148 理事会と教団の支持者
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
「ご苦労であった皆。機械兵が掃討されたお陰で、フリューゲルスベルクの攻略が容易となった」
ミサイル発射から5日後、オズワルトは俺達に労いの言葉をかけた。
「トラブルはありましたが、何とか火力強化と発射にこぎつけました」
俺達は今、フリューゲルスベルク手前の森に来ている。
ミサイルの威力は凄まじく、城壁調査時にはウヨウヨいた機械兵の姿は全く見かけない。おかげで、反乱軍野営地も城壁近くに置けるようになっていた。城壁も、フィルターは消滅し城門は既に開かれている。
「アリス殿の調査報告もあって、城壁の制御装置をハッキングするプログラムを作ることができた。ハッキングは無事成功し、大勢の兵が城壁内に突入している」
「ほう? 優秀なプログラマーがいたものよのう」
「ああ。ルクレツィオと俊が中心となって開発したのだ」
凄いことするな、あの2人。
プログラミングは難しいと聞く。ルクレツィオはともかく、この世界のプログラミング言語には疎いはずの部長まで関わっているとは……。短期間でどれだけ知識を吸収してるんだ、あの人。
「ただ、理事会側の抵抗が激しく、市街地の攻略は1割に留まっている。理事会の固有戦力は殆ど残ってないのだが、理事会支持者の市民とマキナ教団の信者がゲリラ戦を展開しているのだ」
「理事会と教団の支持者が? あの虐殺集団を応援している市民がいるって、変じゃないか?」
「アンタのことは気に食わないけど、その意見には賛成するわ。自分達だって殺されるかもしれないのに、支持する理由って何なの?」
クロリスが珍しく俺の意見に同調する。俺に言わせれば、なんで彼女が俺のことをそこまで嫌うのかも変な感じがするんだが。
「ゲリラに加わる者は、無駄がなく統率の取れた動きでこちらを翻弄している。小隊戦闘なら並の軍隊を上回るだろう」
「だからあの街の住民は、理事会の保護対象とされた『優秀な人材』だと俺達は踏んでるってわけだ」
「ルクレツィオ……」
「よっ、救世主さんよ。元気にしてたか?」
ルクレツィオも久しぶりに見た気がする。ここ最近は作戦に同行する機会も減っているし、彼の近況も伺いたいところだ。
しかし、街の住民が『優秀な人材』となるとかなり厄介だな。
何しろ、世界90億人から選抜された100万人だ。俺達の世界でいえば、進学校や旧帝大クラス以上の人間ばかりが集まっていることになるのだ。地頭では俺は完全に負けている。
そして何よりゲリラの構成員が、機械兵でなく人間というのも俺達の戦う意義に揺さぶりをかけている。
「へっ。『人殺しはしたくない』って顔してるな」
「……当然だ。機械仕掛けの神や機械兵以外とは戦いたくない」
俺も部の皆も、本来は機械の化け物と戦うためにこの世界に呼ばれている。だから、自発的に人間を殺すなんて俺にはできない。
かつて理事会に雇われたテロリストを虐殺したことがあったが、あの時の狂った自分には二度となりたくはない。
すると、オズワルトは「救世主に別の仕事を用意している」と声をかけた。
「実は市民の中には反乱軍を支持する者もいる。氏景殿は彼らと連携してゲリラの情報を入手し、出来れば構成員を反乱軍側に寝返らせてほしい」
「俺達を支持? 市民は理事会と教団の保護対象じゃないのか?」
「彼らの中には理事会と教団の思想に疑問を持っている者や、市民の安全を保証できなくなった理事会に不信感を持っている者もいる」
「そもそも独立心が強く、資産家育ちの連中ばかり。理事会と教団に協力してるのも人口調整の利益を期待してるからで、別に忠誠心があるからじゃねえ」
「ならば、反乱軍側につく利を喧伝すれば、こちらに靡くものが増えるという計算か」
フィルターも機械兵も消え、城門が全て開いた街は裸同然。今は抵抗できてるが、攻略地域が増えれば、退路を失ったゲリラ兵の説得は簡単になるというわけか。
しかし情報収集という仕事を与えようとは、オズワルトも俺に人殺しをさせまいと必死に頭をひねってくれた結果なのだろう。感謝しなくては。
「既に俊、匡輔、晟の3名がその仕事に当たっている。救世主もすぐに加わるように」
「わかりました」
部長も言ってたけど、戦争は情報戦が8,9割。直接戦闘こそないが、これも戦いなのだ。
"人を殺さない戦い"。その火蓋が切って落とされようとしていた。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。