筆者は企画者の呉王夫差です。

 フリューゲルスベルクから西に700km。機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナの御膝元の街キストリッツ。

 街、と見なされるものの、他の街と違い市街地の建物はすべて廊下で繋がっていた。


 家も、商店も、工場も、ビルも、空港のターミナルも、軍事基地も、そして機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナが納められた巨大な地下施設も、すべてが一体化した街。

 廊下は全区間で動く歩道が設置され、住民は移動にさほどエネルギーを要しない。機械の神のおかげで労働力はすべて人工知能が担当し、住民は労働から解放された暮らしを享受していた。


 ただし、廊下は機密性の高い施設にも通じているため、居住できるのは理事会と教団関係者のみ。移住には厳しい審査をパスせねばならず、住民が外に出るにも外部の人間が街に入るにも許可が必要で、正当な理由がなければその許可も下りない。

 世界を司る神の街ということから、理事会本部と教団総本山もあり、閉鎖性の強い都市であった。


 だが、東方の一大拠点が陥落したことで、この街にも大量虐殺の嵐が吹き荒れることとなる――



 

「――さあて、この落とし前……どうやってつけてくれるんだろうね?」


「あ……あ……あがっ……」


 薄い闇に包まれた一室。白く光る銀の銃口。そして――轟く銃声。


「ぐああああああああああああああっ……!」


 恐怖に染まった悲鳴が部屋と廊下を駆け抜ける。

 薄暗い部屋には、一人の蒼い髪の少年と、額や胸に風穴の開いた無数の死体。死臭と血の臭いが少年の鼻をつく。


「やれやれ、これだから無能は嫌いなんだよね。使えないくせに、食料や資源を無駄にするんだから。抹殺にも銃弾や魔導石が必要だし、ああいやだいやだ」


 理事会幹部、エーリッキ・ヒルトゥネンは理事会事務員と教団の修道士を粛清していた。「無能は死あるのみ」、理事会の方針に従い作戦失敗の要因となった可能性のある(・・・・・・)人物を捕えさせ、粛清部屋に入れたところで地獄に送る。


「ヒルトゥネン執務官、粛清対象者を捕えました」


「ご苦労」


 エーリッキの部下が、男女の別なく殺害対象とされた人物を1人、また1人と粛清部屋に連行する。

 そしてエーリッキは拳銃に球を込め、銃口を連行された人間に向ける。


「やめて……! 助けて……!」


「俺にチャンスを……生き延びるチャン……」


「死にな」


「きゃああああああああああああ……!」


 最後まで訴えを言わせることなく、エーリッキは容赦なく銃弾を彼らに浴びせる。

 悲鳴は途切れ、流れる血とともに彼らの手足が力なく垂れる。


 エーリッキは粛々と人間を冥府に送る死神と化していた。


「チャンスなんてものはない。ヘマした時点で、この世に生きる価値はない。それだけだよ」


 吐き捨てるように、死体となった彼らを侮辱した。


「執務官、しかしよろしいのですか? 処刑なら機械兵にでも任せればよいのでは?」


「そうです。そのほうが効率も良いでしょうに」


「まあ、この部屋の天井は低いし、機械兵は中には入れないからね。街中での殺害は後始末が大変だし。それに……」


「それに……?」


 部下の問いかけに、エーリッキは口角を最大限に上げ、凶悪な笑みを浮かべて答えた。


「無能でムカつく身内は、この手で始末したいんだよ。ねえ? フセヴォロドさんもそう思うでしょ?」


 部下の後ろから、黒服姿のフセヴォロド・ネステレンコが現われる。

 顔は傷や痣だらけ。服も靴もボロボロで裂けており、痛々しいほど沢山の包帯が巻かれていた。


「災難だったね。無能な部下のせいで街は陥落、学園都市の奪回はおろか戦線の押し上げも叶わず、機械兵も大勢失った。フセヴォロドさんも部下を粛清したほうがいいんじゃない?」


「エーリッキ……無能とはいえ、せめて身内のミスぐらいは大目に見るべきではないのか?」


 フリューゲルスベルク陥落直前、フセヴォロドは隠し施設の地下から急いで脱出した。

 重要資料の運搬を部下に任せ、自分は地下通路のワープ装置から郊外の森に出て、遠くで待機していた航空機械兵に乗ってキストリッツに退避した。

 老体の身。体のあちこちを虫に刺されては、足を木の根に引っ掛けて転ぶなど、非常に慌てた様子での逃避行であった。


 道中、部下の必死の励ましもあってこの街に来れたため、フセヴォロドは若く血気にはやる幹部を諭した。


「え? なんで? 働き者にせよ、怠け者にせよ、無能な輩はただの穀潰し。有能な人間の肥やしになるべきだよ。フセヴォロドさんもまだまだ甘いね」


「それが汝の答えか。しかし無能な者もいずれは成長して有能な人物となる。汝もそうして成長したのではないか?」


「……かもしれないね。でも人口削減が最優先のいま、いちいち無能人間の成長を待っている暇はない。いずれ人口調整が必要になる日が来ることは分かっていたはずだ。それに向けて対策をしなかった彼らが悪いよ」


「左様か」


「でもまさか、機械の神と有能な人間を統括するはずの理事会に、これだけ無能が溢れかえっていたなんて。ぼくは正直悲しいよ。はっはっは!」


 しかし、エーリッキには響かない。むしろ、自分の正当性をかえって強める発言を促しただけであった。


「それより、オクサナと源治郎さん(・・・・・)はどこに行ったんだ? ここで落ち合う予定だったけど」


「彼らは教団の調査に向かっている。件の修道士……名前は何だったか?」


「ヴェレッシュ・ミクローシュだよ」


「そのような名前であったな。ともかく、2人は教団が彼奴を我らが元に送り込んだ理由を調べている。今頃、キストリッツの大聖堂にいるはずだ」


「……そうかい。ぼくも後で彼らのところに行こう。フセヴォロドさんはペトラスポリスの防衛計画をまとめてね」


「承知した」


 エーリッキは一通り粛清を終えると、フセヴォロドに死体処理を任せて2人のいる教団施設へと向かった。 

 次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。

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