139 「空想世界研究部」創部の裏話
今回の執筆者も、企画者の呉王夫差です。
前回更新から3か月経っていますが、決してエタったわけではありません(笑)
だが、地平線がどこまでも広がる平野、ということは道中には何もないということ。
長い戦乱の影響か、村らしい村はなく、点在していた都市は全て荒廃。
それ以外の場所も針葉樹林ばかりが続き、道中の楽しみになりそうなものはなにひとつなかった。
そこで時間つぶしを兼ね、俺は入部以来ずっと持っていた疑問を部長にぶつけた。
「そう言えば、なんで空想世界研究部の創部って許可されたんですか?」
「どうしたんだねえ氏景、いきなり」
「確かに部長が『空想世界』の研究に熱をあげているのは、誰もが知っていることです。でもそれが、学校の正式な部活として認定されたのが、どうも俺には分からなくて……」
何しろ、部室の中は正式な部活動として相応しい佇まいとは思えないからだ。
怪しげなオカルト雑誌に、ファンタジーもののマンガやアニメのDVD、ゲーム。部長の趣味として科学の本や実験器具も机の上に重ねられている。
部員以外の人間にはお遊びで創ったようにしか見えない。
一応、作業用のパソコンも揃えられてはいるが……。
「はっはっは。昔、匡輔や他の同級生も似たようなことを言ってたよ。先生方も最初は反対していた。でもね、最終的には理事長の一声で許可されることになったんだ」
「理事長が? なんで?」
「表向きには、『生徒の自主性を重んじる』という校訓に従ったことになっている。けど実際はそうじゃない。もっと別の裏の事情があったからなんだ」
そうして、部長は『空想世界研究部』の創部の裏側について語り始めた。
~side部長~
あれは、俺が校長先生に、何度も創部届けを出しては断られていた時の事だった。
「――だから、何度来れば気が済むのだ」
「ですから、ちゃんと活動内容を提出用紙にしっかり書いたじゃないですか」
「馬鹿者! そのふざけた活動内容の部活が許されると思ってるのかぁ!」
聞き分けの悪い生徒だと思われていたのか、かなりの剣幕で怒鳴られてな。
何度も粘り強く打診した俺も、さすがに「もうダメか」と諦めかけていたんだ。
でもその時、校長室に突然、理事長――御厨源二郎さんが入ってきたんだ。
「まあ、いいではないか校長先生。認めてあげてなさい」
「り、理事長! しかしこの空想世界研究部とやらの活動内容は……」
「わしにとっては、その活動内容とやらに興味があるのだ。さ、木山君、理事長室に来なさい」
「は、はい……」
俺は理事長についていくまま、彼の執務室に向かった。
あの時は、ほとんど顔合わせすらしてこなかった理事長に、活動内容に興味を持ってくれたことに驚いたよ。
校長先生はひたすら「理事長! 気は確かなのですか!」と叫びつづけていたけどね。
◆◆◆◆◆
理事長室に入った俺は、早速ある資料を手渡された。
文体から恐らく明治初期の本だったろうね。そして理事長は俺に驚愕の事実について教えてくれたよ。
「――実は、わしは個人の趣味で自分の御先祖様にあたる幕末志士ついて調べている。といっても、世間には殆ど名を知られていないがね」
「え……?」
「だが我が御厨家には、ある家伝があってな。なんとその幕末志士は異界に迷い込んで、そのまま世界の危機を救った、というものなのだ」
「滅亡の危機から救った?」
「わし自身は直系ではなく傍系の子孫なのだがな。わしの家には代々、そのような書物が伝わっておる」
俺は理事長に促されるまま、その書物を読んだ。するとそこに書かれていたのは、西洋風の剣と魔法のファンタジーの世界。
しかも主人公は幕末志士。俺はその点に強く惹かれた。
「もちろん、このような伝承を歴史学会に提出したところで、嘲笑されて無視されるのがオチ。そこで木山くん」
「はい」
理事長が、空想世界研究部の創部を認める条件として出したもの。それは――
「――わしの代わりに、ご先祖様の秘密を探ってくれ」
それはつまり、多忙の理事長に代わって、御厨家の伝承の真偽を確かめることであった。
「時間はいくらかかっても構わん。とにかく、研究テーマとして取り上げてくれればそれでよい」
その時の理事長の眼光は鋭く、本気度がよく伝わった。
そして俺自身も非常に興味をそそられる内容だった。だから――
「……わかりました。引き受けます」
俺は、理事長の条件を飲むことに決めた。もしかしたら、俺自身の研究テーマである『空想世界』に繋がるかもしれないと思ったからだ。
「おお、ありがたい。ではまず、『異世界が実在するかどうか』を探ってほしい」
「了解です」
こうして『空想世界研究部』は、磯別学園高校の正式な部活動としてスタートすることになった。
まずは異世界が存在する決定的な証拠を発見する必要がある。そこで俺は、異世界に関する本を沢山読み漁るようになった。
――まさかその半月後、本当に異世界に来ることになるとは思わなかったけどねえ。
~side部長、終り~
次回の執筆者も、企画者の呉王夫差です。