142 城壁の調査
今回の執筆者は企画者の呉王夫差です。
出発から3日後。俺達はようやくフリューゲルスベルクに到着した。
思いの外、道中での機械兵との遭遇がなく、順調な行程であった。
だが、肝心の目的地はと言うと、完全に機械兵の巣窟と化していた。
現場の地勢は、かつて郊外の住宅街が広がっていたと思しき更地と、その真ん中にポツリと存在する"城壁"。
その周りを、人間大の機械兵が地上に空中に視界を埋め尽くすほど跋扈していた。
「うわあ……これは壮観だねえ」
「こんな状態で、どうやって"城壁"を調査すればいいんだ……」
俺達は更地の外にある森の木陰に隠れて、状況を観察していた。
だが、この機械兵だらけの状況を突破する方策が見つからず、俺は呆然とするばかりであった。
しかしここで、ヨルギオスがある作戦を提案する。
「こういう時こそ、転移魔法『ムーヴ』の使い時ぞ。アリス殿が『ムーヴ』を使って城壁に近づいて調査している間に、ワシら3人は同じく『ムーヴ』を使って機械兵を散発的に攻撃する」
「なるほど。特に氏景は魔力が強いから、散発的な攻撃でもかなりの打撃を与えることは出来るわけだねえ?」
「その通り。少なくとも、機械兵を城壁の防備から逸らすことはできるであろう」
ヨルギオスさん、その作戦を実行すると、機械兵が俺のところに集中しそうな気がするんだが……。
安全な調査環境を作るためとはいえ、自分が槍玉に上がるのはどうも好きじゃないが。
だが、アリスが突然「その必要はない」と宣言した。どうやら、アリスが"目覚める"時が来たようだ。
「『ムーヴ』を使うなら、むしろ全員で城壁に近づいて調査した方が効率的じゃろうて」
「いやいや、アリスさん。全員で城壁に近づいたら、確実に蜂の巣にされそうな気がするんですけど……」
「わらわを誰だと思っておる? あの城壁の設計者じゃぞ?」
「いやいやいやいや! 設計者とか関係なしに、俺達の命がマジで危なくなるって! マジで!」
「わらわがいなければ、その能力も使えなかったくせにのう」
「いやいやいやいやいやいや! それとこれとは別だから!」
突拍子もない作戦を思いついたり、先祖ネタで冷やかしたりして、こちとらツッコミが追いつかない。
どこか胡散臭い雰囲気が漂うアリスのことだから、何か考えがあるんだろうけど……。
「ふん、まあよい。先日、反乱軍の者が申してたじゃろう? この城壁は、制御装置を用いて魔導石のエネルギーを使って街全体をフィルターで覆うとな」
「うむ、申していたな」
「実はフィルターは城壁から数メートル離れた位置で展開しておる。所詮は中世の城壁。いくら補強した所で機械兵や現代兵器に耐えるには限界がある」
「なるほど。あえて城壁から少し話すことで、城壁と制御装置が傷つかないようにしてるんですねえ?」
「そういうことじゃ。見方を変えれば、城壁とフィルターの間には外部からの攻撃を一切寄せ付けない空間ができるということ」
「ふむ、『ムーヴ』を用いてその空間に侵入すれば、フィルターが勝手に機械兵の攻撃を退けて我らは安全に調査を行なえる。アリス殿も面白い設計をしたものぞ」
「ただ、弾丸やミサイル、エネルギー砲などは弾くのじゃが、機械兵本体は進入できてしまう。そこでお主の出番という訳じゃ。氏景」
アリスが俺の肩をポンと叩く。
この世界に何カ月も入り浸っているおかげで、難しい話にも少しはついて行けるようになった。が、どうやら露払いが俺の任務であることに変わりはないようだ。いいさ、やってやるぜ!
「わかった。護衛は任せてくれ」
「よし、それでは行こうかのう」
「ラジャー!」
俺達は『ムーヴ』を使って、城壁の近くに瞬間移動した。
◆◆◆◆◆
「さて、機械兵は数分と経たないうちに、わらわたちの存在に気づくであろう。当面はわらわが調査をしつつ、氏景、俊、ヨルギオスが機械兵を撃退する。そして撃退しきれなくなったところで、『ムーヴ』を使って城壁の別の場所を調査する。よろしいかのう?」
「うむ。承知致した」
「では、始めようかのう」
無事、城壁とフィルターの空間に入った俺達。そして早速、調査が始まった。
そして、”俺達の戦い”も幕を開けた。
「くっ、来たか!」
「皆の者! 戦闘用意ぞ!」
アリスが予め伝えた通り、5分足らずで機械兵が俺達の存在を感知。夥しい数の機械兵が城壁に押し寄せる。
俺は二丁拳銃を構えて、静かに魔力を込める。
「おりやあああっ!」
両方の拳銃から放たれる大きな魔力の塊。その塊は、フィルターの内側に入るか入らないかの水際で大量の機械兵を粉砕する。
「氏景、威力調整が上手くなったねえ」
「日々の練習の成果ですよ。それより部長こそちゃんと戦えるんですか?」
「おっ、氏景も煽るねえ。でも、俺も負けちゃいないよ~」
不敵な笑みを浮かべながら部長は、ロケットランチャーの様な形の武器を取り出す。
そして照準器を覗きながら、前方の機械兵の大群に狙いを定める。
「まあ見てなよ。これが部長の戦い方さ」
するとロケット弾にあたる部分から大量のエネルギーの塊が放出。空中を真っ直ぐに進みながら機械兵の大群に着弾し、粉砕する。
部長もあのオドレイから自分用の武器をもらったのだろうか?
「ざっと、こんなもんかねえ」
「うむ、救世主殿も俊殿もなかなかの戦ぶり。ワシも奮起せねばな」
ヨルギオスは懐からオーボエのような楽器を取り出し、綺麗な音色を奏でる。
すると、目の前の機械兵の制御が突如狂い、いきなり同士討ちを始めた。
「おお、どうなってるんだこれ……」
「簡単な原理ぞ。機械兵とて動力源は魔導石。形式ごとに必要な魔導石は決まっておるから、その波長を狂わせる音色を奏でれば勝手に暴走するということぞ」
「機械兵を狂わせるのに、そんな方法があったのですか!」
「もっとも、波長を狂わせるには楽器自体にも魔導石が必要なことは変わらぬが」
得意気に語るヨルギオス。彼とて、音楽で名を馳せた一族の長。実に心に沁みる素晴らしい演奏であった。
だが、同士討ちをしている機械兵の上から、新たな戦闘機型の機械兵が俺達に襲来する。
「氏景、いくよ~!」
「了解です」
その後も俺達は幾度となく迫りくる機械兵を撃退。調査に励むアリスを必死に護衛する。
ただ、多勢に無勢、俺の二丁拳銃の連射回数の限界が来るたびに機械兵の攻撃に対して無防備になるため、その都度俺達は場所を移動しながら調査を続けた。
「……っ、また連射限界だ」
「うむ、移動ぞ」
「もう少し調査したいが、致し方あるまいな」
その調子で城壁の調査は一日中続き、日が暮れたタイミングで郊外の森へ撤収。調査をなんとか終えた俺達だったが、全員魔力虚脱状態に陥っていた。
次回の執筆者も企画者の呉王夫差です。