152 理事会関係者の行方
今回の執筆者は企画者の呉王夫差です。
俺達は報告のため、理事会のビルを攻撃中のオズワルトの元へ向かう。
俺達が到着する頃には、ビルは既に占拠され、数名のゲリラ兵が捕虜となっていた。
隠し施設のことを伝えると、オズワルトはヨルギオスに命じてすぐさま兵士を例の廃工場に派遣した。
「ご苦労だ救世主達。ビルも占拠でき、理事会の完全撤退も確認できた。あとはゲリラに宣伝放送を行えば投降する者も増えよう」
これでこの街も解放されたことになるのか……。俺達はほっと胸をなでおろし、他の反乱軍の構成員は換気の声をあげる。
「そう言えば、理事会の重要人物を発見することは出来たのですか?」
「残念ながら発見には至らなかったが、上級幹部が数名出入りしていたのは確かなようだ」
「その中には、救世主も会ったことのあるエーリッキ・ヒルトゥネンや、学園都市フセヴォロドグラートの創設者フセヴォロド・ネステレンコの名前もあったぜ。全員、反乱軍の進攻直前までに街を出てたみてえだが」
「ふせぼ……って誰だ? それにその苗字、なんか聞いた事があるような……」
「フセヴォロド・ネステレンコ。まあ、救世主達は会ったことねえだろうが、理事会の最高幹部の1人で機械仕掛けの神の運用方針の策定にも関わっている老人だ」
「救世主さま、名前聞いた事あるって言ってたけど、どこで聞いたの~?」
「あ、いや……」
ネステレンコ、ネステレンコ……なんか異世界の人の名前って覚えづらいのが多いな。
ネステレンコ、ネステレンコ……そうだ、例の総本山で見た氏澄の記憶にあった女の子の苗字がそうだっけ。確か名前は……ワルワラ・ネステレンコとかだっけ。
あれ? でも彼女は若くしてペトラスポリスの内戦で亡くなったはず。子どもがいた様子もなかったし、彼女の子孫と言う訳ではないのか?
「なあ、ルクレツィオ、プリン。ワルワラ・ネステレンコって名前、聞いた事あるか?」
「なんだよ唐突に」
「その名前がどうかしたの~?」
「いや、単純に前にその……理事会の資料でチラッと見たから気になっただけだよ」
さすがに、氏澄の過去を見たと正直に言うことは出来ない。本当の理由を少しはぐらかして、俺は2人に質問した。
「俺も詳しいことは知らねえ。ただ、機械仕掛けの神創設のきっかけとなった内戦に参加し戦死した女だ。あと、フセヴォロドの先祖らしいな」
「え? でも俺の見た資料……だと、20歳ぐらいで死んだって」
「なんでも、内戦前に1人子どもがいたって話だ。そいつは物心つく前に母親が死んで、父親も不明だからかなり苦労の多い人生だったみてえだ」
「昔は結婚も早かったからね~。15歳くらいで嫁入りなのが普通だったみたいだし~」
あのワルワラに子どもがいたのか。思い返せば若いわりに芯の強い女性だったが、子どもが既にいたからなのか?
「俺が知ってるのはそこまでだ」
「ありがとうルクレツィオ。少しすっきりしたよ」
「どういたしまして。そういやあ、例の女スパイの消息は分かったのか?」
女スパイの情報か。隠し施設には、それらしい情報は全く見つからなかったな。
「いや、こっちは特に……。そっちは」
「こっちもサッパリだ。そもそも外見じゃ誰が女スパイか分からねえからな。幻視の魔道具で姿はなんとでもなるし。ただ理事会から離反した連中の話じゃ、このビルにも奴が出入りしてたみてえだが」
「そっか……」
「ビルには入室記録を取る機械もあるが、奴は消息を徹底的に消すため何枚もIDカードを持ってたらしい。他の街の入室記録を追っても、奴の追跡は難しいだろうな」
痕跡を消すため細部にも気を配っていたのか。プリヘーリヤの娘、オクサナは何故そうまでして理事会と教団に協力するんだろうか?
女スパイの行方は俺達も気になる。だがそれ以上に興味深い事実が明らかとなった。
「そういやあ、入室記録の情報から分かったことだが、理事会もあんたらの世界から1人召喚してたみてえだな」
「え、俺達の世界って……"地球"?」
「ああ。名前は御厨源治郎。例の女スパイと同じく、理事会と教団のために諜報活動をしてたみてえだな」
み、御厨源治郎……? それって、その名前って……俺達が通う磯別学園の理事長と同じ名前?
なぜ理事長が統括理事会に協力を……? いやいや、同姓同名の別人って可能性も……。
「……ちなみにその人、いつから理事会に協力を?」
「さあな。だが、2年以上前からってのは確実だ」
「そうか……。じゃあ、俺も彼について……かは分からないけど、知っていることを伝えるよ」
俺は自分が通う学校の理事長が『御厨源治郎』であることを伝えた。理事長の姿は入学式で1回見ただけだが、自分の学校のトップが異世界に召喚され、残虐な政治集団に手を貸しているなんて信じたくない。信じたくなかった。
だが、現実は俺の期待を裏切った。
「そいつで決まりだな。理事会の資料には、そいつの副業が『私立高校の理事長』だと書かれていた。まさかその私立高校が、お前らの通う学校だったなんてな……」
なんてこった……。理事長といえば、俺と同じく氏澄の子孫であり、氏澄の生涯を調べさせるべく『空想世界研究部』の創部を許可した人物だ。そんな人が俺達の敵に協力してるだなんて……。
理事長の裏の顔に俺は落胆せざるを得なかった。さらにそんな俺に追い打ちをかける事件が発生してしまった。
「緊急事態発生! 緊急事態発生! 理事会の隠し施設で大爆発が発生! 付近に大きな被害が出ています!」
「なんだと!?」
マズい、隠し施設には反乱軍の部隊がいる。そして彼らを率いているのはヨルギオスだ。早く彼らを助けに行かねば!
オズワルトの指示で、俺達は例の廃工場へ急行した。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。