145 寺院の弾道ミサイル
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
出発から3日後、俺達は弾道ミサイルのある聖光真聖会の寺院に到着した。
そこは総本山に負けず劣らずの巨大な宗教施設で、本堂や修行施設、修行者の寮など数十もの建物から成っていた。アヤノの話では、滝行用の滝まであるという。
深い森の中に突如現れた建物の群れに、俺達は面食らった。
「ここが、ミサイル発射装置のある場所……か」
が、ここで一つの疑問。
「でも、どれが発射装置のある塔なのでしょうか?」
寺院内の各施設には、必ず1つ以上の塔がある。特に本堂は6つも塔があり、どれも上端が尖った細長い円筒形であった。
「なんか、仏塔っていうより、モスクの尖塔って感じだよな」
「おお! 晟くんが珍しく知識を披露している~!」
「さすが、私の未来の夫だ!」
「未来の夫は余計だって。でもまっ、俺にとっては朝飯前ってことよ!」
山野の知識量はともかく、お寺の五重塔みたいな建物がないことは確かだ。
ただ、異世界の宗教施設といえど、俺達の世界のものと似ている部分が多いのも事実。どこに神秘性や威厳を感じるかは、どこの世界でも同じということか。
「塔が6つあるのは宗教的な意味もあります。ですが、他にも目的があるのです」
「目的?」
「なんなんだろ……。お姉ちゃん、わかる?」
「ああ、わかったわ。塔を沢山作って、本物の発射装置がわからなくなるようカムフラージュしてるってことでしょ?」
「せ……正解です。クロリス様、よくおわかりになって?」
「ちょっと考えればわかることよ。なんで反乱軍の戦車や戦闘機は全部壊されたのに、ここの発射装置はなんで無事なのかってね」
クロリスの言うことももっともだ。反乱軍には元・陸軍士官のオズワルトや、オドレイ、トリスタンをはじめ技術者も揃っている。機械兵の妨害さえなければ、ミサイルの発射装置も容易く扱えることだろう。
「うう……私が説明しようとしていたことを取られました……」
「アヤノさん、そう落ち込まないでください」
「うう……お役目を奪われたこの思い、恭子様ならおわかりいただけるでしょうに……」
地面で泣きながらいじけるアヤノ。クロリスに正解を言われたことが相当悔しかったようだ。
ていうか彼女のいう恭子の「お役目」ってなんだろうか? 機械仕掛けの神の調整員……だけじゃなさそうだが。
ただ、それでも疑問は残る。単純なカムフラージュなら、反乱軍でも思いつきそうなもの。それでも反乱軍の施設や大型兵器は破壊され尽くしたからだ。
「ただ、クロリスの回答ではまだ3割も説明できておらぬがな」
「3割?」
「ふん! どうせ12歳のお子さまの頭じゃ、300歳越えの不思議ババアの考えなんて読めませんよーだ!」
「お、お姉ちゃん! それ言い過ぎ……」
「クロリス、お主あとで折檻じゃな」
「なっ!」
「ここの巫女は厳しいからのう。わらわが折檻を命じれば、容赦はすまい」
「うう……このバ……人、ずるいんだけど」
「『ババア』と言いかけたから、折檻2倍じゃな」
「はあっ!? 『バ』としか言ってないのに?」
「お主が反論できる流れかと思うかぇ?」
「う……ごめんなさい……」
逆ギレしてアリスに噛みついたクロリスだったが、アリスの経験と権力には叶わなかったようだ。
「ともかく、ミサイルは聖光真聖会にとって統括理事会やマキナ教団に対抗できる最終兵器の1つ。だから機械兵に自動探索されないよう、わらわ直々にステルス装置を開発し、装備させたのじゃ」
「ステルス装置……それがあれば、確かに機械兵による一方的な破壊は食い止められますね」
「もちろん、ステルス技術はお主ら反乱軍にも伝えてある。せいぜい使い潰してくれい」
それは良いことを聞いた。ステルス技術があれば、工場や戦車、戦闘機を完成前に破壊されずに済む。兵力がまだまだ不足している俺達には嬉しい限りだ。
「とはいえ、そもそもここのミサイルは城壁と合わせて、フリューゲルスベルクの街を守るためのもの。統括理事会もミサイルの存在自体は知っておる。だから、破壊するより奪取したほうが良いと判断したのか、この寺院に幾度となく攻め入ってのう」
「ただ、ここの巫女長の軍才もあり、多大な犠牲を出しながらも守り抜いてきました」
良く見ると、各宗教施設には爆撃の痕と思しき穴や修復部分が至る所にある。陥落を免れたとはいえ、この寺院も過酷な世界情勢からは逃れられなかったようだ。
「で、肝心の発射装置は結局どこなんだ?」
「焦るな。わらわが直々に案内するからついて参れ」
本当の発射装置の場所はまだ秘密か。まあ、反乱軍に敵のスパイが紛れているという話がある以上、外でうっかり漏らすのも危険か。
寺院の中に別のスパイでもいたら秘密にする意味もないだろうけど。
俺達はアリスの先導で、寺院内の地下道から発射装置のある塔へ向かった。
ぶっちゃけ、地下道を歩いているから、どの施設の塔へ向かっているかは分からない。ただアリス曰く、「発射装置の制御室は地下道経由でしか行けない」らしいので、これもカムフラージュの一貫なのかもしれない。
そうこうするうちに、俺達は制御室に到着した。
「ここが、制御室か……」
「この部屋の発射ボタンを押せば、機械兵を殲滅できるんですね……」
「では、参ろうかの」
弾頭1つで100万機の機械兵を一掃できる。そんなミサイルをボタン一発で発射できる機械を前に、にわかに緊張感が高まる。
俺達は固唾を飲んで扉を開けた。
「機械兵、覚悟しろ……!」
だが、ゆっくり開かれた扉の先に待っていたのは、無残に破壊された制御装置と、
「あら、随分と遅い到着ね」
桃色の髪をしたオフショルダートップス、ショートパンツの美女であった。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。