144 クセの強い花畑
今回の執筆者も企画者の呉王夫差です。
「はっはっはっ! 氏景、ついに俺達の時代が到来したな! な!」
機械兵殲滅のため、弾道ミサイルの発射装置がある寺院に向かう俺達。
その中、山野は隣で恍惚の笑みを浮かべながら、俺の背中を叩く。いつも通りのシリアスブレイカーぶりに、俺は「はぁ」と溜め息ばかりが出る。
だがコイツの性格上、この状況に爆笑するのも無理はない。なぜなら……
「氏景さん、こうして一緒に作戦に参加するのも久しぶりですね」
恭しく俺の右で微笑む恭子。
「氏景様、作戦が終わったら、私と水入らずのひと時でも……」
同じく微笑みを向けながらも、言外に俺を捕食しかねない雰囲気を漂わせるアヤノ。
「晟、君との久々の屋外デートが楽しめるとはなんという僥倖! アリス殿には礼を言わねばな!」
山野の左腕に自分の右腕を絡ませ、すっかりデート気分のオドレイ。
「救世主様も晟くんも隅におけないね~。ヒューヒュー!」
傍から見れば羨ましい限りの俺と山野の状態を盛大に冷やかすプリヘーリヤ。
「まったく、この2人の何がいいのかしら? アタシにはさっぱり理解できないんだけど」
平常運転のツンツンぶりを見せるクロリス。
「お姉ちゃん……もっと、温かい目で見守ってあげようよ……」
こちらもいつも通り、クロリスの毒舌を止めるイオカスタ。
「ふむ、なかなかに面白き絵面じゃな。眼福眼福……」
そして、生温かい目でやや遠くから俺達を見守るアリス。
お気づきだろうか? 今回の担当者は、俺と山野以外、全員女性なのである。この山野が喜ばないわけがない!
高校では機会に恵まれなかった女子に囲まれるという展開に、俺も嬉しい限りではあるが。でも俺的には、恭子にもっとグイグイ来てほしいというか……。
「さてとお主ら、浮かれるのはよいが、目的は忘れてはおらぬじゃろうな?」
「う、浮かれてなんていませんよ! 目的だってちゃんと覚えてます! ほら、アヤノさんもオドレイさんもひっつかない!」
「こ、これは失礼しました」
「ううむ、もっと晟の体温を感じたかったのだが……」
いきなり赤面してアヤノとオドレイを叱る恭子。あの冷静な恭子がここまで感情的になるなんて……やっぱりアヤノが俺にくっつき過ぎなのが原因か?
それより、アリスの人選はあまりに突飛と言うほかない。ここまで女子を集めて彼女は何を企んでいるんだ?
100万機の機械兵を殲滅するには今のミサイルでは火力不足だそうだが、火力を上げるだけなら恭子やオドレイがいれば十分だ。単純に護衛目的なら、もっと屈強な人材を選べばいいわけだし……。
「まあ、全てはついてからのお楽しみじゃ♪」
アリスに質問しようと思ったが、本人にあっさり遮られてしまった。
彼女の胡散臭さは今に始まったことじゃないが、胸のモヤモヤが晴れないのはなんとももどかしい。
仕方なく俺は別のことについて質問する。
「そういえば、聖光真聖会って全部で何人の信者がいるんだ?」
「全世界でざっと30万人ですね」
「30万人? なんか思ったより少ないような……。統括理事会と敵対したり、ミサイル持ってたりするから、もっと大きい教団なのかなって」
「まあ、機械仕掛けの神が完成してからはマキナ教団が世界宗教になったからのう。そもそもマキナ教団自体も聖光真聖会から分派したものじゃし」
「え? そうなの?」
「わらわとしては機械仕掛けの神の存在を利用して教勢を伸ばすつもりじゃったが……こればかりは誤算じゃったわ」
そうだよな。計算高いアリスが、何の利益もなしに機械仕掛けの神の設計に関わったりしないもんな。
だがそれが見事に裏目に出たことまでは計算できなかったようだ。
「そういえばさ、プリちゃんの娘さんって見つかったカンジ?」
「うう~ん、全然情報はないんだよね。本当、どこで何をしているんだろう……」
「プリヘーリヤさんの娘さんって今は幾つなのでしょうか?」
「確か、恭子ちゃんや晟くんと同じくらいだと思うけど……」
プリヘーリヤの娘か。そう言えばそんな話もあったな。確か3歳の時にパンチ1発で屈強な男の骨にヒビを入れたとか、だっけ。
母親曰く「あんまり心配はしてない」そうだが、凶暴な機械兵がうごめくこの世界。安否は気になるところだ。
「なんで娘とはぐれたワケ? 住んでた街で大量虐殺があったからって、完全に行方の見当がつかなくなるのもおかしいんじゃない?」
「お姉ちゃん、もっとプリヘーリヤさんの気持ちを酌んであげようよ……」
「大丈夫だよ、イオカスタちゃん。それに娘とはぐれたというより、もともと一緒に行動はしてなかったというほうが正確だし」
「一緒に行動してなかった?」
「うんっ。事件前まではフセヴォロドグラートも平和な学園都市だったからね。事件当時も高校に入りたてのあの子は友達の家に遊びに行ってたから」
「じゃあ、友達の家に死体とかあったんじゃないの?」
「ちょっと、お姉ちゃん。死体って……!」
「ううん。反乱軍の人たちも一生懸命捜索してくれたみたいだけど、あの子の遺体はどこにもなかった。それに事件で生き残った人はみんな反乱軍に参加したから、あの子がいたらもう発見しているはずだから……」
「私も娘さんらしき方は見ていませんね……」
結局、生死不明であるという事実に変わりはなしか。プリヘーリヤの娘、無事に発見できるといいんだけど……。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。